絵本:アポロの迎え歌 全文公開
アポロの迎え歌
ここはパルナ。
森にかこまれた外の国とはつながりのない小さな国。
ゆたかな国ではありません。
町の人たちは毎日、えっほえっほとたくさんはたらいています。
それでもパルナは楽しい国。
広場ではいつも歌とダンスがうるさくしていました。
国にはいろんなお店があります。
パン屋さん、まほうのランプ屋さん、花屋さん。
パルナの人々は、おたがいに助けあっていきています。
パルナのはしっこには、小さな有名人がすんでいました。
アポロというハートの小さな絵かきさん。
アポロは人の絵をかくのが大好き。
恋人の絵・家族の絵・友達の絵。
パルナの人々はいつも笑顔で、アポロに絵をかいてもらいます。
パルナの中には、アポロのお父さんとお母さんはいません。
今外の国でミュージカルをしているのです。
お父さんとお母さんがパルナをでるときのこと。
「父さん、母さんいかないで。ボクさみしいよ」
アポロは泣いてとめました。
「アポロ、お前は絵をかきなさい。そして友達をたくさんつくりなさい」
「アポロ。絵は鏡なの。絵はあなたの心をうつすのよ」
お父さんとお母さんはアポロに絵をおしえて、ながいながい旅へでていきました。
アポロはたくさん、たくさん、たくさん絵をかきました。
そして、広場にあそんでいる子を見つけては絵をわたしていました。
「すてきな君の絵を描いたよ」
アポロは運動ができません。
だけど、アポロは絵でみんなとつながったのです。
アポロのお友達が2人います。
ニールとコリンズです。
ニールは強気でたくましいアニキのよう。
コリンズは弱気だけど、ゆかいな弟のよう。
ニールとコリンズのお父さん、お母さんもミュージカルメンバーです。
アポロと同じようにお父さんとお母さんはパルナにはいません。
いつだってさみしいと思わないように、3人は楽しくあそびます。
ニールコリンズの仕事は「木材はこび」
ニールはとても力持ち!コリンズはとっても器用!
そしてアポロは、そんな2人の絵をかいてパルナのみんなに売っています。
「アポロ。かっこよくかけよ。このやろう!」とニール。
「モデルなんてはずかしいよ」とコリンズ。
「ははは。ボクにまかせてよ2人とも」とアポロ。
今日も3人は楽しくはたらいています。
パルナではめずらしく大雨がふったつぎの日のことです。
平和なパルナにある事件がおきてしまいます。
広場には王さまの執事。
どうやらみんなにおしらせがあるようです。
3人は広場にいってみました。
「パルナのみんなにおつたえすることがあります。これは王さまの命令です」
執事がいいました。
そして、執事は大きな紙をひろげました。
そこにはこう書いてありました。
「パルナのみなさまへ……今のお仕事をやめて、橋づくりのお仕事をしてください。橋作りができない人は、城までお伝えください」
パルナの人々はこまりました。
これではみんなの大好きなお仕事ができません。
たくさんの人が得意じゃない力仕事をすることになります。
パン屋のお姉さんやランプ屋さんのおじいちゃんにも橋をつくらせることになるのです。
パルナの人々は、誰もが知ってるアポロに頼ることにしました。
アポロの家のまえでさけびます。
「アポロ。お前なら何とかできるだろ?」
「私たちはどうすればいいの?」
そんなことアポロだってわかりません。
アポロだってこまっているのですから。
アポロも大好きなみんなの絵がかけません。大好きなお仕事ができません。
アポロは窓からいいます。
「ボクは父さんや母さんじゃないんだ。ボクにはどうすることもできないよ」
アポロは窓をしめました。そのときです。
ガチャガチャとよろいの音を立ててお城の兵たいがやってきました。
兵たいは家のまえにいる人たちをみんなつれていってしまいます。
「橋作りなんて俺はしないぞ!!」
「私たちの仕事をとらないで!!」
アポロはみんながつれていかれるところを窓から見ることしかできません。
アポロはこわかったのです。
「ボクはどうしたらいいんだ。みんないなくなっちゃう」
アポロの気持ちはこわくなったり、かなしくなったり、くやしくなったりしました。
いろんな気持ちがアポロをおそいます。
つかれたアポロはとうとうねむってしまいました。
アポロは夢を見ました。
それはアポロがまだ小さいころの夢。
アポロが部屋のはしっこで泣いています。
するとそこにお父さんとお母さんが部屋にやってきました。
「アポロ見てごらん」
お父さんとお母さんは、アポロのまえでおどってみせました。
アポロの部屋はとつぜん、小さなミュージカルホールになったのです。
