バースト・イントゥ
『バースト・イントゥ』 作:細谷
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笹川(ササガワ)
→伴の同期。ただし笹川は中途採用なので笹川の方が年上である。
トップ営業マンだが奇行が目立ち、会社の人間から避けられている。
そんな自分に物怖じしない伴のことをヤバイ奴だと思いつつもそこそこ感謝している。
伴(バン)
→笹川の同期。新卒で事務職として入社した。
年上で変わり者の笹川に物怖じしない、肝の据わった女である。
気が強く、口が悪いが、仕事は誰よりも真面目に取り組む優秀な社員である。
笹川(ササガワ)(男):
伴(バン)(女):
笹川 あ、伴。
伴 ……笹川さん?
笹川 お久しぶり。
伴 お久しぶり。
どうして本部なんかに?
笹川 あ、こっち入らない方がいいよ。
伴 ……うわ。タバコ臭い。
笹川 そら喫煙所だからねぇ。
伴 はークッサイ。最悪。
笹川 だから入らない方がいいって言ったのに。
伴 女の子をこんな所で呼び止めるとか何なの?
だからモテねぇんだよ。
笹川 相変わらず口悪いな。
伴 私と話したいならタバコやめてよ。
タバコ臭い人と話したくない。
笹川 ここをどこだと思ってんのよ。
しょうがないな。
……ほら。これでいい?
伴 よーしよし。いいぞ。
笹川 犬?
伴 で?どうしたの?
笹川 タバコ吸ってた。
伴 そうじゃなくて。
なんで本部にいんの?火でもつけに来た?
笹川 物騒だな。
そんなわけないでしょ。
伴 ここは乾燥してるからねぇ。
よく燃えると思うよ。
笹川 うちの本部様は加湿器を買う費用も無いの?
伴 違う違う。
ジジババは年寄りだから水分無くて乾燥してるから。
笹川 キミねぇ。
一応そのジジババに可愛がってもらってんだから。
伴 分かってる分かってる。
ちゃんと媚び売ってるよ。
笹川 へぇ。
伴 毎日お茶淹(い)れてあげてるし。
笹川 はー。そんな古臭いことまだやってんの。
伴 伴ちゃんの淹れたお茶がいちばん美味いっ!だってさ。
笹川 誰が淹れても変わらないと思うけど。
伴 あはは。私もそう思う。
笹川 気が合うねぇ。
伴 で?何で呼び出されたの?
笹川 分かってたんじゃん。呼び出されたの。
伴 呼び出されでもしなきゃ、こんな所来ないでしょ。
笹川 そらそうだ。ホントは呼び出されても来たくないよ。
伴 今回は何やらかしたの?
笹川 俺が毎回何かやらかしてるみたいな言い方しないでよ。
伴 新入社員に手出した?
笹川 馬鹿。
伴 あはは。冗談よ。
笹川 はぁ……。
伴 にしても……。
ずいぶん長いこと籠(こも)ってたね。
積もる話でもあった?
笹川 ……盗み聞き?良い趣味してんね。
伴 馬鹿言わないでよ。
誰がオッサン同士の痴話げんかなんて盗み聞きなんてすんのよ。
笹川 痴話げんかじゃないって。人聞き悪いな。
伴 そう?怒鳴り声が外まで聞こえて来てたよ?
笹川 人事部長、声デカイからなぁ。
伴 やだぁ。情熱的。
笹川 馬鹿。そういう意味じゃないって。
伴 まさか、エース様が退職するなんて。
会社としては大損失だもんね。
そりゃ怒鳴りたくもなるわ。
笹川 ……はー。ホント。お前ってやつは。
伴 勘違いしないでよ。
さすがにそこまで趣味悪くないわ。
笹川 じゃあ誰から?
