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我らが超克ねえさん(2歳)、クルマでおでかけする
先日2歳になる娘と奧さんの三人でドライブした。レンタカーでGO!だ。
だが、これは大いなるチャレンジであった。
娘をクルマに乗せるということ。
以前これを行ったのは1年半ほど前になるか。娘はクルマに乗るのがいやで仕方ないようだった。そのときもレンタカーだったけど、手続きしてキズ点検してさあ乗るか! という時点で、
「あああああああ! ぎぃああああああああ!!!」
と泣いて抵抗した。
これは、そのとき娘が出すことのできるアルティメットフルマックス泣きであり、本当にいやなんだな……と思った。
その時点でも電車はバスはわりと大丈夫だし、走り出せば収まるのでは? と思ってなんとかベビーシートに乗せてGoしたけど、行きも帰りも疲れて眠ってるとき以外はずっと超克限界突破泣きだった。大音声のヴェールが折り重なって最終的にビブラートがかかってたりした。
ぼくは運転に集中してたからそうでもなかったけど、ずっと横でなんとかあやそうと腐心しつづけた奧さんはめちゃくちゃ疲れたようだった。そらそうですよね……
――というそんな経緯あったにも関わらず今回またドライブした。
クルマでお出掛けするというのはめちゃめちゃ可能性に満ちておりワクワクするからである。それに核家族のみの密室のまま移動ができるのは対・感染症の観点で魅力だ。
また、大いなる挑戦に踏み切った最大の要因は、娘のフロンティアスピリッツである。
最近の娘の好奇心や、以前はこわがっていたことに挑戦して「タノシイ!」に変えていくパワーにはすさまじいものがある。
ブランコや滑り台も好きになったし、保育ルームのトランポリンも、最初は乗せてみてもちょっと足元ふわふわするとすぐ「おりる……こあい……」となっていたのが、つい数日前ひさびさに連れて行ったときは自分からよじ登って「たのしいいいい!」って言いながらびょんびょんしていた。
それでもクルマはこわがると思ったのだけど、いまの娘なら「こわいけど、やってみたらタノシイ!」まで辿り着けるような気がしたのである。
普段ふと、「ブッブーのりたい?」って訊いたら「のりたーい!」って言ってたし……
(意味はわかってない可能性あるがそこには気づかないふりをした)
果たして、久々のドライブである。
何度かお世話になってるレンタカー屋さんに家族で赴き手続きを済ませて、さあこれから搭乗。
――が、クルマのドアを開けると娘は、
「いや! いやいや! なんで!」
と首を振った。
ざわり……
ぼくと奧さんの胸に去来する「まだ早すぎたか……」という感情。顔を見合わせて、
(やっぱり無理なのかな)
(どうする? やめる?)
とアイコンタクト。
だが――
「行ってみよう」
という結論を出した。娘を信じることにしたのだ。
それに、もし走り出しても無理なら、クルマで1分のとこにあるファミレスに速攻停車して、ご飯食べて、そのあとぼくひとりでドライブとしゃれ込む休日に移行しよう……というプランも建てていた。
だが、退路は用意しつつもベストは尽くす。奧さんが叫ぶ娘をチャイルドシートに乗せようと奮闘している間にぼくはスマホでYouTubeを準備する。
娘が「アンパンマンパーティ!」と呼び習わし敬愛する比類無きチャンネル《アニメキッズ》のパワーを頼るのだ。
娘はこのときすでに、
「アアアア!! おりる!! おりる!!」
と、10倍界王拳を使用していたが、アニメキッズをエンチャントしたスマホを見せるとひととき声が止まった。
急ぎ荷物を積み込み出発した。
結果は上々であった。
往路こそYouTubeを見せ続けつつ、娘は奧さんの手をぎゅっと握って離さなくって、不安でいっぱいの様子であったが、帰るころにはすっかり余裕だった。
YouTubeをみせなくても大丈夫。アンパンマンのおうたを流していっしょに歌ったりしながらたのしくドライブができた。
ぼくは運転しながら夢心地だった。だって信じられない。実はけっこう、娘とクルマは絶対に相容れない組み合わせなのでは? と思ったりしてたから。
――ふと、
「ブッブー、たのしーね!」
と娘が言った。
「またいこーね!」
奧さんとぼくはバックミラー越しに目を合わせた。
(聞いた? いまの)
完全に娘がクルマを克服した瞬間であった。その瞬間とはつまり、我々を取り巻く世界が徒歩と電車移動で行ける範囲から、クルマで行ける範囲へと一気に広がった瞬間であった。
我々家族の地図のブランクが、ドゴォ! と音をたてて崩れ、新たな世界が姿を見せたのである。
ああ、いまわかった。自動車はこのためにこの世に産まれたのだ。道路などのインフラはこのために整えられつづけてきたのだ。ぼくらの娘がクルマでいろんな場所に行くために!!
ありがとうクライスラー。ありがとう国土交通省。
そしてありがとうトヨタレンタカー。
クルマを返却するとき、感情がいっぱいになっていたので、受付のおねえさんに、
「ずっと娘はクルマが怖くて前は泣き続けて大変だったんですけど、きょうはたのしくドライブできて、ブッブーたのしい!って言ってました」
と伝えた。いいクルマをありがとうございます、と。
受付の方は小さい子どもはやっぱり最初は泣いちゃうことが多いという話をしてくれた。そして娘がクルマを楽しく乗れたことをいっしょに喜んでくれた。
「またお願いいたしますね」
「こちらこそ」
と笑顔で挨拶して我らは家路についた。
帰り道、今度はどこに行こうか、という話を奧さんとした。今回はドライブの成功そのものが目的だったから往復1時間くらいのショッピングモールに行ったのだけど、今度はもうちょっと足を伸ばせるね。
でも、今まであんまりクルマで出かけることを考えなかったからあんまり思い浮かばなくて笑った。だがそれは同時に、どこにでも行けるということでもあるためめちゃめちゃワクワクした。
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