「大食い王者の試練」という話
「さあ、本日のチャレンジャーはこの方! 大食い界の新星、山盛 太郎さんです!」
司会者の声が会場に響き渡る。大食い選手権の決勝戦。ステージ中央には巨大なテーブルがあり、その上には山のように積まれたカツ丼が鎮座していた。
「優勝賞金は100万円! そして挑むは、大食い界のレジェンド、腹一杯 伝説的選手!」
対戦相手の腹一杯は、すでに胃袋がブラックホールと化したかのような風貌。全身から「俺はすべてを飲み込む」というオーラを放っている。
「ルールは簡単! 30分でより多くのカツ丼を食べた方が勝ち! では……スタート!」
司会者の合図とともに、二人は一斉にカツ丼にかぶりついた。
—カツ、米、カツ、米、汁!—
リズミカルに食べ進める山盛。しかし、対する腹一杯の勢いが異次元だった。
—カツカツカツカツカツ!—
噛んでいない! 丸飲みだ!
「腹一杯選手、すでに10杯目に突入!」
司会者の実況が追いつかない速さだ。一方の山盛も負けじと食べ続ける。
—カツ丼が俺を試している……!—
彼の脳裏に、子供の頃の思い出がよぎった。
—母ちゃんの「食べ盛りの子には食べ放題が一番」の教え!—
—高校時代の「学食10人前無料伝説」!—
—大学時代の「寿司100貫一気食い事件」!—
すべてはこの日のためだった!
「おっと! 山盛選手、怒涛の追い上げ! 25杯目に突入!」
会場がどよめく。だが、その瞬間——
バタン!
「!? 山盛選手が倒れた!」
—しまった……! 食べ過ぎて……胃が……!—
目の前が回る。カツが踊る。米が雨のように降る。口の中にはまだカツ丼が……
「だ、大丈夫か山盛選手!?」
「ま……まだ……いけ……」
立ち上がろうとしたその時——
グゥゥゥゥゥゥ……
—えっ?—
腹一杯の腹が鳴った。
「おや!? 腹一杯選手の表情が……苦しそうだ!」
なんと、食べ過ぎたのは山盛だけではなかった。腹一杯も限界に達し、顔を青ざめさせていた。
—お前もか……—
二人は互いを見つめ合った。その時、司会者の声が響く。
「どちらもリタイア……!? では、ここで新たなチャレンジャーを……」
すると、会場の隅から一人の老人がのそのそとステージに上がってきた。
「ワシも食ってええかの?」
見た目はただのよぼよぼの爺さん。誰もが「この爺さんは無理だろう」と思った次の瞬間——
—ズバババババババババ!—
まるで掃除機のように、カツ丼が吸い込まれていく。
「な、なんじゃこりゃあああ!!!」
たった5分で30杯完食。
「ま、負けた……」
山盛と腹一杯は崩れ落ちた。
「ワシが若い頃は、3日で象一頭食ったんじゃ……」
そして、老人は賞金を手に悠々と去っていった。
「今日からワシが……新たな大食い王じゃ……!」
観客のどよめきが収まらぬまま、伝説の一日が幕を閉じた。