ワクチンについて ~新型コロナワクチンは危険なのか~
○ワクチンとは
病原微生物に対する適応免疫(獲得免疫)を人工的に付与・増強するもの。
最初に発見されたのは1796年。ジェンナーがウシ天然痘に感染したヒトの膿を別のヒトに接種したところ、ヒト天然痘にかからなくなったことを発見した。
○ワクチンの種類
1)生ワクチン
病原体を弱毒化させたものを生きたまま接種するワクチン。一時的に感染状態にする。弱毒化には、培養を繰り返した病原体や遺伝子操作で変異させた病原体を用いる。長期にわたる免疫の獲得が可能だが、疾患を発症する危険性や病原性を持つ個体への変異の可能性は避けきれない。
BCG、ポリオ、天然痘、はしか、チフス
2)死菌ワクチン(不活化ワクチン)
薬物や放射線などで殺菌した病原微生物を接種するワクチン。長期の免疫を獲得できないため、複数回接種する必要がある。
A型肝炎、狂犬病、日本脳炎、インフルエンザ
3)抗毒素ワクチン
病原因子である毒素を不活化したもの(トキソイド)を接種するワクチン。毒素を中和する抗体を作ることができる。
破傷風、ジフテリア、百日咳
4)コンポーネントワクチン
病原体の抗原部分のみを人工的に複製したり合成したりしたワクチン。不純物が少ない。
B型肝炎、肺炎球菌
5)DNAワクチン
病原体の病原遺伝子をとりだし、接種することで、体内で発現させるワクチン。DNAと呼ばれるが、実際に利用されるのはmRNA。大腸菌の環状RNA(プラスミド)に遺伝子を導入し、体内の細胞の遺伝子発現機能を用いて病原体の抗原部分のみを製造させる。今回の新型コロナワクチンはこれ。
株式会社アンジェスウェブページより(https://www.anges.co.jp/progress/)
アンジェスは世界初となるプラスミドを用いた遺伝子治療薬「コラテジェン」を2019年に開発。今回のワクチン開発でもプラスミド技術の分野で共同開発に参加している
○ワクチンは危険か
・ワクチンによる副反応
多くの場合は発熱や注射局部の紅斑・腫脹などで済み、数日以内に解消する。
日本脳炎ワクチンなどでは、日本脳炎の感染や急性散在性脳脊髄炎の発症が報告されている。急性散在性脳脊髄炎は小児人口10万人当たり0.30~0.64人(年間60~120人)程度発症するが、多くの場合はステロイド剤の治療により回復する。しかし、運動障害や脳波異常などの後遺症が残る場合がある。子宮頸がんワクチンについては社会問題化している。
だが、接種とは関係なく発症した例もあり、発症と接種の因果関係は証明されていない。
・DNAワクチンで「遺伝子組み換え人間」になるか
理論上はならない。DNAワクチンで使用するのは細胞の核の外にあるタンパク質製造機構であり、ワクチンが人間の遺伝子に直接働きかけるものではない。遺伝子情報の改変を防ぐため、生物の遺伝子発現の順序は一方通行になっている(セントラルドグマ)。そのため、核の中にあるDNAに改変が加えられることはないと言ってよい。
ただし、偶然の失敗の積み重ねによってDNAに改変が加えられる可能性もゼロとは言い切れない。こうした細胞はがん細胞として排除されると思うが、偶然生き残り増殖してしまう可能性や、生殖細胞となり子世代や孫世代に影響を及ぼす可能性も捨てきれないだろう。
・ワクチン接種拒否をめぐる社会情勢
米国ではワクチン懐疑派や反対派の活動が盛んである。多くは親の意思で子供にワクチンを接種させないという家庭である。しかし、ワクチン接種拒否によって集団免疫が崩壊する問題も生じている。
医療機関によっては、他の子供への感染を避けるため、接種を拒否している家庭の診療を断るところもある。学校入学などの際、規定のワクチン接種を受けているか証明する書類を提出する必要があるが、「医学的理由」、「信仰上の理由」、「個人的信条で」回避することもできる。しかし、活動が盛んなカリフォルニア州のディズニーランドで、2015年に麻疹のアウトブレイクが起こって以降、同州では個人的信条を理由とした接種辞退が認められなくなった。オーストラリアでは、ワクチン接種を拒否する家庭は税制上の優遇措置を受けられなくなる制度が導入されている。
日本では、1975年に百日咳ワクチンの接種が、反対運動の高まりによって中止されたことで、それまでの3年間では感染400件、死亡者数10名だったのが中止後の3年間では感染13,000件、死亡者数113名と激増したこともある。
所感
ワクチン接種を受容するにしても拒否するにしても、生命に関するリスクが存在しているのであり、慎重な選択が必要である。実際の危険性を客観的に評価することは、副反応の因果関係の説明がなされていない現段階においては難しいだろう。ワクチン接種を奨励する、あるいは拒否する家庭に対して何らかの措置を講ずるにあたって、専門家による科学的知見に基づいた丁寧な説明が必要となるが、それは御用学者のようなあり方であってはならない。医療が金儲けのために利用され、ワクチンの製造販売がビジネスとしての側面を持つ限りは、こうした傾向を払拭しきることは出来ないだろう。もし、ワクチン製造販売の足かせとなりうるために副反応についての研究に滞りが生じているのであれば、それは大問題だ。いずれにせよ、資本主義を打倒し、医療研究・技術を労働者階級の手に取り戻すことなしに、インフォームド・コンセントを原則とした民主的な医療は実現しないだろう。
参考文献
林英夫(2015)『感染症と病原体 敵を知り、制圧・撲滅でなく、賢く共生!』クバプロ
堀成美(2015)「ワクチン懐疑・反ワクチン」実験医学 増刊 第33巻17号 pp177-179
Paul A. Offit著 ナカイサヤカ訳(2018)『反ワクチン運動の真実 死に至る選択』地人書館