「空に溶ける歌」という話

田舎の小さな学校。学年に一人しかいない小学6年生の遥斗(はると)は、歌うことが大好きだった。しかし、彼には生まれつき声帯に障害があり、普通の人のように大きな声で歌うことができなかった。それでも、彼は毎日学校の屋上で、小さな声で歌っていた。声は弱々しかったが、彼の歌には何か不思議な温かさがあった。

ある日、音楽教師の茜先生が屋上で彼の歌を聞いた。感動した彼女は、「遥斗くん、その歌声をもっとみんなに届けてみない?」と提案した。しかし、遥斗は首を振った。「僕の声なんて、誰も聞いてくれないよ。」

茜先生は微笑んだ。「それなら、みんなのためじゃなくて、自分のために歌ってみようよ。歌はね、自分の気持ちを一番素直に伝えられる方法なんだよ。」

茜先生の言葉に励まされ、遥斗は少しずつ自分の声に自信を持ち始めた。学校の閉校式が近づくと、茜先生は「最後に遥斗くんに歌ってほしい」と提案した。遥斗は驚いたが、勇気を出して「考えてみる」と答えた。

閉校式の日、遥斗は緊張しながらも舞台に立った。彼の声は決して大きくはなかったが、会場全体が静まり返り、一人一人が彼の歌に耳を傾けた。遥斗の歌には、学校への感謝、仲間への思い、そして未来への希望が込められていた。その声は心の奥底に届き、誰もが涙を流した。

歌い終わると、会場は静寂に包まれた。しかし、次の瞬間、大きな拍手が湧き起こった。その中には、これまで遥斗の声を聞いたことがなかったクラスメートたちもいた。

その日以来、遥斗の歌は少しずつ広がり始めた。閉校した学校の屋上で録音された彼の歌声は、SNSで話題になり、多くの人々に勇気を与える存在となった。

ある日、遥斗は空を見上げながら、静かに歌を口ずさんだ。その声はまるで空に溶けるように広がり、彼の想いとともに、遠くまで届いていった。

いいなと思ったら応援しよう!