アポロはすてきなダンスに心おどらせたのです。
アポロの頭に何かがあたり、目をさまします。
目のまえには、かみひこうき。
かみひこうきのツバサには、こうかいてあります。
ニールとコリンズ。
アポロはかみひこうきの中を見てみます。
「アポロ。パルナ丘でまってるぞ」
アポロはつかれきった体を動かしてパルナ丘にむかいます。
パルナ丘では、ニールとコリンズがむずかしい顔をして立っていました。
「アポロ。たいへんなことになったな。どうする」とニール。
「もう広場であそべなくなるのかな」とコリンズ。
しかし、アポロはへんじをしません。
その場にすわりこみました。
「ボクらにはどうすることもできないよ。王さまがきめたことなんだから」
アポロはまだみんながつれていかれたことをわすれられないのです。
「アポロ元気ないね」コリンズは心配します。
「お前が元気なくてどうするんだ」
ニールはアポロのほっぺをたたきました。アポロがニールを見ていいます。
「ボクらは子どもだから何もできないんだ!」
アポロは帰ってしまいました。
アポロはうつむきゆっくりと家に帰ります。
そんなアポロの頭からポツリポツリと雨がふりはじめます。
しかし、アポロは雨がふっていることにさえ気がつきません。
アポロの頭はパルナのみんなのこと、ニールのことでいっぱいなのです。
アポロが自分の家に入ろうとしたとき、だれかに呼びとめられます。
「アポロさん!」
そこには広場にいたお城の執事がいました。
「アポロさん!あなたにきいてほしい話があります」
執事の話では、王さまはみんなをこまらせようとして橋作りを計画したわけではないということでした。
パルナをもっともっとゆたかにするために、川に橋を作ろうと考えたのです。
しかし、このまえの大雨で橋はすべて流れてしまったのです。
王さまは『自分がわるいんだ』と考えて部屋からでなくなってしまいました。
執事はいいます。
「それから王さまは、パルナが貧乏でくるしんでいると思うようになりました。
だから王さまはみんなに仕事をあたえようとしたのです。
橋作りさえあればうまくいく、と。」
アポロはこの話にとてもおどろきました。
だってアポロは「王さまはきっとわるいやつだ」と思っていたのですから。
だけど、王さまはいつだってパルナのみんなのことを考えていたのです。
「アポロさん。今の王さまはだれの話もきこうとしません。
言葉じゃない何かで王さまを元気にしなければなりません。
あなたしかいないんです。パルナがゆたかであることを王さまに見せてください」
「執事さん。ボクは……」
「アポロさん!たのみましたよ!」
執事は雨の中を走っていきました。
アポロは家でたくさん考えました。そしてアポロは絵をかきはじめました。
王さまにゆたかなパルナの絵をかこうとしたのです。
ですが、なんどかいてもくらい絵になってしまいます。
「どうして楽しい絵がかけなくなったんだ」
雨のせいか、かわき切らないインクがパルナの絵にながれていきます。
アポロはくやしくなって、筆をゆかになげつけました。
ちかくにあった鏡にアポロの顔がうつります。
さみしそうで、かなしそうなアポロの顔。
そのとき、アポロはお母さんの言葉を思いだしました。
「アポロ。絵は鏡なの。絵はあなたの心をうつすのよ」
アポロは思わず家を飛び出しました。
ニールの家にむかったのです。
ニールの家のトビラをあけると、ニールは絵をかいていました。
「アポロ!いや、お前みたいにさ、絵がかけたらって思ったんだけどよー。やっぱりうまくかけないな。絵をかくときはお前がいないとだな」ニールがてれくさそうにいいます。
おくでコリンズがピクリとも動かず、ふしぎなポーズをしています。
「ニールごめんなさい。ボクがわるかったよ」とアポロ
「アポロオレもわるかったよ。ほっぺをたたいたりして……」とニール。
すると、コリンズがいいます。
「2人とも仲直りして良かったね!そろそろモデルをおわってもいいかな?」
3人はわらいます。
アポロはニールとコリンズに、執事からきいた王さまの話をしました。
「そんなことがあったのか」とニール。
「かわいそうだね王さま」とコリンズ。
「ボクらは言葉じゃない何かで王さまに伝えなくちゃならない。
『パルナの本当のすがたを』」とアポロがいいました。
「いったいどうするんだよ」とニール。
「ボクにまかせといて!」
アポロがこしに手をあてて、お城に指をさします。
「アポロについて行くよ」ニールとコリンズがいいました。
つぎの日、パルナの広場ではたくさんの人が話し合いをしています。
アポロは広場で、みんなにつたえます。
