Jose Ramirez 1a(1968) ホセ・ラミレス
『ホセ・ラミレス』といえばスペイン・ギターの代表格と思われていますが、ラミレス3世はそれまでの伝統的な構造を大胆に改革した革命児と表現した方が当たってると思います。
・豊かな音量
・色彩感のある音色
・ダイナミクス表現へいざなう器の大きさ
こうしたラミレスギターの特徴は全て、ラミレス3世がもたらした構造的な改革がもたらしたものです。
・シダー材の表面板(それまではスプルースほぼ一択)
・664mm弦長(ギター界最長)
・サイドのダブル構造
・ポリウレタン塗装の導入
つまりそれまでのクラシックギターと「全く別物」を開発したわけです。しかもそれが世界的に受け入れられた。
クラシックギターの歴史において、ラミレス3世ほど大胆な構造改革をもたらし、しかも成功させた例は無いと思います。
工房内に多くの腕の良い職人を雇い、大量に同じスタイルの楽器を送り出した事も特筆すべきことです。
大量に生産可能ということは、比較的安価に提供できるということ。
それにより、「ラミレスはこういう魅力を持った楽器」というイメージを、世界中に発信することができました。
もちろん、巨匠アンドレス・セゴヴィアが後年期のメインギターとして愛用したことも、ラミレス人気に火をつけた直接の原因です。
こうしたさまざまな要因から、60〜70年代の所謂「ギターブーム」を象徴するようなギターとなり、世界中で人気を獲得しました。
さて私はラミレスと縁が深いのです。
18歳で入学したギター学校の4年間は1993年製のラミレスを弾きまくりました。その後、1972年、1979年、1978年のラミレスを一時所有していたことがあります。どのギターも良く鳴っていましたがそれぞれの個性も立っていて面白い楽器でした。今はどれも手元にありませんが・・・
また、私の通った学校は、ほとんどの職員がラミレスを持っていたため、在学中4年間で合わせて数十本のラミレスを弾く機会がありました。なのでラミレス(構造改革以後の3世及び4世を指します)についてはかなり明確なイメージを持つに至りました。
上にも挙げましたが、やはり色彩感が豊かであるということ。ppからffまで自在にグラデーション表現できると弾き手に”思わせてくれる”のが良いラミレスの特徴かと思います。
私はラミレスが好きです。
もちろん基本的にはアグアドやサントス、アルカンヘルなどの伝統的な作りのギターを第一としたいのですが、ラミレスは他の何にも似ていない音を出す、一種の反骨心を感じるところが好きなのです。
アグアドやアルカンヘルなど伝統的な作りのギターは、音の指向性がそれこそ目に見えるかの如くはっきりとあります。しかし良いラミレスは、音そのものよりも、ギターの響きの深さで全てを説得してしまう、そんな器の大きさがある気がします。
そこで出会ってしまったこの1968年のラミレス。
スタンプものとしては驚くほどリーズナブルな価格で入手することができました。縁とは不思議なものです。
この楽器、私には本当に珍しいことですがネットオークションで落札しました。
写真を見る限りどう見ても本物のラミレス。
念の為、ギター製作家の方にオークションページを見てもらったところ、「100%本物です」と背中を押していただきました。
オークションページには
数年前に他界された持ち主が生涯大切に弾かれていたこと、音は最高だと思うこと、音楽を奏でる人に持ってもらえたら嬉しい、などの内容が掲載されていました。持ち主のご遺族が出品されていたのですね。
不思議と入札者が付かず、幸運にも私のところへ来ました。
弦を張り替え実際にギターに触れてみると、強烈でした。
それまでの「情報」はすべて単なる数値だったことを痛感します。年式も、落札価格も、ホセ・ラミレスの名前でさえ、実際の「もの」の存在の前にはそれほど意味をなさないのです。
逆に言えば、そこまでの存在感をこのギターは持っていました。
その瞬間から手放せなくなってしまいました。
ずっとラミレス弾いています。落札から5日後のツアーに、なんとアグアドを差し置いて持っていくほど惚れ込んでしまいました。
ツアーで弾きまくり、家でも弾きまくり、案の定あれよあれよと図太い響きが輝きを増してきました。今後どうなってしまうのか・・・・