タクシーの「事前確定運賃制度」が早期に一般導入されるべき理由
どうも,しもおさです.
前置き
皆さま,タクシーの「事前確定運賃」制度をご存知でしょうか.
まあ読んで字の如くではあるのですが,事前に運賃が確定する制度です.
交通手段として「おかしい」運賃体系
タクシーといえば,目的地まで行ってみないと料金が分からない 交通手段なのは皆さんご存知かと思います.でも普通に考えたらこのシステムって変だと思いませんか?ぼくは思います.
他の交通手段を思い浮かべてください.鉄道でもバスでも飛行機でも船でも.すべて事前に運賃・おおよその時間が分かっていて,それを見て「じゃあこの値段と時間ならこの手段で行こう」という流れで移動手段を決めると思います.
すなわち,コスパと自分の中の価値観を総合して移動手段を決めるのが普通かと思います(やや専門的に言えば,ある個人の効用が最も大きくなる選択肢を選ぶ).
でもタクシーはどうか.事前に運賃も時間も(時間はその気になれば調べられるけど)分からないので,上の構図が全く成り立ちません.つまり交通手段を選択しようという場面において,かなり異質な存在となっていることが分かるかと思います.
このことが何を意味するか.僕としては,タクシーの利用機会損失を招く結果になっていると考えています.言ってしまえば,ただでさえキロ当たりの運賃が非常に高いうえに,博打要素が強い交通手段な訳ですから,ごく一般の人間からすれば手段選択時の不確定要素が多すぎて,手段選択肢として導入しがたい のではないかと思います(少なくともぼくは前述の不安からプライベートでタクシーをほぼつかいません).
「事前確定運賃制度」というチョイス
そこで,事前確定運賃制度 という選択肢の登場です.
配車アプリを活用して、タクシーに乗車する前に運賃が確定することにより、「渋滞や回り道等により運賃が高くなるかもしれない」「到着するまでメーターが気になる」というタクシー運賃に関する不安がなくなり、タクシーが利用しやすくなります。
(国土交通省,「タクシーの事前確定運賃サービスがスタートします
~タクシーを使いやすく、安心して利用できるようになります~」,https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000312.html より引用)
とあることから,まさに前章で述べた不安に対するアプローチとして,実際に導入が始まったわけです.
このシステムは,事前にアプリ上で乗車地・降車地を指定したうえで,提示されたいくつかのルート選択肢からルートを選択することで,事前に運賃を確定させタクシーに乗車できるというものです.
また,大手各社では配車&ネット決済アプリ上からの利用となっているため,決済機能を併用して事前に確定した運賃をネット決済で支払うことが出来るようになっています.この機能で降車時の手間を省く,という側面も持ち合わせています.
この制度が導入できるようになったのは,①Webマップのルーティング精度向上,②業界でITを用いた技術革新を行う流れが少しずつ出始めた,この2点によるところかと思います.
(※以下,少し技術的な部分は知識不足なので言い回しなど間違ってたらすんません)
何より運賃を確定させるには,アプリ内において,ある地点間のルートとして適切なルート(の選択肢群)を算出する必要があります.その際に用いられるのがWebマップですが,精度は確実に向上してきており,算出されるルートが妥当性の高いものになってきていることから,こうしたルート確定にも用いれるようになってきたのではないかなと思います.
事前確定運賃制度の現状(問題点)
現状では,まだ事前確定運賃制度の運用開始から半年程度しか経っておらず,その間に昨今の流行病の襲来による圧倒的タクシー需要減という状況を経ているため,
具体的な利用状況やフィードバックなどの検証結果は見られていないのですが(もしそのような記事などあったら教えてください),現状の運用状態では以下のような問題があると考えます.
- 迎車利用前提の制度
現状,事前確定運賃制度は迎車利用が前提となっています.すなわち迎車料金(23区なら大体420円)がかかります.
迎車利用は追加料金がかかるのもあり,大体が中距離以上(3000円以上)のお客さんであり,そのような距離的・時間的にブレが出やすい乗車に対し,事前確定運賃を用いて運賃確定をしているという側面があります.