「パルナのみんな!てつだってほしいことがあるんだ!」
広場の人がいっせいにアポロを見ます。
「アポロいったい何をはじめるってんだ?」
「むずかしいことはしないよ。みんなの得意なことをかしてほしいんだ!」
「アポロがまた何かをはじめるらしい」
アポロのうわさはパルナ中にひろまりました。
そうしてパルナの人は一人、また一人とアポロのおてつだいをしはじめます。
アポロの計画はたくさんの人でつくられていくのでした。
町にはお城から見えないように大きなカーテンがかかっています。
そしてお城のまえには、アポロがたっています。
「王さまに見せたいものがあります!」アポロは大声でいいます。
そこに執事があらわれました。
「おい!王さまをここへ!」
執事がふりかえり、アポロに小さな声でいいます。
「ありがとう」
お城のまえに王さまがあらわれました。
王さまはたくさんの兵たいにかこまれて、不安そうにでてきました。
「いったい、なにごとなんだ?」
アポロはいいます。「王さま。見せたいものがあります」
カーテンがひらかれました。
パルナにはきれいな花がならべられ、たくさんのランプが空にうき、楽しげな音楽がなりはじめます。
「なんだこれは?」王さまはおどろきます。
すると、執事が兵たいに命令しました。
「パルナの人々があやしいものをつくった!王さまに1つ1つ確認してもらいなさい!」
さあ、パレードのはじまりです。
パレードでは花屋、パン屋、まほうのランプ屋などたくさんのお店がひらかれています。
花のかおりが国中にします。
パンのおいしいにおいが国中にします。
カラフルなランプが国中をてらします。
国中に音楽がながれ、踊り子はそれにあわせて踊っています。
王さまはだんだんと楽しくなってきます。
もう王さまはパルナのパレードに夢中です。
そうして、王さまは広場につきました。
広場には大きな大きなステージがたっています。
ステージにはカーテンがあり、中が見えません。
王さまはワクワクしてみまもりました。
「何がはじまるんだ?」
歌とダンスがはじまります。
歌
歌がおわり、広場に拍手がなりやみません。
ふたたび音楽がながれ、踊り子たちが踊りつづけます。
王さまはまたまた不安になりました。
「きっとパルナの人は、私のためにすくないお金をつかってくれたんだ」
王さまのところにアポロがあらわれます。
「やあやあ王さま。ボクから王さまにプレゼントがあるよ。今日をわすれないように王さまの絵をかきました!」
王さまは、アポロの絵を見ます。
「わたしは……わたしはこんな顔ができたのか……」
王さまはナミダをながしました。アポロがいいます。
「王さま。ボクは執事さんから話をきいてるよ。
パルナはゆたかではないかもしれないけど、とっても楽しいとこだよ。
ボクらは、歌と踊りがあれば生きていけるだよ。父さんや母さんがいなくたってね」
王さまはいいます。
「私はこわいんだ。パルナの人々が本当に幸せなのかわからない。
何かがパルナにはひつようなんだ」
アポロはいいます。
「では王さま、こうしたらどうかな?」
アポロはあることを王さまにつたえました。
つぎの日のこと。
パルナの広場には王さまの執事。
どうやらみんなにおしらせがあるようです。
みんなで広場にいってみます。
「パルナのみんなにおつたえすることがあります。これは王さまの命令です」執事がいいます。
そして執事は大きな紙をひろげました。
「パルナのみなさまへ・・・自分が1番得意なことを仕事にしてください。
得意なことが見つからない人は、城までお伝えください」
パルナはいつものパルナに戻りました。
パルナのみんなは今までいじょうに得意なことをはじめました。
すると、みんな得意なことで橋作りを手伝い始めたのです。
みんなで力を合わせて橋を完成させました。
ニールとコリンズはミュージカルをはじめ、アポロはお城でみらいのパルナの絵をかいたりしています。
そして、王さまはというと、いつものようにパルナのみんなのことを考えています。
たまに広場にきて、ニールとコリンズのミュージカル練習を見にやってきます。
王さまは楽しそうに踊るニールとコリンズの大ファンだそうです。
そして、
そんなみんなの絵をかくのがアポロの大好きなお仕事です。」
クラウドファウンディングプロジェクト
「頼ることを忘れてしまった人に届けたい絵本『アポロの迎え歌』の曲を作りたい―作曲」
https://camp-fire.jp/projects/439873/preview?token=39o6sxj8
2022/3/17~2022/3/31