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30°

 この小説は、冒頭800文字の面白さを競う比類なきコンテスト《逆噴射小説大賞2024》の応募作です。

 こんど赤点取ったらスマホを取り上げると親に言わてもスワイプがやめられなくて僕はだめだなぁと思うが、こんな集中力を無限に奪う呪物みたいなもんを渡しておいて勉強しろとか何の修行かと思いつつ今もスマホを触って観ているのはハイレグボディスーツだ。

 男子高校生にスマホをぶつけるとインターネットの大海原にセクシーを求めてこぎ出すのは単なる法則だが、親貸与のスマホは年齢制限だけはかかっているので、R18の警告の向こう側に行くことはできない。

 そこで僕が行き着いたのは、通販サイトで露出多めのレディスアパレルを見ることだった。

 そして出会った。
 ハイレグボディスーツに。これはやばい。

 トップスに分類されるものの、見た目は短い袖のついた水着。ただ名前通りのハイレグで、脚の付け根のはるか上、脇腹あたりから股間への鋭角なラインが僕をファンタジーへ誘う。

 分度器をスマホに当てて計ったら38度だった。
 ただ、ここにパンツを合わせるので肝心の部分は見えないから、着用者は普通に街を歩いたりする。
 つまり健全。フィルタ付きスマホでも問題ない。

「ちょっとイクト」
「うぉわっ」

 スマホに夢中で気づかなかったが背後に姉貴がいた。

「あんた、通販サイトのアカウントわたしの使ったままなの忘れてるでしょ」
「あ」

 中学生のとき欲しい靴があってアカウントを貸してもらってたのだ。あ、じゃあ閲覧履歴って……

「えっ、あねっ、ハイレグッ、あっ」
「ほらこれ見て。わたしの研究会のメンバー」
「はぇ?」

 姉は自分のスマホ画面を見せてきた。男女の学生たちの写真だ。姉もいる。
 へんな角度のピースサインをする姉のふたつ隣の女子大生。その服装。

「ハイレグボディスーツだ」
「ハイレグボディスーツよ」

 通販サイトに額装された幻想。それが姉弟の領域に実在する。

「我が視覚刺激反応ゼミにあんたの協力が必要よ」
「はい、お姉様」

 何かがカチリとハマった音がした。

〈続く〉

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うそめがね
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