手話通訳者と手話通訳士の違いがよくわからない人へ
私は最近、モヤモヤすることがあります。
よく手話通訳者として現場に行くと、
「手話通訳士さん、こちらです」と
言われるのです。
これはまだ良いほうで、
「手話さん」と呼ばれることもあります。
こんな時、私の心境は結構モヤモヤしていて、
担当の方にとっては、手話通訳者も手話通訳士もどっちも変わらないんだろうなーと思っています。ちなみに、通訳者間では結構、その差は違いますし、聴こえない方にとって同様に捉えていると思います。
なので、今回、あまり話されて来なかった手話奉仕員、手話通訳者、手話通訳士の違いについて書きたいと思います。筆者の主観も含まれていますので、鵜呑みにしないで頂けると幸いです。
手話通訳者と手話通訳士
手話通訳者と手話通訳士で、明確に違う点は手話通訳者は広義で言えば手話通訳業務を行う者を意味し、手話通訳士は資格取得者を指す言葉です。
なので、手話通訳者であっても、手話通訳士の資格を取得していなければ、手話通訳士ではないということになります。
また、手話通訳士は厚生労働省認定の資格であり、専門性が格別に高いわりに未だに技能資格として見なされ、国家資格に位置づけされていません。
また、2019年の合格率は、11%
1100人が受験し、合格者は121名程。
合格者の平均年齢は、47.4歳。
現在の手話通訳士総数は、3,807名(2019.2.29時点)
日本の人口が約1億2601万人に対して、
約0.00003%の数値。その殆ど女性であり、
男性は稀少な存在と言わざる終えません。
http://www.jyoubun-center.or.jp/slit/
なぜ、男性が少ないかというと、
調査がないので個人的な意見になりますが、
低賃金であることとボランティアとして長らく見られており通訳者の多くが主婦の方々によって支えられてきた背景が関係していると思われます。
また、通訳士試験は一年に一回。
会場は、東京、大阪、熊本の三会場のみ。
試験料は、21,600円。
試験内容は、学科試験と実技試験で2日間。
学科では聴覚障害の基礎知識や国語、
実技は読み取り通訳(ろう者の手話をみて声をだして録音する)と、聞き取り通訳(イヤホンから流れる音を手話表現してビデオ撮影する)を行います。
どうでしょう。地方の方は試験を受けるだけでも大変だと思いませんか?
主婦の方は2日間も家を空け、交通費を払って、受験しに行くわけです。
聞いた話では、試験が難関で10年以上受け続けている方もいると聞きます。また、あえて受けないという方もいる訳です。ここに手話通訳者の葛藤があったりもする訳です。
手話通訳者と手話奉仕員
では、手話通訳者の狭義とはどういう意味でしょうか。
手話通訳者は、個人依頼を除いて一般的に市区町村で派遣される場合には"意思疎通支援事業"の要綱にもとづいて派遣されます。
厚生労働省は意思疎通支援事業を以下のとおりにまとめています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sanka/shien.html
簡単に言えば、
市区町村単位で派遣されるのが "手話奉仕員"
都道府県単位の広域で派遣されるのが"手話通訳者"となる訳です。
そして、養成カリキュラムは整理されてきていますが、残念ながら、登録制度などは各自治体に委ねられているため、各自治体によって手話奉仕員の能力に差が出てしまっている実情があることは否めません。これが、手話通訳の地域格差につながっていると思っています。
例えば、ある自治体では手話通訳を担ってくれる人が少ないため、手話奉仕員講座を修了した者を手話奉仕員として登録している自治体もあります。なので、講座を修了したばかりの新人とベテランが混在している自治体もあります。
一方で、登録試験を用いて手話奉仕員の登録にも一定基準を設け、新人研修も密に行い、一定の技術が担保された通訳奉仕員しかいない自治体もあります。
何も知らないまま、現場に行かなければならない通訳者も辛いですが、全ては現場で通訳を受ける依頼者であるろう難聴者の権利にも関わってくるため、今後は地域格差を解消していくことが各自治体に求められると言えるでしょう。
モヤモヤの正体〜では、なんと呼べば良いのか
そこで、私が感じるモヤモヤの正体ですが、
私は社会の多くの方にも手話通訳制度や
手話通訳者について知ってもらいたいという
潜在的な気持ちがあることに気づきました。
また、手話通訳士は資格であるため、
「通訳担当の方」とか「通訳者さん」などが
無難な呼び方が良いのでは、思っています。
地方によっては、
「あの人は手話通訳士だから…上手いはずだ」
とか、資格がなぜか一人歩きしてしまい、
個人よりも先に立ってしまうことがあります。
そんな時に私は、
「私の手話を見てから言って欲しい」
と心の中で叫んでいるのです。
世にも珍しい男性通訳者ならば尚更
地方に戻った時には珍獣?神獣?あつかいw
「手話通訳士なのに」とか
「手話通訳士だから」とか
常に好奇の目でさらされ、心を痛めることもありました。今はもう慣れましたがw
また、手話通訳士を取得していない通訳者でも技術が高い方は腐るほどいます。
資格はあくまでも一定水準であって、
受験されるのは個人の自由だということを理解しておかなければなりません。
ただし、自治体によっては都道府県の手話通訳者を手話通訳士以上の者のみ登録試験が受けられると位置付けている所もありますので、ご留意下さい。
今後、多くの市民の方々が手話通訳者に
関心が向くことを祈っています。
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