売れたい僕ら。6

『売れたい僕ら。6』 作:細谷
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梶(カジ)
→『演劇集団 夢見心地』の主宰。(何でも屋)主に脚本担当。
『自身の書いた脚本の中から役を現実世界に呼び出せる』という特殊能力を持っている。
『お耽美』を『おちんび』と呼んでいたことは内緒。

相馬(ソウマ)
→『演劇集団 夢見心地』の舞台監督。お耽美が大好物。
本当はお耽美な脚本がやりたかったはずなのに、ドタバタ劇ばかりやる破目になっている。
今回の一件で梶の美的センスを疑うこととなる。

女将(オカミ)
→梶の謎の力で現れた。とてもはんなりしている。
京都弁を話すが、書いた人が京都のことをよく分かっていないので完全なるエセ関西弁となっている。
梶的にはお耽美らしい。決してスケベ心ではない。

カツ丼(カツドン)
→梶の謎の力で現れた。芸術的なデカ盛りの姿をしている。
何でカツ丼なのか。カツ丼の役って何?
疑問は色々あるだろうが書いた人にも答えは出ていないのでその疑問は無意味だぞ。


梶(男):
相馬(男):
女将(女):
カツ丼(男):

相馬  ねぇ。梶さん。

梶   ヒッ!殺さないで!!

相馬  何ですかそれ。

梶   君から呼ばれるなんて珍しいから。
    ちょっと殺されたりするのかと思って。

相馬  ちょっとって何ですか。
    僕、梶さんの事殺したこと無いでしょう?

梶   あったら僕今ここに存在してないからね。
    で?どうしたの?

相馬  梶さんは耽美(たんび)に興味ないんですか?

梶   夜中にヤンキーがスウェット姿でたむろする場所?

相馬  それはドンキ。

梶   じゃあ猛禽類(もうきんるい)?

相馬  それはトンビ。

梶   よくわかったね。

相馬  ほんとにね。
    雑なボケやめてくださいよ。

梶   信頼のボケだよ。

相馬  そういうのは『甘え』って言うんです。

梶   嫌だ!正論嫌い!!

相馬  てか、梶さんホントに知らないんですか?
    よく『お耽美』って言うじゃないですか。

梶   うーん……?
    どんな漢字書くの?

相馬  空想に耽(ふけ)るの『耽る』に、美しい。
    で、耽美。

梶   あー!アレね!あの子ね!!

相馬  知り合いでした?

梶   僕、アレずっと『おちんび』って読むんだと思ってた。

相馬  はい有罪。

梶   なんでぇ!?

相馬  どうも下ネタ警察です。

梶   僕は無実です~!
    これを下ネタだと思う相馬さんの心が下ネタなんです~!!

相馬  また屁理屈言って。

梶   違います~哲学です~。

相馬  発言に哲学さを全く感じないんですが。
    てか、こうなってくると……。
    梶さんが本当に脚本家なのか疑わしくなってきますね。

梶   なんでよ。
    そんなの君が一番よく知ってるでしょ。

相馬  うーん、あまりにも知性が感じられないので……。

梶   考えるな、感じろ、だよ。

相馬  だから感じられないって言ってるんですけど。

梶   むきー!もう怒った!!

相馬  むきーって言って怒る人初めて見た。

梶   こうなったら意地でも僕のお耽美を認めさせてやる!!

相馬  え、もしかして。

梶   きょうのゲストはこの二人だ!!!
    かもーん!!

女将  どすえ~。

カツ丼 な、なんだぁ?ココは。

女将  さっきまでお店に居たはずなんやけど……。

相馬  え!?え?!

梶   いや~!お二人とも!今日はようこそ!!

女将  あらぁ。初見さんどす?
    おいでやす~。

相馬  いや、それはこっちのセリフ!
    おいでやすなのは、どっちかって言うとあなた!

女将  お初にお目にかかります~。
    ウチは女将やらせてもろてる
    尾加未・怒吸柄(おかみ・どすえ)と申します~。

相馬  どいつもこいつもボケが雑なんだよ!!