伴 ジジババたち。
みーんな噂してたよ。
笹川 たかだか数ヶ月黙っとく事も出来ないのかねぇ。
うちのジジババは。
伴 それしか娯楽がないんでしょ。
笹川 うーん。人の人生を娯楽扱いか。
伴 そ。最悪だよね。
だからさ、笹川さんは賢いよ。
こんな会社、見切り付けて当然だって。
笹川 ……他には?
伴 ん?
笹川 ジジババ、何か言ってた?
伴 うーん。あとはよく聞こえなかった。
笹川 俺相手に気を遣わなくていいよ。
伴 なんのこと?
笹川 伴。
伴 …………恩知らずだって。
笹川 うん。
伴 誰が育ててやったと思ってんだ、って。
笹川 うん。
伴 これ聞いて、笹川さんはどう思った?
笹川 うーん。外野に何言われてもなぁ、って。
伴 あはは。一緒。
笹川 伴はいつまで頑張んの?
伴 そうだねぇ。いつまでにしようかな。
笹川 まだ見切り付けないんだな。
伴 私は笹川さんと違って賢くないから。
笹川 ……そんなことはないと思うけどね。
伴 そうだ。笹川さん。
笹川 ん?
伴 笹川さんにね、聞いてほしいことがあるの。
笹川 何?怖いんだけど。
伴 私の秘密。
笹川 ……秘密?
伴 そう。笹川さんだけに教えてあげる。
……毎朝淹れてるお茶。
あれね、コンビニのなんだ。
笹川 ……………………マジ?
伴 マジ。
それをね?ジジババみーんな美味しい美味しいって飲んでんだよ。
面白いよね。
笹川 面白い……ね。
伴 こうして娯楽でも作んないとさ、心折れそうでさ。
笹川 ……別に、そこまでしなくても。
伴 ……笹川さん。墓場まで持っていってね。
笹川 ……うん、分かった。
伴 じゃ、そろそろ戻ろうかな。
笹川 引き留めて悪かったね。
伴 ううん。久々に話せて楽しかったよ。
また今度飲もうね。
笹川 そうだね。俺の送別会もやらないとな。
伴 自分で言うの?寂しいやつ。
笹川 じゃないと誰も開かないでしょ。
伴 あはは。たしかに。
……それじゃあ、またね。
笹川 うん。
伴 ……あ、そうだ。
ねえ。笹川さん。
笹川 ん?
伴 私ね、営業になるんだ。
笹川 ……マジ?
伴 マジ。
来月辞令が出るの。内緒ね。
笹川 どうしてまた。
伴 さあ?どうしてだろうね。
笹川 うちの会社で初じゃないか?
女の営業。
伴 そうだね。そう言ってた。
笹川 他には?
伴 んー?
笹川 何言われた?
伴 『おとなしくお茶だけ淹れてりゃ良かったのに』って。
笹川 ははは。こりゃまた。
伴 笑うしかないよねぇ。
笹川 嫌になったら逃げろよ。
耐えてもいい事ないぞ。
伴 私さぁ。この会社燃やしたいのよ。
笹川 過激だな。
伴 でもさ、多分犯罪じゃん?
笹川 そうだね。
多分っていうか絶対そうだね。
伴 だったらさ、合法的にジジババ追い出すしか無いかなって。
笹川 強いな。
伴 ジジババ追い出したらさ。
笹川さんも私も過ごしやすくなるかなって思ったんだ。
まあ、遅かったけどね。
笹川 ……悪かったね。
伴 えっ。キモッ。
笹川 えぇ……何でよ。
伴 なんか素直すぎて笹川さんっぽくない。
笹川 ……謝って損した。
伴 そうそう。そのくらいでいいんだよ。
その方が笹川さんらしい。
笹川 ……俺らしい、ね。
伴 じゃあ、今度こそ行くね。
じゃあね。笹川さん。
笹川 うん。じゃあね。
伴 …………こうでもしないとさ。
アンタと同じ土俵にすら立てなかったんだよね。
……馬鹿だよねぇ。
外野の言葉なんて、アンタに一切届かないのにさ。