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春のデビルキラーズ通勤快速

 通勤電車。いつもの車両いつものドアの前。いつも向かいに立ってる人がいる。ストライプのシャツにセルフレームの眼鏡。とてもきれいな女の人。文庫本を読んでる。どこかの書店のブックカバー。たまに目が合う。何読んでるんですか? と問いかけたいが、とっかかりが無く言葉をのむ。でもおれは今日は声をかけようと思っていた。
《ゲェ~ッヘヘッヘ、いい女じゃねぇーか、襲っちま――》
 窓から車内に潜り込んだ下級妖魔だ。痩せた小鬼にコウモリの羽。下卑た表情。おれの横を通り彼女に向かったので、
 ごぱっ
 と、即座におれはフリョチャギ(回し蹴り)をたたき込み迎撃。顔面を粉砕! 靴には鉄板が仕込んである。
 足元に妖魔の死体が転がる。しかし何事もなく電車は進む。下級妖魔の縄張りを抜ける路線であるため日常茶飯事だ。しかし最近とくに多い。偶然にも、おれが読書する彼女のことが気になりだしたころからだ。
 一方、彼女も文庫本を読みながら、
《グフフフフ……じゅる……男の方もアホ面だが肉はうまそ――》
 すぱんっ
 と、別の窓から潜り込みおれに向かってこようとした妖魔を視線も向けずに本の栞で断首!
 足元に転がる死体。電車は進む。そんな日常。
(話しかけたいけどなぁ……でもなぁ。おれなんかなぁ。でもヘンじゃないよな、「何読んでるんですか?」って訊くくらい)

「えっ? ああ。今は平松洋子読んでます」

 とその人が言った。おれに。なんで?
 どうやら脳内質問が声に出てしまっていた。なんてこった。
「っえ、へ、えェ~……?」
 慌てるおれキモい。が、
「いつも同じ電車ですね」にっこり。

 カッ!

