Newton力学⑥ 仕事と力積
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・極限と微分,積分(準備中……)
・ベクトル,行列とベクトル解析(準備中……)
Newton力学の6回目です。
今回は,力を別の角度から見直してみます。
大雑把に言うと,「最初の方でお話しした”運動エネルギー”と”運動量”を活用しよう!」というお話です。
つまり,「運動している物体がある」のではなく,「運動エネルギーと運動量がある」と捉えなおしてみましょう,という回です。
仕事とポテンシャルエネルギー
運動エネルギーと仕事
運動エネルギー$${K}$$を時間で微分してみましょう。
$$
\dot{K}=\dfrac{m}{2}\dot{\left(v^2\right)}=m\dot{\boldsymbol{v}}\cdot\boldsymbol{v}=\boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v}
$$
$${\boldsymbol{F}}$$が変化していないとみなせるほど小さな時間変化$${\delta t}$$を考えると,
$$
\delta K=\boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v}\delta t=\boldsymbol{F}\cdot\delta\boldsymbol{s}\ (\boldsymbol{s}\text{は曲線上の座標})
$$
ゆえに,位置Aから位置Bまで,曲線$${C}$$上で線積分すると,
$$
\Delta K=\displaystyle\int_{\text{A},\ C}^\text{B}\boldsymbol{F}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}
$$
右辺は比較的すっきりした形をしており,これを,“(外力がした)仕事$${W}$$”と名づけます。
運動エネルギーの,速さの2乗に関する比例定数を$${\dfrac{m}{2}}$$という中途半端な値にしたのは,仕事の形をすっきりさせるためだったんですね……。
ポテンシャルエネルギー
$${W}$$は,基本的には経路によって異なる値をとります。しかし,$${\boldsymbol{F}}$$によっては,始点と終点を決めれば,線積分が経路によらず一定になることがあります。
このような特別な力$${\boldsymbol{F}_\text{cons}}$$(下で述べる理由により”保存力”とよばれる)のする仕事は,移動の経路にかかわらず自動的に加算されてしまうので,移動の経路に依存する項と分けておくと,物理的に意味がありそうです。
保存力$${\boldsymbol{F}_\text{cons}}$$を受けて,曲線$${C}$$上を点Aから点Bまで移動したときの”ポテンシャルエネルギーの変化量$${\Delta U}$$”を,次の式で定義します。
$$
\Delta U=-\displaystyle\int_{\text{A},\ C}^\text{B}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol s
$$
このとき,保存力以外の力[非保存力]$${\boldsymbol{F}_\text{non-cons}}$$(人が加える力や,摩擦力など)を用いて,
$$
\Delta(K+U)=\displaystyle\int_{\text{A},\ C}^\text{B}\boldsymbol{F}_\text{non-cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}
$$
この式で,$${K+U}$$のことを力学的エネルギーといいます。すなわち,非保存力がはたらいていないなら,$${\Delta(K+U)=0}$$(力学的エネルギーの保存則)。
力学的エネルギーを保存させるような力なので,$${\boldsymbol{F}_\text{cons}}$$を”保存力”と名づけたのです。
(ちなみに,$${U}$$を”ポテンシャルエネルギー”とよぶのも,このあたりに由来しています。ポテンシャルエネルギーは,将来的に運動エネルギー$${K}$$に変わりうるのです。)
ただ,$${U}$$の定義が$${\Delta U}$$の形になっているのは,不満です。$${U}$$を$${\Delta U}$$の定義から計算すると,
$$
U=-\displaystyle\sum_{k=1}^N\int_{\text{A}_{k-1}, C_k}^{\text{A}_k}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}=-\int_{\text{A}_0,\ C_1+C_2+…+C_N}^{\text{A}_N}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}
$$
となるのですが,初期位置を知らないとポテンシャルエネルギーが求まらないのは,ちょっと不便です………。
ここで,次の式を満たす,ポテンシャル$${V(\boldsymbol{r})}$$を考えます。
$$
-\displaystyle\int_{\text{A},\ C}^\text{B}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot \mathrm{d}\boldsymbol{s}=V(\boldsymbol{r}_\text{B})-V(\boldsymbol{r}_\text{A})
$$
すなわち,
$$
V(\boldsymbol{r})=-\displaystyle\int_{\boldsymbol{r}_0,\ C}^{\boldsymbol{r}}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}\ (\boldsymbol{r}_0\text{は,適切にとった基準の位置})
$$
こうすることで,初期位置を知らなくても,ポテンシャルエネルギーの変化が分かります(重要なのはポテンシャルエネルギーよりもポテンシャルエネルギーの変化量だけなんですね……)。
めでたしめでたし。
(蛇足ですが,「初期位置のことを”基準の位置”とよび替えただけ」という見方もできます。高校で習う,いわゆる”位置エネルギー”は,この意味で”ポテンシャル”のことです。)
保存力の条件
ところで,保存力は,どのような条件を満たすのでしょうか?
