【ショートショート】医者と刑事
「ゴホッ、ゴホッ」
「…大丈夫?」
隣で咳をしているのは、親友のマツケンだ。
マツケン「…大丈夫大丈夫、ヤマくん。ゴホッゴホッ」
ヤマくん「全然大丈夫じゃないじゃん…」
マツケンとは今日、映画を観る予定だったが、咳が酷く、この調子では映画どころではない。
「そこの君、待ちたまえ」
マツケン「……え?」
スーツをビシッと決めた髭面のおじさんが、マツケンを呼び止めた。
髭面おじさん「君、よくない咳をしているね。どれ、私に診せてみなさい」
マツケン「え…?はい…」
髭面おじさんはマツケンの顔、首、喉をじっくりと見ていく。
ヤマくん「あの…あなたは誰ですか?」
髭面おじさん「少々お待ちを…うん、これはいけない。君、今日はお家で休みたまえ」
マツケン「…え?」
髭面おじさん「このままで咳が酷くなり、肺まで痛めてしまうかもしれないからね」
マツケン「そ、そうなんですね!ところで、おじさんは…?」
髭面おじさん「おっと申し遅れた。私はタダグチ。医者だった者だ」
ヤマくん「え?医者だった…?」
タダグチ「あぁ。色々あって医者をクビになった訳ありの元医者だ」
…信用できない。
マツケン「そうだったんですね!ありがとうございます!」
ヤマくん「いや、待て。マツケン…ちょっと信用できない。この人、怪しいぞ?」
マツケン「何言ってるんだよ、ヤマくん。この人、元医者だよ?」
ヤマくん「いや、『元』なんだよ…」
タダグチ「はっはっはっ!確かに突然現れて元医者と言われても信用できないだろうね。仕方ない、アレを見せよう」
そう言ってタダグチは待っていたバックから何かを取り出した。
タダグチ「ほら、元医者免許だ」
ヤマくん「いや!元でしょ!?」
マツケン「大丈夫だよ、ヤマくん。この人、元だから」
タダグチ「あぁ。安心してくれ。元だから」
ヤマくん「えぇ…俺がおかしいのか?」
タダグチ「さて、そんな君たちに元医者からよく効くお薬を…」
「おい!待ちたまえ!そこの男!!」
タダグチ「しまった!見つかった!!では、私はこれにて…」
そう言ってタダグチは走り去ってしまった。
「はぁはぁ…君たち、あの男から怪しい薬を売られたりしなかったか?」
息を上げて走って来た男は、灰色のジャケットを着ている。
ヤマくん「されかけましたけど…あれって一体?」
灰色ジャケットの男「あぁ、さっきの男は体調が悪い人に声をかけて、元医者だからと信用させて怪しい薬を売っているトンデモない男だ」
ヤマくん「やっぱり…怪しい男だったんですね」
マツケン「そっか…ありがとうございます!教えてくれて!」
灰色ジャケットの男「いやいや…またあの男に出くわしたら、私に声をかけてくれ。それじゃあ」
ヤマくん「あの…ちなみにあなたは?」
そう聞くと、灰色ジャケットの男は走るのを止めて翻った。
灰色ジャケットの男「…私か?私は"元"刑事だ」
ヤマくん「……元?」
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