ダンス・フロア
『ダンス・フロア』作:細谷
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南(ミナミ)
→笹川の後輩。笹川を構い、笹川に構われる日々を送っている。
本人には言わないが、笹川に心酔している。だが笹川とは違い、着実に堅実に仕事をこなすタイプ。不愛想で口が悪いが、笹川には割と懐いている。笹川がコロッと死にそうで心配。
『死ぬなら俺が営業成績で勝ってからにしてほしい』と思っている。
笹川(ササガワ)
→南の先輩。一見すると仕事に対して不真面目でやる気がなさそうに見えるが、営業成績に対してかなりの執着があり、目標達成の為なら手段を選ばないところがある。
他人に対して煽るような言葉を吐くが、その分自分に対しての要求も高い努力家。
カフェイン漬けの毎日を送っている。奇行がひどい。
南(男):
笹川(男):
笹川 ズンチャッ。ズンチャッ。
南 笹川さん。
笹川 ……おー。南。どうした。
南 それはこっちのセリフです。
いい加減やめた方がいいですよ。それ。
笹川 なんで?
南 後輩たちが怯えてるんですよ。
笹川さんが階段の踊り場でノリノリで踊ってるって。
笹川 踊り場だぞ?
踊らなきゃ損だろ。
南 そういう意味の踊り場じゃないですから。
何か危ない薬でもやってるんじゃないかって噂になってますよ。
笹川 危なくないよ。
ただのビタミン剤と、カフェイン剤。
これを噛み砕いてエナドリで一気に流し込む。
すると即キマる。
南 やめなさいって。そのうち本当に死にますよ。
笹川 それはみんな同じだろ。必ず死ぬんだから。
それが早いか遅いかだけのお話。
南 屁理屈ばっかり言って。
仕事サボって何やってるんですか。
笹川 見ての通り。踊ってる。
南 それは見たら分かる。
聞きたいのは、なんで踊ってるのかってこと。
笹川 楽しいから。
南 仕事中ですが?
笹川 南はお堅いな。
南 笹川さんがふざけ過ぎなだけです。
笹川 大丈夫だよ。仕事はちゃんとやってるし。
タバコ休憩みたいなもんだよ。
南 また屁理屈言って。
笹川 屁理屈も押し通せば理屈だ。覚えとけ。
南 それ、許されるのアンタだけですよ。
笹川 違う違う。みんなやらないだけ。
南 アンタは、ウチのエースだから。
他の奴らとは違うんだってこと、ちゃんと自覚してくださいよ。
笹川 自覚、ねぇ。
南 それに、あまりにも奇行が目立つと、かばい切れないですから。
笹川 南ぃ。
南 はい。
笹川 俺がいつ、お前に、かばってくれなんて頼んだかな?
南 それは、あの。
笹川 ……なーんて。冗談。
南 ……性悪(しょうわる)め。クビにでも何でもなっちまえ。
笹川 悪かったって。
お前は相変わらず冗談通じないな。愛想も悪いし。
笑顔は営業の基本だろ?
ほれ、ニコッと笑ってみ。
南 嫌ですよ。楽しくないのに笑ったり出来ないです。
笹川 たまには馬鹿になった方が良いぞ。
南 馬鹿やりながら契約獲れるほど、俺は優秀じゃないんです。
笹川 気をつけろよ。柔軟性のないやつは、折れるから。
南 はいはい。
笹川 俺の真似してくれたっていいんだぞ~?
南 誰がするか。
笹川 ホント、冗談通じないな。
南 いい加減にしてくださいよ。
そんなんだから、仕事できないやつに舐められるんですよ。
笹川 そんなの、好きなだけ舐めさせとけよ。
南 ……なんで、悔しがってくれないんですか。
笹川 なんでお前が悔しそうなの。
南 それは……。
笹川 南。
あのさ、実は俺、転職すんだよ。
南 ……え?
嘘、笹川さんが?
笹川 そうそう。
南 聞いてない。
笹川 そらそうだろ。言ってないもん。
知ってたら逆に大問題。
南 …………どこに。
笹川 外資よ外資。今より断然給料良いとこ。
……まぁ、裏を返せば、今より大変ってこと。
南 ……そろそろ死ぬんじゃないっすか。笹川さん。
笹川 労災おりんのかなぁ。
南 やめなさいよ。縁起悪い。
笹川 葬式、ちゃんと来いよ。
南 死ぬ前提か。
笹川 その方が楽しそうだから。
南 アンタは良いな。
なんでも、どんな時でも、楽しそうで。
笹川 まあね。俺は人生楽しいもん。
全部選んで、勝ち取ってきたから。
南 アンタは死に急ぎ過ぎなんだ。
笹川 お前は生き急ぎすぎ。
南 何が違うんですかね。
笹川 お前は真面目。俺は不真面目。
南 不真面目がエースになれるわけ無いでしょう。
笹川 南。お前は俺の何を見てきたの?
南 …………階段で踊ってるとこ。
笹川 そう、その通り。
南 正解なのかよ。
笹川 踊らなきゃ、損だろ。
南 本当に、意味が分からない。
最初から最後まで。
笹川 一緒に踊るか?
南 そうやって、すぐふざけて。
アンタはホントに……外野が何言っても、響かないのな。
笹川 …………ほんとにね。
南 ……いつ辞めるんですか。
笹川 来月末。
明日あたり発表されると思うぞ。
南 上の奴らは、なんて言ってるんです。
笹川 なんか恨み言グチグチ吐いてたよ?
『今までの恩を仇で返しやがって』とか。
『誰のおかげでトップになれたと思ってるんだ』とか。
南 全部、笹川さんの実力でしょうが。
笹川 そうね。
まあ、この状況も、自業自得っちゃあ、自業自得なんだけど。
南 仕事出来ない奴が僻んで、グチグチ言ってるだけでしょ。
笹川 好きなだけ言わせておきなよ。
言うだけしか出来ないんだから。
それしか出来ないうちは、見逃してあげる。
でも、俺の邪魔するようなら、その時は遠慮なく、ブッ潰すから。
南 物騒だな。
笹川 目の前でチンタラ歩いてるやついると、背中蹴りたくならない?
南 ……蹴りたくなる、ない。
笹川 ははは。どっちだよ。
南 認めたら負けな気がして。
笹川 お前は何と戦ってるのよ。
南 アンタには一生縁のない相手とですよ。
笹川 なんだ。教えてくんないの。冷たいな。
南 ギリギリまで辞める事教えてくれなかったアンタには
言われたくない。
笹川 ははは。悪かったって。
でも、もう、お前もさ。
俺のために怒ったりしなくていいんだよ。
俺はもう、居なくなる人間だから。
南 …………そうですね。
笹川 俺とお前は、長い人生の中で、一瞬、袖が振り合っただけだから。
それだけの事だから。
南 …………分かってます。そんなこと。言われなくたって。
笹川 上手くやれよ。南。
南 上手く、ね。
笹川 …………そろそろ仕事戻るか。
お前までなんか言われたらめんどくさいだろ。
南 …………俺、昼休憩なんで。
もうちょいしたら戻ります。
笹川 そうか。
さっさと戻って来いよ。
南 アンタは戻ってこないくせに。
笹川 南?何か言ったか?
南 いや、なんでも。
笹川 そっか。じゃあ、また後で。
南 …………ズンチャッ。ズンチャッ。
笹川 南ー。今日飲み行くか……って、お前、何やってんの?
南 ……ははは!
……アンタの真似。