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忘れてた馬脚をあばく高輝度のふたり

 メインの仕事は在宅化となりかれこれ2ヶ月は出社していない。
 だがモチベーションとパフォーマンスの維持にもだいぶ慣れてきて良い調子だ。なんだか、自分を律することのできるタフガイという心境である。

 そんな折り、いつもぼくが出張コーヒー屋として出店させていただいているイベントが、自粛による延期を経て3ヶ月ぶりに開催された。もちろんぼくは参加してコーヒーを淹れた。
 久々に不特定多数の身内以外の人間に会う機会だったわけだが、そのときに、あっ、と思った。
 仲の良いひと、顔見知りだけど会話することは少ないひと、初対面のお客さん等、様々な関係のひとがいるわけだが、その中に自分の身を置いて、

(あっ、そういえばぼく人見知りだった)

 ということを思った。今まで不思議と忘れていたぼくという人間のアイデンティティのひとつ。
 知ってるひとが来てくれても再会を喜ぶ言葉が浮かばない。お客さんにコーヒーを勧める小粋なトークが炸裂しない。
 ぼくは人見知りにはちょっと自信がある。自称人見知りは世の中に沢山いるが、人見知りバトルをしたらけっこういいとこまでいけると思う。
 そういうことを思い出した。ぼくはコーヒーをクールに嗜み日々をサヴァイヴするタフガイではなく、面と向かって言えないことをコーヒーにしたためて手渡すシャイなコーヒーナードであった。
 そういう自分がきらいとかでは一切ないのだが、ともかく、はっ、とした。危ない危ない、自分というものを忘れていた。

 コーヒーをドリップするぼくのスペースの前に、雑誌から飛び出したような大学生カップルが来たのだが、すこし会話するにもめちゃくちゃ緊張した。
 大学生カップルは危険だ。感度の高い服を着ているのだ。髪型も今っぽい。
 その高い感度で観測しころされてしまうのではないか。恋人同士ときどき目を合わせながら会話するその空気の奥飛騨感に、汚濁こそ酸素である泥沢人間のぼくは浄化死してしまうのではないか。ぼくは、そんなふうに思った。
 カンデラの桁が違う。目をやられる。消滅しないように気をしっかり持つんだ。ということを思いながら同時に、
(ああ、そうそうこういう感じ!)
 と思った。なんというかこの、コーヒーに興味もってくれて飲みに来てくれてるひとがいるのに、あわあわして、洒脱に話せぬもどかしさ。
 しかしこれこそが美味いコーヒーを淹れんとする気持ちの源泉のひとつである。
 言葉で伝えることが苦手なら、得意なことや好きなことで伝えれば良い。

 出張コーヒー屋という活動をはじめたころ、来てくれる初対面のお客さんに対して、注文をして無警戒のところに大上段の構えからそれまでの錬磨の限りを込めた渾身の一刀を「今日のブレンドです。どうぞ」とばっさり振り抜いてきた。
 そうして響いたひとと縁ができて、この度も出張コーヒー屋をやれているし、なんやかんやで結婚して子どももいるという状態にある。

 大学生カップルという太陽に照らされて、影のカタチで自分を思い出した。ありがとう、大学生カップル。あまり考えるときらきら光を散らしながら塩の柱になってしまうので、このへんで。

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うそめがね
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