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ブリリアント・雨のお迎え
雨の中、傘を差してバス停で、奥さんと4歳娘が帰ってくるのを待った。
すこし背伸びをして夜の道路を眺めて、バスの灯りを探す。
スマホをみると、
『さっきバスに乗ったからもうすぐ帰れると思う!』
とLINEが来ていた。
写真も送られてきた。うどんを食べる娘。
『晩ご飯フードコートでうどん食べたよ。完食したよ』
って。偉いなぁ。
とかやってたら、ほどなく、道路の向こうに他の車より頭ひとつ高いバスのライトが見えてきた。
バス停で速度を落とすバスの中に奥さんが見えた。奥さんは手を後ろに伸ばしながら歩いていて、ほかの乗客で見えないけれど、その手の先に娘がいるのがわかった。
バスの降車口の前で待つ。
奥さんと娘が降りてきたので、傘を差し出す。
「あっ、来てたんや!」
「とうちゃん! ずっとまってたん?」
「んーん、そこのコインランドリー行って今来たとこやで」
奥さんと娘も傘を差す。
歩き始めながら、
「とうちゃん、プリンセス・ピーチのごっこしたいなぁ。おねがい〜」
と言うので、
「いいよ」とこたえる。「とうちゃん、誰やったらいい? ピーチ姫やろか?」
「だぁめ! ピーチわたしがやるの! とうちゃんは、てきね」
「敵かぁ。わかった」
傘を差して家路を歩きながら、ゲーム『プリンセスピーチ・ショウタイム』のニンジャピーチと敵のごっこをやる。
ぼくが前を歩く。
娘は傘に隠れながらそろそろ歩く。
「ん?」とぼくが振り返る。
娘は、ピタッと止まる。ニンジャだから敵に気づかれてはならない。
「ふぅん……」気のせいか、とまたぼくは歩きはじめる。
これを家まで繰り返した。
この間ずっと、
この人見知りの闇菓子みたいな人間が雨の中バス停で妻と娘をお迎えして遊びながら一緒に帰るっていうハートフルなドラマや映画やMVとかで描かれまくってる幸せな家族のワンシーンの当事者になってるやんマジか……
とか思って慄いていた。
慣れろよ。
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