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ギターを鳴らす

擦弦楽器で「ヴィンテージ」というと100年以上前の楽器ですが、ギターでは50年くらいでそう呼ばれるようです。

クラシックギターでもアコースティックギターでも、黄金期と言えるのは1940〜1950年代(クラシックギターでは1960年代も含まれそうです)。
この時期は質もさることながら何より現在も出回っている本数が多いのが良いです。

私は基本的に古い楽器が好きですが、大屋建(2008)と中野潤(2019)と、それぞれにオーダーした新作も使っています。栗山大輔(2016)も、店頭にあった新作を購入してしまいました・・・・

私の好きなギタリスト達は皆、新品で若い頃楽器を購入してヴィンテージなるまで使い倒しています。
その生き方には強く憧れました。
ニール・ヤングのD-45などは1969年に新品で購入して以来ずっとメインを張っていて、音も見た目もエラい貫禄が出て、だんだん顔が持ち主に似てくるという感じで・・・

ただ自分の場合はいろいろとあってそういうわけにはいきませんでした。
20代の頃に持っていた楽器達は、どれも手元にありません。


楽器との付き合い方で何より面白いのは、自分が弾き続けることで音が変化してくることです。
またその変化の仕方が、弾き手によって異なるのです。

ギター専門学校時代の同級生にAさんは、弾き込むとどの楽器も音が大きくなるという羨ましい特性を持っていました。
逆にBさんはだんだん音が落ち着いてくる方向。Cさんは重い音を育てる。などなど、プレイヤーによっていろいろと違いがあったのです。

私はというと、どの楽器を弾き込んでも概ね明るい感じになります。
言い換えると憂いが無いというか、少なくとも哲学的な世界にはいかない感じでした。
恐ろしいことに、それはおそらく一生つきまとう特性なんですね。
私の場合は今でもまったく同じです。
自分が弾き込むと新品のギターも硬さが取れて早い段階で開放的になってくるので、
「新品ギターをいい感じに育てる商売」を始めようかと画策した時期もあるくらいです。


ではヴィンテージギターではどうなのか?
そういう大きな変化は起こり得るのか?
結論からいうと、大体同じように変化が起こります。

もちろん数十年という時間が経っているので、その間に弾き込まれたクセなどの影響が最初は大きいのですが、ちゃんと作られた良いギターであればプレイヤーの入力にきちんと反応してくれるものです。
実際、私の持っているギブソンJ-50(1958)もハウザーⅡ世(1958)も、入手時からどんどん変わってきています。
もはや「憂い」の成分が無くなってきています。含みのない素直な音になる、とも言えます。

また、私が以前所有していた1952年のマーチンD-18が現在浜田隆史さんの元にあるのですが、もう以前のような音は出ません
決して悪い意味ではなく、浜田さんが鳴らすととても良い状態になるように楽器が変化したのです。
これは本当に面白い現象だと思いませんか?


ギターは弾いてあげないとダメです。
ブリッジから表面板への振動の流れが大事です。
その振動の経路に、プレイヤーのタッチが直に関わってくる。だからこそプレイヤーによって育ち方が変わるのです。
弦から発せられた振動だけが、音を作る乾燥を促すのとも言い換えられます。

ギターをスピーカーの前に置いて音楽を聴かせると良いという人もいます。
一理ありますが、私はその行為にそこまで意味を感じません。
ボディ全体に対して音楽の振動を与えても一時期の乾燥は促すはずですが、音の経路を作る行為とは違うと思います。

やはり弦から発せられた振動だけが、音を作るのだと思います。

「表面板を振動させろー!」
今は亡き先生がよく言ってました。
中途半端な精神論よりも心に響いたのをよく覚えています。

伊藤賢一
https://kenichi-ito.com/

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