女将  いややわ~。
    そんないけずな事言わんといて~。

相馬  突っ込まない!突っ込まないですよ!!
    それどころじゃないんですから!!

カツ丼 おう?どうした?あんちゃん。
    俺の顔に何かついてるか。

相馬  梶さん説明してください。
    何も言わないでください。

梶   どっち?

カツ丼 哲学か?

相馬  お願いだからこれ以上僕を混乱させないで。

女将  うふふ。
    さてはお兄さん……混乱してはりますね?

相馬  うん。
    ……うん?そう言ってるでしょ?

梶   もしかして哲学?

相馬  何でも哲学にするんじゃない。

カツ丼 さては女将……あんまり頭良くないな?

相馬  やめろ!
    マトモぶるな!!
    カツ丼のくせに!!!

女将  どすえ~……。
    悲しいどすえ~。

相馬  さっきからその取って付けたような
    『どすえ』が気になるんですが……。

梶   女将と言えば『どすえ』でしょ?

女将  どすえ~。

相馬  女将に対するイメージが雑。

女将  どすえっ!

相馬  うるせー!
    『どすえ』で感情表現するな!!

カツ丼 で?
    どうして俺たちはそこにいる梶という脚本家の
    『脚本の中から自由にその役を呼び出せる』っていう
    特殊能力でわざわざ呼び出されたんだ?

相馬  凄い説明ゼリフ。

女将  突然びっくりどすえ~。

カツ丼 こうでもしなきゃ話が進まねぇだろ。

相馬  アンタが真面目ぶると頭痛くなってくる……。

カツ丼 気圧か?

相馬  アンタのせいだって言ってるでしょ!!

カツ丼 仕方ねぇだろ。
    おたくの脚本家が呼び出したんだから。

相馬  殺(や)るか。

梶   怖!
    相馬さん!顔が殺し屋だよ

相馬  ……で?
    何でカツ丼と女将なんです?

梶   ふふん!よくぞ聞いてくれた!!

相馬  遺言くらいは聞いてあげますよ。

梶   あれ?やっぱり僕殺される??

相馬  さっさとしてください。
    死期が早まりますよ。

梶   結局死ぬんかい!
    まぁいい……これを聞いたら君も納得してくれるはずだ。

カツ丼 まずは俺から頼むぜ。

梶   おっけー!
    リクエスト通り、まずはカツ丼から!!
    ……とろとろツヤツヤの卵!
    じゅわっと染み染みのカツ!
    そして!
    絶妙なバランスで大盛に盛られたこのフォルム!

相馬  うーん。

梶   これをお耽美と言わずして何と言えようか!!

カツ丼 フッ……。
    画面の前のお嬢ちゃん。
    そんな慌てて食べると……ヤケドするぜ?

女将  大盛のカツ丼だなぁとしか思えまへんわぁ。

カツ丼 おい!!

相馬  よく言った!!

梶   女将さんが否定しちゃダメでしょ!!

カツ丼 なんでこんなヤツ連れて来たんだ!

梶   だって……。
    京都弁の女将ってお耽美じゃない?

相馬  ……なんだ。性癖か。

梶   止めてよ人聞きの悪い。

カツ丼 なぁ女将。ちょっとアイツの名前呼んでみ。

梶   僕?

女将  ……梶はん?

梶   ありがとうございまーす!!!!!

相馬  うるさっ。

カツ丼 引退ライブくらいの熱量だぞ。

女将  あらあら。えらい喜んでくれはって~。

カツ丼 やっぱり性癖じゃねぇか。

相馬  キモイってちゃんと言った方が良いですよ。

女将  キモイなんてことあらへんよ~。
    女将冥利(みょうり)に尽きますわ~。

相馬  ……ねぇ女将さん。
    試しに僕の名前を呼んでみて貰えませんか。

女将  相馬はん?

相馬  いいな。
    ……いいな!

カツ丼 二回言ったぞ。

梶   キモイってちゃんと言った方が良いですよ!!