確かにそうした状況において,運賃の事前確定をすることが利用者利便に適っているのは一理あるのですが,
私自身は,本当に事前確定運賃制度が必要とされているのは,短距離利用の場合だと考えています.
私自身がタクシー短距離利用推進している(したい)と考えているというのは以下の記事で詳しく述べていますが,
「公共交通としてのタクシー」のあり方としては,ファースト/ラストワンマイル輸送としても活用される状況が理想(というかそうあるべき),すなわち鉄道やバスで補いきれない,末端部の細かな移動需要充足も果たすべき役割であると考えます.
で,そういった短距離利用を検討する層って,言い方として語弊があるのは承知ですが,自分自身もその立場なので書きますと
「ちょっとした移動(駅まで,鉄道・バスじゃ少し移動しづらい場所までとか)に使おうか悩むけど,料金どれくらいになるかイマイチ分からないから使いづらい」と思っている”一般人層”
であり,そういった層に対して「事前確定運賃制度」は大きな効果を発揮すると考えてます.まさに「料金どれくらいになるかイマイチ分からないから使いづらい」に対するアプローチですので.
そして,ものすごく語弊がある言い方をすれば,
移動をタクシーで済ませられる(いわばハイヤーみたいな使い方をしている)くらいの都内の中・上流層は料金をそこまで気にかけない
と思っています.
勿論ビジネス移動であったり,傷病などの理由があってタクシーを長距離お乗りになっている方もいるので一概に中・上流層が云々だけで語れないのは確かなのですが,
現状の”未確定運賃制度”のもとでタクシーを頻繁に利用されている方は少なくともそうした傾向があるのは間違いないと思っています.
- 運賃算出プロセス
以下に国交省の制度運用ルールを貼り付けました.
軽く解説をすると,以下の式を用いて事前確定運賃を算出すると書いてあります
事前確定運賃 = 距離運賃 x 統一係数
距離運賃は今まで通り(23区なら)初乗り420円/1052m,以下80円/233m という距離によって決まる料金部分です.
統一係数 とは?というところですが,要は 時間帯別割増 のための係数みたいなもので,曜日・時間帯ごとに決められています(○曜~時台はx.xx など).
ですので,上記リンクの例でいえば,月曜15時台に距離6.5kmを乗った場合には,距離料金2250円 に月曜15時台の係数1.15を乗じて 2590円 として事前確定運賃を算出しているわけです.(※この係数自体は確か実運用とは異なります.)
ただ,この統一係数の存在が事前確定運賃の一般導入に大きなネックとなっています.
統一係数は いわば 時間料金(80円/85秒)の部分を算出するために導入されている部分なのですが,これが場所によらず曜日・時間帯だけに依存するとして一律で計算されてしまうわけです.
当然同じ時間帯でも道路状況は場所により全く異なるので,現状のシステムだと従来からの算出方法より高くなる場合,安くなる場合の両方が発生します(たとえ同じルートでも).
ですので,これを"従来のメーター運賃と近い値を算出する上では(この仮定大事)" 実際の道路状況を反映した計算方法を導入していくことが必要になるのですが,その研究はまだなされていない(はず)のが現状です.
とはいえ「事前確定運賃制度」が一般導入されるべき訳
表題にもあった通り,ぼくは「タクシーの「事前確定運賃制度」が早期に一般導入されるべき」だと考えています.ここでいう一般導入とは「運賃算出の基本が事前確定運賃制度に則った制度を使う状況」とします.
この事前確定運賃制度を導入すべきだと考える理由は以下の点からです.
① 利用料金の明確化(とその算出された料金と実料金の一致)
→ 「タクシーは料金がわからない,そういうもの」.そういう前提はあまりにもこの状態が放置されているから根付いてしまったもの.普通に考えたら交通手段(そもそも運送契約締結)としておかしい状態のはずです.交通機関としてタクシーを用いてもらう上では,そうした不確実性に対する解決策として「事前確定運賃制度」は早急に導入が必要であるのは明白だと思います.
② 【乗務員側】の心理的負担軽減
→ 顧客側だけのメリットではなく,乗務員にとってもメリットがあると考えます.正直私としては乗務員をやっている中で,信号などで停止したり,道路混雑が発生している状況,すぐにリカバー出来る軽い道間違えであっても,料金が上がっていってしまうことに結構ストレスを感じます(というかトラブルが起きないか不安に思います).
