ShortStory『ヨミキカセ』
彼女はいつも、桟橋に腰かけ本を読んでいた。
時折ぷらぷらと揺れるスニーカーは、退屈さゆえか、楽しさゆえか。
彼女の心が知りたくなった私は、気づけばいつもより5歩近づいていた。
あれ?音読してる?
もう3歩進むと声はクリアになり、彼女が“話している”事に気づいた。
海に。
───午前9時17分。
「今日はここまで。」
そう笑う彼女の笑顔は優しくて優しい。
「これで少しは元気出た?綺麗な言葉は元気になるでしょ?」
そう笑う彼女の笑顔は儚くて、儚い。
年々、人の手により透明さを失う海を労るように眺める瞳はどこまでも澄んでいる。
彼女はきっと、与えられる大きな恵みに何かを返したかったんだ。
例えば、ほら、
読み聞かせみたいな、温もりとかを。
もうすぐ夏の太陽が海のそばを離れていくから、さ。
│物語図鑑とは、
Instagramで出会ってくださった方々のお写真をお借りして
1枚のお写真からソウゾウされるShortStoryを紡ぐ企画です。
誰にでも、どこにでも、どんな瞬間にも物語がある事を信じて
物語を書き続けています!
ご依頼は、Instagram「@316mihiro___」まで。
▼今回の元投稿