居場所をつくるということ。〜20卒やめたい垢より〜

20卒やめたい垢。


私がその界隈の存在を知ったのは5月の暮れごろだった。
入社早々在宅勤務が続き、研修もすべてモニター越し、やっと出社したはものの同期とはバラバラ、会社は別世界のようで、部署の先輩たちは親切だがどこかよそよそしい。
この状況下で飲み会に繰り出すわけにも行かず、私たちはただ陸の孤島にいるような思いで慣れない日々を懸命に送っていた。
苦しいのはみんな同じ。
頭ではわかっていたが、心を覆い尽くす孤独と不安を拭うことはできない。
あの感染症さえなければ、週末に友だちと憂さ晴らしをするくらいはできただろう。
お互い大変だね、なんて笑い合いながら、また次の約束を楽しみに1週間を乗り切れたかもしれない。


だが全ては想像上の話だ。
現実では感傷を横目にタスクが淡々と積み重なっていく。
焦りと不安は募り、抑うつ気分へと変化していく。
しかしそれをぶつける場所もなく。
せめてもの救いを私はSNSに求めた。
死んだ魚みたいな目で検索欄に「20卒」と打ち込むと、スペースの後にすぐ「辞めたい」とサジェストが示された。
驚いた。
私みたいな人がここにいる?
いやでも、私なんかよりずっともっと過酷な環境_____いわゆるブラック企業にいる人たちの叫びかもしれない。
私みたいな甘ちゃんとは、全然違う人たちかもしれない。
しかしサーチして出てきたのは実に個性豊かな「やめたい」という嘆きの数々だった。
「お局がクソ」「先輩は優しい、悪いのは私」「ホワイトだけど辞めたい」「明日会社爆発してないかな」
彼らは皆が皆特殊な環境にいるわけではない。
ただ、コロナ禍という特殊な状況を共有する仲間たちだ。
同期とすらモニター越しにしか会話をしたことがない現状で、SNS上に溢れる嘆きの数々に、いつしか同期と同じくらい______いやそれ以上に親近感を覚えるようになった。
ここに来れば、つながれる。
会社ですら自分の居場所を見つけられない私が、ここでなら落ち着くことができるかもしれない。


そしてそれからひと月ほど経った頃。
私はいよいよ「20卒やめたい垢」を作成した。
言い方は変だが、やめたい嘆きの数々に私はとても救われてきた。
ひとりじゃないと思えた。
現状は良くならない、むしろしんどさが増す一方だ。
だけどこの嘆きが誰かの糧になるなら、私も心の内をつぶやいてみよう。

こうして私の突貫工事の「居場所」が完成した。
現実に居場所を作るのが死ぬほど下手な私が、SNS上にものの5分でつくれた。
最初は片っ端から同じやめたい垢さんをフォローするなど、色々迷惑もかけた気がする。
共感できることは全部「いいね」で反応した。
同じくしんどそうなフォロワーさんに声をかけた。
手づくりの居場所が少しずつ、好きなものを集めた箱庭へと変わっていった。

現実は変わらない。
だけど私には帰る場所がある。
そう思うと自然と勇気が湧いてきて、同時に自分の陥っている状況のおかしさにも気が付けた。
(その辺の話はまたいつか。)
今までだったら1人で耐えようとして、きっと耐えられなくて、最悪の形で思いが爆発していただろう。
その危うさに一歩手前で歯止めをかけた。

これからどうなっていくのかはわからない。
だがいまの私はお守りを持っているような心待ちだ。
きっと苦しいこともいろいろと待ち構えているだろう。
でも、前よりは怖くない。
居場所を見つけるということ…いや、
居場所をつくるということ。
それが文字通りずっと手軽になったいまの社会に感謝しながら、一歩ずつ進んでいきたい。

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