事前に料金が確定できる事前確定運賃制度は,トラブルの大きな原因である料金の変動を抑えることができ,こうした心理的負担を回避するうえで有効であると考えます.
(※お客さん側としても料金が決まっていない以上,上記のような場面では不安に感じる方も少なくはないと考えています.恐らく口には出さない方が多いと思いますが.)
③ 運転ルートの明確化
→ 正直,運転手をやっていても知らない場所,知らない道はかなり多くあります.
ですので,ナビを使って走行することも少なくないのですが,その時の安心感といったらこの上ありません(まあ弊社のナビはややポンコツなので,たまに案内が下手糞な時があって油断はできませんがw).
逆に,お客さんに道を教わりながら走る場合は,正直不安な時も少なくありません(お互いの認識齟齬があって間違えを起こしかけるときもありますし).
事前確定運賃制度はルートを指定しているが故に料金が算出できるため,逆に言えばお客さんからルートが全て指定された状態で走行ができるわけです.
勿論,指定ルート通りに走らなければいけないというプレッシャーはあるのですが,万が一間違えても過剰な運賃を請求することにはならず,料金的なトラブルは生じにくくなるといえます.
④支払業務の簡略化・速達化
現状のようなアプリの運用をそのまま導入すれば,支払い業務が非常に簡略化出来ることも非常に大きなメリットです.
降車時の支払操作は結構時間がかかることも多いので,乗務員・お客さん双方にとって意外と面倒だったりしますし,何より道路上で止めている場合が多いので,交通の阻害となっている場合が多いです.
支払いを簡略化し,その時間を減らすことが出来る点で,こうした問題点に対する解決策としても有効であると考えられます.
根本的な部分に対するぼくの考え
問題点として挙げた「運賃算出プロセス」において,"従来のメーター運賃と近い値を算出する上では(この仮定大事)" というように記述をしていました.
「この仮定大事」の部分には,「従来のメーター運賃と近い値を算出する必要はない」という含意があります.
すなわち【新たな距離料金にのみ基づく運賃体系】または【一律時間帯混雑料金のみを加算した運賃体系(現在の事前確定運賃制度に近い算出プロセス)】を前提とすることで,この事前確定運賃の算出プロセスの問題点を打開できるのではないかということです.
そもそも,タクシー料金に時間料金が含まれていることは,タクシー利用者にとっては何の得でもありませんし, 他の交通手段でこうした時間部分に対する課金制度を導入している交通手段はないはずです(時差回数券などの実質的時間帯別の割引の運用はありますが,基本運賃の段階で時間による課金をしている例ではない).
じゃあなぜ時間料金があるか,それは単純に乗務員の賃金が歩合制によるために,お客さんを乗せている拘束時間に対しても料金発生をさせないとつり合いが取れないからに過ぎないと思います.
まとめれば,時間料金という制度が事前確定運賃制度の導入の足かせになっているといっても過言ではなく,その時間料金を発生させる原因が一般乗用交通手段なのに歩合制をとる業界の賃金体系にあると思います.
そうしたことからも下記記事の主張は生まれています.
とはいえ,運賃自体は当然国交省の認可が必要であり,「じゃあ弊社はこの運賃体系に変えます!」といってすぐ変えられるものではないことも確かです.
○道路運送法
(一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金)
第九条の三:一般乗用旅客自動車運送事業者は、旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。)を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。
これを変更しようとするときも同様とする。
しかしながら,国交省が本当に「タクシーが公共交通機関である」とみなすならば,こうした点から問題視していく必要があるのではないかと考えています.
こうした【矛盾】や【昔からの制度による足かせ】に近いような実態が問題視されることはほぼなかったように思いますし,もしかすると実は矛盾ではないのかもしれない.でも,ここで疑問を呈しておくことが,何らかの議論に繋がることを期待したいと僕は思います.
そして自分自身もこうして色々批判を書いているだけではなく,実現のためにどうしていけばよいのかといった点にも主眼を置きながら,今後の戯言も書いていきたいと思っています.
まだ色々考えていることはあるので,引き続き戯言シリーズは書いていきたいと思います.
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