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ギタリストが楽器に求めるもの(3)

前回までの内容で、このnoteはあくまで私個人の感覚を述べる内容である事は、薄々でも感じていただけたかと思います。

そうなんです。
私のnoteは、いわゆる「レビュー」や「解説」とは全く違いますのでご了承いただければと思います。
「レビュー」などは基本的に「良いところをほめる」という暗黙の了解があります。
前回紹介した「10」まで出てしまうギターの事も、他の場所では
「素晴らしいギターです」
と言わなければいけないわけです。もちろんそのギターが一般的には良いギターだというのも事実であるからややこしい。

要はただ単純に
「良いギターだけど、自分は使いたくないです」
という言葉を伏せているのです。そんな事をレビューで書いてたら、二度と仕事は来ません。

ただ、レビューなどでそのギターの良い点を見つけるスキルというのは、そういった揺るぎない基準が自分の中にあるからこそ可能とも言えます。

「自分は使わない」というのもひとつの明確な基準なんです。そういう基準を持つ事で「自分以外のタイプのプレイヤーが使った場合は素晴らしいのではないか」とか、「ソロよりもアンサンブルにきっとマッチするのではないか」などのイメージが、割と正確に出てくるのです。
そしてその基準の数は、経験とイマジネーションに従って増えていく。
アコースティックギターマガジンに連載されている有田純弘さんのギターレビューを読むと、短い文面から滲み出る圧倒的経験値に唸らされます。

一方「良いっすね〜」「太いっすね〜」に終始した語彙の少ないレビュー(ギターに限らずですが)にたまに出会うと、この人はきっと自分の基準を育てず、他者から与えられた情報を鵜呑みにしているんだなと感じます。

さて、本題に戻ります。
「ギタリストが楽器に求めるもの」
第3番目は

「正確な音程」

です。

ギターの音程の話になると音程専門家のような方々がこの世にはたくさんいらっしゃるので、ここではあくまで私の経験し感じた範囲で述べます。


ギターはフレット楽器ですから、音程の良し悪しは常につきまとう問題です。
例えば、開放弦でチューニングし終わったあとにローコードのDを鳴らすと4弦開放弦と2弦3フレットとのオクターブ音程が微妙にズレて違和感を感じる、などといった事ですね。

これはかなりグレードの高い楽器であってもしばしば見られます。クラシックギターの歴史的名器の中にも、信じ難いほど音程が合ってないもの(おそらく完成当時から)があったりします。



音程が正確になると倍音の濁りが少なくなり、各音の精度が高まる→演奏のストレスが軽減される。

というのが一般見解だと思います。
ここで音程と倍音という言葉が出ましたが、私も両者の関係性がどのようになっているのか、正確には解っていません。

おそらくですが

音程が精密になるにつれ倍音が整理されてくる要素と、
基音と倍音とのバランスによって音程がより明瞭感じられる要素と、
どちらも同居している気がしています。
前提としてまず前者が必要なのは言うまでもありませんが、後者はそれを更に引き立てているという感覚です。

実際私の使っているアコースティックギター、Ken Oya(2008)からは、両方を感じる事ができます。

つまり
基音が強めで倍音は広がりと共に奥行きにも作用するという基本的な音作り。それに加えて正確な音程のセッティング
この両方が合わさってその楽器の「音程感」が顕れてくる、と言い換える事もできます。

私が初めてKen Oyaギターに触れた時、その音程の正確さに度胆を抜かされましたが、思い返すと度肝を抜いた理由の半分くらいは「基音の存在感」だったような気がします。

6弦のハイフレットと高音開放弦がここまで合うのは、初めての感覚でした。

その頃私は20代後半。
自作のギター曲を書き、ライブできる場所を求めながら這いずり回っていた時期です(今もほぼ同じですが…)。自分に出来る事出来ない事、向き不向きもはっきりしてくる時期。

そこで出会った大屋ギター。
自分にとっては人生における大きなターニングポイントでした。

基音が強い、音程が正確という事は、各音をしっかり分離させることになり、内声部の表現に直結します。
自分が好きな曲はメロディの美しさと共に内声が効いているものが多く、自分の曲を作る時に自然とそこを求めていた事に気づいたのです。
このギターならば、より自分の好きな世界を表せるのではないだろうか…

要するに
「自分はこれを使いたい!」

となったわけです。
こういう時は何か強烈な引力が働くのか、その3日後に楽器店で大屋ギターと奇跡的に出会い、入手する事ができました。
その後更に直接オーダーしたのが、現在の愛器Ken Oya model-J(2008)です。
(この記事の写真右)

今回は幸せな結末となりました。
安心して筆を置きます。

伊藤賢一
https://kenichi-ito.com/

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