
神戸に眠る廃墟の女王 ~旧摩耶観光ホテル~
「廃墟」観光が静かなブームとなっています。
荒廃した建物が、なぜ人々を魅了するのでしょうか?
朽ち果てた建造物に感じる寂しさ。
過去の栄光から一転した静けさ。
廃墟する前の美しい姿の想像。
さまざまに心を揺さぶる廃墟です。
「廃墟の女王」と呼ばれる神戸の摩耶山に眠る「旧摩耶観光ホテル」などを巡る「マヤ遺跡ガイドウォーク」に参加しました。
何度も歩いている身近な摩耶山ですが、文化遺産・歴史遺産としての説明を聞きながらの散策は、予想以上の興味深さでした。
そのツアー体験を記事にまとめました。
摩耶ケーブル駅から始まる冒険
集合場所は摩耶ケーブル駅。普段は歩いて登る自称健脚派の私にとって、初めての摩耶ケーブル乗車です。

ケーブルカーは、摩耶ケーブル駅から中腹の摩耶ケーブル「虹の駅(旧摩耶観光ホテル前)」まで。ここでロープウェイに乗り継ぎ、山頂近くの「星の駅」まで上がります。
摩耶ケーブルは、1925年(大正14年)の開業。2025年1月6日で開業100周年を迎えました。
1985年(平成7年)の阪神・淡路大震災では大きな被害を受け運行休止となり、2001年(平成13年)に運行再開となった歴史もあります。


ロープウェイでの空中散歩中は、眼下に広がる阪神地域の街並み、遠くには淡路島や関西国際空港まで見渡せる絶景です。改めて山と海が近い神戸の魅力を実感しました。


掬星台(きくせいだい)
ロープウェイで到着する「星の駅」前は摩耶山山頂近くの展望広場「掬星台」です。

夜景スポットとして有名で「1,000万ドルの夜景」と称されています。
函館市の函館山、長崎市の稲佐山、そして摩耶山・掬星台で日本三大夜景です。

掬星台という名は、手を伸ばせば星を掬(すく)えそうなほど美しい星空の場所という由来で名付けられました。
ケーブルカーとロープウェイで容易に上がれるため、来日外国人観光客にも人気が高まっています。
さて、文化遺産・歴史遺産の解説が始まりました。
今は観光スポットの掬星台ですが、実は第二次世界大戦時に旧陸軍が高射砲を設置する陣地として切り開いたことが始まりです。
戦後は、1955年(昭和30)の摩耶ロープウェーの開業に合わせて「奥摩耶遊園地」として再開発。コースターのほかスケート場や野外ステージなどもありましたが、1970年代初頭に役目を終えました。

龍神伝説
「産湯の井」という場所があり、お釈迦様が誕生したときに龍神が水をくみ、生母に届けたという伝説が残っています。


旧摩耶山天上寺
摩耶山は、古くから山岳信仰の場として知られています。かつては、比叡山、高野山と並んで、三大修験山の一つでした。





最盛期には3000人の僧を擁する大寺でしたが、1976年(昭和51年)に放火による火災で全焼し、北方約1kmにある摩耶別山に復興再建されました。
摩耶山天上寺は、釈迦の生母である摩耶夫人を本尊とする全国で唯一の寺で、女人守護のお寺として信仰を集めています。
安産腹帯発祥のお寺としても有名です。これは、摩耶夫人堂前の鐘の緒に巻かれていた浄布を持ち帰った妊婦が腹帯とした慣わしに始まりました。
旧天上寺の仁王門は、唯一焼失を免れました。かつてここに祀られていた仁王像は、現天上寺に移されました。

摩耶の大杉
樹齢千年、幹回り8mの摩耶山の変遷を見守ってきた大杉。1976年の旧天上寺の火災の影響を受け今は枯れてしまっていますが、圧倒的な存在感があります。腐ちて倒れてしまうと危険なため、そのうちに切り倒されるかもしれないとの話でした。


摩耶山城跡
なんとお城もあったとのこと。摩耶山城は、南北朝時代に赤松円心則村によって築かれた。旧天上寺を背後の砦として摩耶山城を築いたと考えられています。
城郭の跡が残っています。
摩耶花壇
旧天上寺への参道沿いにある大正末期に建てられた洋館です。かつてはレストランや宿泊施設として利用されていました。現在保存と再生の動きがあります。
参道は、摩耶花壇以外にもお茶屋やお土産物屋など賑わっていたようです。残念ながら、今はコンクリートの基礎部分のみを残すのみです。


旧摩耶観光ホテル
最後にツアーの一番の目的地である廃墟の女王「旧摩耶観光ホテル」見学です。通常は立ち入りは禁止となっています。

1929年(昭和4年)に竣工。保養施設として開業、その後「摩耶観光ホテル」として、最後は学生センターとしての役目を担ってきた施設です。1993年に閉鎖され、廃墟となりました。
過去人々が集い賑わっていた姿が頭に浮かび、哀愁、寂しさ、悲しさを感じました。やはり人を魅了する廃墟です。





非現実感に満ちあふれた場所故、多くの映画やドラマの撮影で使用されています。
映画「ユー☆ガッタ☆チャンス」:吉川晃司主演、1985年製作
ドラマ「過ぎし日のセレナーデ」:田村正和主演、1989年製作
映画「デスノート Light up the NEW world」:東出昌大主演、2016年製作
ドラマ「たとえあなたを忘れても」:堀田真由主演、2023年製作
なお、廃墟の女王「旧摩耶観光ホテル」に対して、廃墟の王様は長崎の「軍艦島」。王様は、私の遊びに行きたい場所リストに入っています。今年行きたいなー
スペインとのつながり
最後に興味深いエピソードを一つ。
今回歩いたマヤ遺跡ウォークの山道は、特にスペイン人に人気が高まっています。理由は、サッカーJリーグの「ヴィッセル神戸」に所属していたスペイン人のアンドレス ・イニエスタ選手がトレーニングで歩いてたとのこと。Instagramでも投稿されており、聖地巡礼として訪れるようです。
神戸の摩耶山は、歴史・文化・自然・廃墟が一体となった特別な場所。
「マヤ遺跡ガイドウォーク」、ぜひ一度体験してみてください!
(ツアー参加日:2024年12月6日)