盲目
数日前、映画「梟」を観た。
実はまだ余韻が残っているくらい面白かった。
夜寝る前に明かりを消すと、特に。
※ここから作品の内容に触れています。
観ようと思ってる方は、観てから読んで下さい。
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公式が上げてるストーリー
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盲目の天才鍼師ギョンスは、病の弟を救うため、誰にも言えない秘密を抱えながら宮廷で働いている。
しかし、ある夜、王の子の死を“目撃” し、恐ろしくも悍ましい真実に直面する。
見えない男は、常闇に何を見たのか?
追われる身となったギョンスは、制御不能な狂気が迫る中、昼夜に隠された謎を暴くために闇夜を駆ける―
絶望までのタイムリミットは、朝日が昇るまで。
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という感じなんだけど、この「朝日が昇るまで」というのが超ポイント!
のっけの導入から、前半のテンポ、そして物語のタイトル「梟」の意味が分かってからの怒涛の展開。
先ずお話がめちゃくちゃ面白い。キャラクターの造形もめちゃくちゃ魅力的。めちゃくちゃ人間が描けていて、テーマが突き刺さる。そしてサスペンスとして最初から最後の瞬間までめちゃくちゃ楽しめる。
つまり、めちゃくちゃ面白い、です。
盲目の鍼師というキャラクター設定だけでも、もう十分魅力的なんだけど、それ以外の登場人物もいい。一般庶民やったのに、天才的腕の良さから宮廷に入ることになっていくギョンス。心優しい世子は、庶民のギョンスにも分け隔てなく接する。2人が知り合ってからのやりとり、心を通わせていくシーンがとてもいい。そのなかで、
「見て見ぬふりをしなければ、我々のようなものは生きてはいけない」
みたいな台詞があるんだけど、それが「そんな生き方は、本当は嫌なんだ」という気持ちで溢れているのが痛いほど伝わってきて。身分や時代の中での苦しみが分かる。
しかし、その心温かい世子様が毒殺されてしまう。
その殺害の現場を暗闇の中で、ギョンスは目撃してしまうのだあ!
盲目ギョンスは明るい所では見えなくて、暗闇になると、はっきり見えるという梟(フクロウ)のような特殊な視覚障害の為、普段は「盲人」とされていて。暗闇だけではものが見えるのよ!けど、このことを誰にも明かしていない。
なので、盲人が「目撃した!」と言っても何の証拠にもならない。
そして、その殺害を指示しなのが、世子様の父である王様やった!!という事実が分かっていく。
告発すれば王に抹殺されるうー!!
それでも、それでも、
なんとか真実を明かそうと立ち上がるのです。
王座に居座り続けたいという私利私欲の塊の王に
立ち向かっていくのです。
自分が殺されるかもしれないのに。
「見えないふり」をやめるのです。
ほんの少しだけど「見えている」から。
だから、その見えた汚いもの
隠された悪を、明るみに晒してやる!
という強き人間に変わっていくのです。
めちゃくちゃ面白いです。
面白くて、物語への没入感が凄くて忘れそうになってたけど、それくらいに役者がめちゃくちゃ上手いです。
そして全編、ほんま大体画面暗いんです。
何してるか分からんくらいの所さえある。
めっさ見にくいやん!笑
でもその暗さが最高です。
サスペンス好きな方、いやそうでない方にも
是非見てほしい。
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その帰り道、雨が降ってきた。
かなり降ってて。
出発間際の電車に乗り込むと、床は乗客の靴についた雫で濡れていた。
見渡すと、ドア入ってすぐのシートの一番端にお婆さんが座ってて。
何か、もぞもぞしてるなと思ったら
お婆さん、傘を床に落としてしまったようで、それを拾おうとしていた。
でもお婆さん、とても小さい方で、シートに座っていると、膝から下の足が床に着くか着かないかくらいの小ささでした。
座ったまま、その床に落ちた傘を拾おうとしてて、それはとても大変そうに見えた。
よく見ると、手には杖を持っていて。
おそらく、この杖を落としてしまうと、この濡れた床の上に立ちあがれないと思って必死にそれを握りしめていたんだと思う。若しくは足が痛くなったかなにか、立ち上がるのが困難な状況になったのかもしれない。
でも、床にビシャと濡れたまま倒れてしまった傘も拾わなければならない。なんとか座ったまま拾えないか…と苦戦していたのではなかろうか。
私は、お婆さんの足元に落ちている傘を拾って渡した。濡れていたんで丸めてボタンを止めて渡した。
「ありがとう」と言って下さった。
もぞもぞしているお婆さんの姿を一目すれば、たぶん5秒もかからないくらいで、その状況が想像できることだと思うんだけど。
その車両はそんなに混んでなくて
その列車はその駅でその時間
いつも3〜5分くらいは停車してるんです。
立っている人は1人もいなくて
乗ってる全員がシートを埋めるくらい座ってて。
そんなにもぞもぞ動いて体を曲げて下向きに手を伸ばしている人が見えないはずはないと思う。
でも誰も見えてなくて。
見てなくて。
盲目だった。
恐らく映画の前半の
「見えているのに見えないふりをする」盲目。
奇しくも、
映画の帰り道、そんなことがあった。
偉そうに言うつもりはないんだけど、
少なくとも目の前に起きていることを
ちゃんと見て、生きたいと思った。