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【ネタバレあり】映画いずれあなたが知る話 その後の物語(妄想です)その2

映画『いずれあなたが知る話 』の続きを妄想してみたやつの続きです。
映画の結末を受けたその後の物語なので、当然ネタバレを含むことになると思われますので、これから本作をご覧になりたいと思っている方、地方上映を楽しみに待っている方はできれば本編を観てから読んでいただけるとうれしいです。



この画像はイメージです



以下から本文に入ります






いずれあなたが知る話 ~その後~ その2

「さおり」は綾にこう切り出した。
「お母さんに会いたい?」
あまりに突然の成り行きに驚愕する綾。
言葉を発することもできずに固まってしまう。
その様子をじっと見つめるさおり。
もしそれが叶うのなら、綾の疑問に対する答えは、他ならない母・靖子から直接聞き出せるに違いない。
そうは思っても、綾のなかには「恐れ」のようなものが渦巻いていた。
15年も離れ離れになっていた母。
自分を探さなかった母。
その理由を問いただしたい気持ちももちろんある。
しかし綾は怖かったのだ。
自分は必死に過去を忘れようとしてきた。
なぜならその答えが怖かったからだ。
ほんとうはいらない子だったのかもしれない。
母にとって自分は足手まといだったのかもしれない。
そう思ってしまうと綾は自分が小さな虫になったような気がする。
誰にも顧みられず、愛されも憎まれもしない、ただそこにいるだけの存在。
そうではないと、自分に言い聞かせ、自分がここにいてもいいと、誰かに言ってもらいたくて、綾は写真を撮り、SNSにアップし続けた。
だけど、どれだけフォロワーが増えても、称賛されても、綾のこころの穴が塞がれることはなかった。
このままでいいはずはない。
だけど、知るのは怖い。
知ってしまったら、自分はそのまま永遠にいらない子になってしまうかもしれない。
その堂々巡りをまるでわかっているかのようにさおりは綾の顔をじっとみつめている。
綾が何かを言いかけようとしたのと同時に、見計らったかのようにさおりは口を開いた。
「ひかりは・・・ううん、靖子ちゃんはね。あなたと引き離されてから、それはもうひどかったんだから」
綾は冷めてしまったコーヒーに口をつけると聞いた。
「ひどいってどういうふうに?」
「うーん、なんていうのかなぁ、もう何もかもなくしてしまったひとってああいうふうになるんだなっていうか」
さおりは一旦背伸びをして綾の顔を覗き込む。
「何度も死のうとしたの・・・そのたびに私がそれを阻止した・・・」
綾は絶句する。
綾とさおりのまわりの時間が止まる。
まるで海に落ちてしまったかのように、綾のまわりから音が消える。
「なんていうかなぁ、あいつは短絡的というか、先のこと考えてないっていうか、そういうところがあるからさぁ、ついつい流されちゃうのよ、感情に」
さおりの声はまるで水の中で話しているかのように、遠くから歪んで聞こえた。
「突然、会いたいか、なんて聞いてごめんね、そりゃそうだよね、こんだけ長い間離れ離れになってたんだもんね。そりゃ悩むよね」
遠くから聞こえるさおりの声に耳を傾けるうちに、綾の中で何かが変わった。
もう忘れかけていた母の面影が綾の脳裏にぼんやりと浮き上がる。
わたしがこうして生きてきた間にも、母は同じように生きてた。
おぼろげな過去の存在ではなく、今もちゃんと生きてる母がいる。
会わなければいけない。
綾はそう思った。
「会いたいです」
気づくと綾はそう言っていた。

そのアパートは綾が想像していたよりも立派で小綺麗な物件だった。
さおりから住所を聞き出してから1週間。
一旦決心したものの、その間、何度も行くべきかを逡巡していた。
幼い頃の綾が靖子と過ごしたあのアパートにほど近い場所にそのアパートはあった。
その部屋の扉の前に立った瞬間もまだ「ほんとうにこれでいいのだろうか」という気持ちが拭えなかった。
押すでもなく離すでもなく、中途半端にベルに添えた指が震えている。
しばらくそのままじっとしていたかと思うと綾は指を離し扉に背を向ける。
どんな顔をして母に会えばいいのかわからない。
笑ったらいいの?それとも他人みたいに振る舞う?
自分はどうしたいの?
その答えが見つからなかった。

綾の背後でドアの開く音がした。
驚いて綾が振り向くとそこに
エコバッグを肩に下げた靖子が立っていた。
綾の顔がみるみる歪んでゆく。
大粒の涙が綾の頬を伝う。
お母さん
ほんとはすごく会いたかったんだ
すごくすごく会いたかったんだ
綾は気づいた。
ほんとうはすごく会いたかったことに、自分は自分で気づかないふりをしていた。
大粒の涙をぬぐいもせずに立ち尽くす綾を靖子はやさしく抱きしめた。
「おかえり、綾」
その時、綾にはわかった。
靖子ちゃんがなぜ、自分をすぐに取り戻そうとしなかったのか。
母に抱かれながら、綾は自分がたしかにここにいることに気づいた。
帰る場所があるってうれしいな
綾はそう思った。

おわり





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