TENET
クリストファー・ノーランっていう映画監督は、ある場面、というか空間、あるいは場所、を観客に体感させることに最大限のチカラを注いできた人なんだと思う。
とてつもなく素晴らしい場面はたくさん思い出せるけど、ストーリーはさっぱり思い出せないのがこの監督の作品の特徴だとぼくは思うんだけど、それはキャラクターや物語が、「観客を連れて行く」という目的に奉仕する存在に過ぎないのが原因だと思う。
さて『TENET』である。
世界を破滅から救うために工作員ががんばるというストーリーに時間逆行というエッセンスを加えたエンターテイメント作品。
今回観客が連れて行かれるのは「時間が逆行する世界」
「まぁこんなもんだろう」とある程度予想しつつ臨むんだけど、その何十歩も先を行く映像を見せつけられたし、またこれまでにも増して音響の凄まじいことといったら、劇場を一歩出たあとの日常があまりにも静かに感じるほど。ほぼすべての場面で空気を震わせる重低音が鳴ってるし、アクションシーンともなると、強制的に感覚がシーンに同調させられるくらいの重低音の釣瓶撃ち。
ほんとうにそこに「連れていかれ」ます。
セリフの中にこんがらがったストーリーを読み解くヒントのような言葉がところどころ挟み込まれてますが、それを噛み砕いている暇などないくらい怒涛のアクション&ヘンテコなシーンがてんこ盛り。
「考えるな、感じろ」というのが恐らく作り手側の思惑なんだと思います。
そして観たとで「あれはなんだったのだろう」って考えるためのヒントとして「エントロピー」とか「パラドックス」とか「多元宇宙」とかの言葉が散りばめられている。
鑑賞中はとにかくオープンマインドでその異常な世界に浸ってただただ圧倒されてほしい。そしてなにが起きていたのかを知りたかったら、そうしたヒントを頼りに謎解きを楽しんでほしい。っていうのがこの『TENET』という作品なんだと思いました。劇場に観客を呼び戻す作品として期待されているようですが、間違いなくこれは劇場で呆然として楽しむべき作品でした。