ここで,閉曲線上の線積分[周回積分]を考えてみます。
$$
\displaystyle\oint_{C_1+C_2}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}=\displaystyle\int_{\text{A},\ C_1}^\text{B}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}+\displaystyle\int_{\text{B},\ C_2}^\text{A}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}=\displaystyle\int_{\text{A},\ C_1}^\text{B}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}-\displaystyle\int_{\text{A},\ C_2}^\text{B}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}=\displaystyle\int_{\text{A},\ C_1}^\text{B}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}-\displaystyle\int_{\text{A},\ C_1}^\text{B}\boldsymbol{F}_\text{cons}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}=0
$$
さらに,Stokesの定理から,
$$
\displaystyle\iint_S(\boldsymbol{\nabla}\times\boldsymbol{F}_\text{cons})\cdot\boldsymbol{n}\,\mathrm{d}S=0\\\Leftrightarrow(\boldsymbol{\nabla}\times\boldsymbol{F}_\text{cons})\cdot\boldsymbol{n}=0\Leftrightarrow\boldsymbol{\nabla}\times\boldsymbol{F}_\text{cons}=\boldsymbol{0}\ (\boldsymbol{n}=\boldsymbol{e}_x,\ \boldsymbol{e}_y,\ \boldsymbol{e}_z\text{を順に代入すると分かる})
$$
また,保存力とポテンシャル$${V}$$の間には,$${\boldsymbol{F}_\text{cons}(\boldsymbol{r})=-\boldsymbol{\nabla}V(\boldsymbol{r})}$$という関係が成り立ちます。
(実際に代入してみれば分かります。)
まとめておきましょう。
保存力である条件
以下のうち,ひとつを満たせば保存力である。。
①仕事が,始点と終点を決めれば,経路によらず一定
②閉曲線上の仕事が0
③$${\boldsymbol{\nabla}\times\boldsymbol{F}=\boldsymbol{0}}$$
④$${\boldsymbol{F}=-\boldsymbol{\nabla}V}$$を満たすポテンシャル$${V}$$が存在する
運動量と力積
力と運動量の間には,次の式が成り立つのでした。
$$
\mathrm{d}\boldsymbol{p}=\boldsymbol{F}\,\mathrm{d}t
$$
両辺を積分すると,
$$
\Delta\boldsymbol{p}=\displaystyle\int_{t_0}^t\boldsymbol{F}\,\mathrm{d}t
$$
この式の右辺を”力積$${\boldsymbol{I}}$$”とよびます。
演習問題
今回得られた式は二つ。
$$
\Delta K=W:=\displaystyle\int_{\text{A},\ C}^\text{B}\boldsymbol{F}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{s}\\\Delta\boldsymbol{p}=\boldsymbol{I}:=\int_{t_0}^t\boldsymbol{F}\,\mathrm{d}t
$$
これらの式を,”二体問題”とよばれるものに応用してみたいと思います。
問
図のように,2質点が衝突したとき,それぞれの衝突後の速さはどうなるか。
答
力学的エネルギーの保存則は,基準の位置を衝突位置にとることで,
$$
\dfrac{m_\text{A}}{2}{v_\text{A}}^2+\dfrac{m_\text{B}}{2}{v_\text{B}}^2=\dfrac{m_\text{A}}{2}{v_\text{A}'}^2+\dfrac{m_\text{B}}{2}{v_\text{B}'}^2
$$
また,運動量を考えると,作用・反作用の法則から,
$$
\boldsymbol{I}_{\text{A}\to\text{B}}+\boldsymbol{I}_{\text{B}\to\text{A}}=0
$$
ゆえに,
$$
\Delta(\boldsymbol{p}_\text{A}+\boldsymbol{p}_\text{B})=\boldsymbol{0}\ (\boldsymbol{運動量保存則})
$$
であり,
$$
m_\text{A}v_\text{A}-m_\text{B}v_\text{B}=m_\text{A}v_\text{A}'-m_\text{B}v_\text{B}'
$$
これを解いて,$${v_\text{A}'=\dfrac{m_\text{A}-m_\text{B}}{m_\text{A}+m_\text{B}}v_\text{A}-\dfrac{2m_\text{B}}{m_\text{A}+m_\text{B}}v_\text{B},\ v_\text{B}'=-\dfrac{2m_\text{A}}{m_\text{A}+m_\text{B}}v_\text{A}-\dfrac{m_\text{A}-m_\text{B}}{m_\text{A}+m_\text{B}}v_\text{B}}$$を得る。
二つの保存則を確認しておきます。
①力学的エネルギーの保存則
非保存力の合力が0ならば,$${\Delta(K+U)=\Delta(K+V)=0}$$
②運動量保存則
外力の合力が0ならば,$${\Delta\boldsymbol{p}=\boldsymbol{0}}$$
今回はここまでです!
ありがとうございました。
Newton力学編 目次
① 力学とは何か
② 位置の表し方
③ 運動エネルギーと運動量
④ 運動の三法則
⑤ 種々の力
⑥ 仕事と力積 ←今ココ!
⑦ 運動方程式を解く
⑧ 回転運動
⑨ 剛体の運動
⑩ 反発係数
◼︎ 章末問題
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