 閃光がほとばしった。比喩だ。しかしそのカンデラは女神のそれ! ただ同じ電車ってだけでおれとは別次元の存在が、お、おおお、おれに笑顔を。
《ゲヒャッヒャヒャ~ッ、骨抜きじゃねぇか! 俺たち妖魔はそういうトキメいてるヤツの肉が大好物なんだぜぇ! ヘラヘラした顔が苦痛にゆがむのが堪ら――》
 窓から下級妖魔!
 どぱんっ
 下卑たその顔面をネリョチャギ破砕! 転がる死体。
「あの、あう……あのえっと~~」
 おれが動転したおしていると、
「ふふっ、あたしもちょっと気になってたんです」不意にその人は花のように笑った。
「っえ、ええー!! あぁーそっそうなん、えー、まじっすか、本当ですか気になってたってそういうアレですか」
《キシャァーーーーッ! 盛大にヘラヘラして美味そうな顔してんじゃねーよ、クソ童て――》
 どずっっ
 闖入する下級妖魔! 眉間に彼女の中指が第二関節まで埋まる! 転がる死体。
「あ……あっ、いえ、気になってたってそういう意味じゃなくってあの、ほら、こんな世の中だし、ずっと同じ人が同じ電車に乗ってるなんてめったにないし」妖魔に襲われてほぼ死ぬし。
《ギャハッハー、女ァ何言ってから照れてんだよホントは嬉しいくせによぉ、美味そうな匂いしてきてんだよテメーの肉――》
 すぱぱっ
 下級妖魔! 本の栞による十字斬で顔面四分割! 転がる死体。
(気になってたってそういう意味じゃないのかぁー……でもっ)
「あの!」
 がっ、とおれは彼女の肩を両手でつかんだ。
「は、はいっ」
《ピプププッ、オネエサンちょっとびっくりしてっけど振り払わねーんだなぁ~~、ふたりしていまスゲエ美味そうな匂いして――》
 ぞぶっ
 下級妖魔! 肩を掴まれながらも鋭利なネイルによる顔面急所5点同時貫通! 転がる死体。
「あうぅあう、あっ、あの、あの……こここ今度あの」
《キョキョキョッ、男らしくいこうとしといて全然ダメじゃねぇーか、キョキョ、どんだけ必死なんだよコノ性欲魔じ――》
 どどぱんっ
 下級妖魔! 肩を掴みながらもプッチョバルンバル破砕! 転がる死体。
「は、はい……」
《キチキチキチ……オネーサンも澄ました顔して心臓がばくばくだわよ……じゅるり……いい年して初々しい匂――》
 どずぶっ
 下級妖魔! ヒールで会陰から串刺し! 転がる死体。
「ここここ、今度、あの……あの……食事にでもいきませんか!?」
《ギャッギャッギャッ! いきなりだなオイ! じゅる……勢いだけで……じゅるり……何でもうまくいくわけあるか馬鹿! でも美味そ――》
 どぼっ
 下級妖魔! ティミョティトラチャギ粉砕! 転がる死体。
「いいですよ、ぜひ」
《キシシッシシ! いいのかよ! いつ俺たち妖魔に喰われるか知れないからって! 軽い! じゅる……その軽い尻喰わせ――》
 ばちぃっ
 下級妖魔! メカニカル眼鏡のヒンジから30万ボルトテーザー電極! 転がる死体。
「っえ……えーーっっいっいいんですか」
《フォホホホホッ、喜んじゃってまあ、美味そう美味そう……じゅじゅる……ガッついちゃって……じゅる……もう食べて良――》
 ずだんっ
 下級妖魔! バンダルチャギ破断! 転がる死体。
「ええ。もちろんです。だってこんな、出会った人が明日生きてるか分からない世の中だもの」
《クケェーーッッ! 確かになァーーッ、美味い肉は美味い内に喰っちまねぇとな! 今のおまえら俺ら的に最高に美味そうだぜ、いやもう俺が喰――》
 びっ……ッ
 下級妖魔! 自律攻撃ピアスによる超高指向性レーザー射! 転がる死体。
「う、うう、嬉しいです! おれも同じこと思ってました。明日なんてわからないから。でも、これで明日も生きのびようって思えます!」
《グワハハハ、聞いたか女。お前などどうせすぐ死ぬのだから思いつきでねんごろになっても後腐れが無くてラクだとよ! 刹那的! 故に純粋! ああ、なんとそそる香りの肉だ! いただきま――》
 どごばっ
 おもむろに中級妖魔! アッチャオルギからのティミョヨプチャギ砕! 転がる死体。
「お食事いつがいいかしら?」
「明日の夜はどうですか?」

 ……ゴゴゴゴ……ゴロゴロゴロ……ピシャアッ!

 走る列車の周囲に突如暗雲、そして雷鳴!
《ファッファッファッファ……笑止! いまから余に喰われて死ぬのにか!? 貴様らに明日は来な――》
 ずだだだんっ
 雷光と共に上級妖魔! 即座に乱れポンファンチャギ全身骨粉砕!
 ぴぃ……ん――
 さらに秘奥・ダマスカス栞が閃きサジタル面一文字両断!! 転がる死体。

《まもなくK駅~K駅~》

「じゃあ、おれここなんで」
 足元に敷き詰められた妖魔の血と肉片を飛び越えておれは下車する。
「はい、また明日」
 彼女はまだ先の駅だ。笑顔で手を振ってくれた。おれも手をあげて応える。
(くぅぅぅ~っ、素敵な笑顔だなぁ、勇気だして誘ってよかったなぁ~)
 最高に嬉しい。天にも昇る喜び!
 ドアが閉まるのを見送ってからおれは、ホームで思わずスキップしてしまう。たたんっ。そしてジャンプ!
《キィーキキキキッッ、なぁ~に美味そうな……じゅる……匂いさせて……じゅるる……浮かれてやがんだアタマ湧いて――》
《キャヒヒーッ! じゅるり……喜んでるやつを痛めつけて喰うのがおれぁ楽し——》
《シィシィシィ! 喰わせろ喰わせろ喰わせろ……じゅるじゅる……喰わせ――》

 どぱどぱどぱんっ

 ホームにも下級妖魔! 妖魔は人の喜びの感情を苦痛に変えるべく寄ってくる! が、空中三連続ターンチャギ破! 転がる三つの死体。見上げれば青い空。

「あァ~~~~っ! 明日が来るのが楽しみだああああ!」

   了

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うそめがね
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