カツ丼 キモイ。

相馬  うるせー!アンタが言うな!!

カツ丼 なあ女将。ちなみに俺の名前は?

女将  カツ丼。

カツ丼 何でだよ!

女将  カツ丼はカツ丼どす?

カツ丼 俺にも『はん』をつけろよ!

女将  カツ丼はん?
    いやいや。言いづらくてしゃーないわ。

梶   仲間割れしないでよ。

カツ丼 いきなり背中から刺された気分だぜ。

相馬  アンタ背中無いじゃん。

カツ丼 口にホカホカの米ぶち込んでやろうか?

相馬  上からソースぶっ掛けてやる。

梶   もうみんな~。仲良くしてよ~。

女将  あらあら。暴力はあきまへんよ~。

カツ丼 うるせぇ!!女は黙ってろ!!

女将  あ?
    アンタ誰に向かってそんな口利いてはるん?

カツ丼 え、いや、あの。

女将  女が男にモノ申しちゃアカンなんて決まってますのん?
    丼ぶり割ったろか?
    今は女性も社会進出の時代やって言われてはるの知っとります?
    脳みそまでカツなんか?
    時代遅れも甚だしいんとちゃいます?
    カツ握りつぶしたろか?

梶   怖い怖い。

相馬  理詰めと恫喝(どうかつ)が交互に来るのはヤバいな。

カツ丼 お、おい女将。そんな怖い顔すんなよ。
    俺のカツ丼が……冷えちまうぜ?

女将  はっ倒すぞ。

カツ丼 すみませんでした。

梶   もう!
    せめてカツ丼さんと女将さんは仲良くしてよ!
    せっかく出会えたんだから……あ!!!
    ねぇ相馬さん!!!

相馬  何です梶さん。
    今度はどうしました。

梶   お耽美の象徴である、はんなり女将。
    そして、お耽美の権化であるデカ盛りカツ丼。
    女将さんにカツ丼をプロデュースして貰えば
    『僕の最強のお耽美』が完成するんじゃない?!

相馬  はぁ??

梶   ……きゅ~。

カツ丼 おい!倒れたぞ!

女将  あらぁ。梶はん大丈夫どす?

カツ丼 きゅ~って言って倒れる人、初めて見たぜ。

相馬  梶さん!ちょっと起きてください!!
    こんな狂った空間に僕だけ残していかないで!!

カツ丼 そうだそうだ!!

女将  どすえ~。

相馬  おい!うるさいぞ元凶ども!!

梶   ハッ!

女将  あら、生き返りはった。

梶   あまりのお耽美っぷりに気を失ってしまった。

カツ丼 幸せなヤツだな。

相馬  で?
    『ぼくのさいきょうのおたんびぃ』って何ですか。

梶   そんな馬鹿っぽい喋り方してません~。

カツ丼 要するに、最強と最強掛け合わせたら
    もっと最強になるってことだろ?

女将  せやね。ウチみたいに。

カツ丼 そうそう。俺みたいに。

相馬  自己肯定感、たっかいな……。

カツ丼 面白れぇじゃねぇか。
    この話、乗ったぜ!

梶   さっすが。

相馬  もうやめようよ……。
    この話いつまで続くの……。

梶   待ってて。
    もう少しで綺麗にオチつけるから。

相馬  噓だぁ……。

女将  ウチの女将力(おかみぢから)を見せつけたりますわ。

梶   よ~し!まずは視察を兼ねたお昼ご飯だ!
    定食屋でカツ丼食べるぞ!

カツ丼 いえ~い!共食い!!

相馬  怖い怖い。

女将  カツ丼、久しぶりやわ~。

梶   ねぇ、相馬さん。

相馬  はい?

梶   お昼ご飯。

相馬  え?はい。

梶   お・ひ・る・ご・は・ん。

相馬  え……?
    ……あ!!
    いや、それ耽美じゃなくてランチ!!

梶   ……うん、綺麗にオチがついたね!

相馬  ……僕、テンドンで。

梶   お、上手い!

相馬  あ!しまった!!

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