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【連載6回目】『ももクロを聴け!』の堀埜浩二さんにAMEFURASSHI『Coffee』について聴く(6)
「『ももクロを聴け!ver.3』の堀埜浩二さんにAMEFURASSHIの音楽について聴いてみることにした」*1の第二弾。今回は『Coffee』について聴いてみることにしました。収録されたリード曲「Blow Your Mind」がこれまでの最速で30万再生を達成するなど注目のミニアルバムだが、前回のアルバム『Drop』に続き、現在のAMEFURASSHIの音楽性や戦略がますますはっきりしてきたようなところがある。
(ZOOMにて5月24日収録)
中西理(以下中西) 次は後半の楽曲についてと思ったのですが、「Blow Your Mind」についてこれだけは聴いておかねばということを2つほど聞き落としていたので、後半4曲に入る前に聴いておきたいのですが、「Blow Your Mind」についてディワリというジャンルの曲*2だという指摘が随所であった*3のですが、曲のリズムのことを指すと思うのですが、これはどういうものでしょう。Youtubeとかで少し調べてみたのですがはっきりしたことは分からなかったんです。もうひとつはいくつかの音楽系ニュースサイトの記事がボーカルフライという歌唱法のことに言及していて、これがやはり「Blow Your Mind」では使われているというのですが、これはどんなものなのか。
参考音源
堀埜 まずボーカルフライは声の出し方でボイストレーニングでよくやるやつですね。欧米のシンガーではこういう技術を頻繁に使う人も多いようですが、日本ではあまりいない。特にアイドルでは聞いたこともないと思いました。
中西 調べたところ上記の動画でも指摘されていますが倖田來未さんがよく使っているようです(考えてみれば彼女もavexだ)。
堀埜 アイドルではいないと思います。ボーカルフライ、エッジボイスとも言うようですが、そもそもアイドルがそういうものを使う必要もありませんし。声をずっと低くしていくと声帯の限界で音がとぎれてこれ以上下は出ないということになるじゃないですか。専門家ではないので詳しいことは言えませんがチェストボイスの出し方もそれに近いんですが、低いところで喉で音が消えちゃうな声の出方。
中西 これは全員がやっていますか。それとも愛来だけですかね。愛来のははっきり分かるんですが。
堀埜 ごめんなさい。まだそこまで聴き込めていないので……。
中西 細かい技術のことは分からないけれど「Blow Your Mind」はこれまでの曲ではなかったようないろんな歌唱法が入っているような気がしました。人によっての歌い方の違いも意図的に加えているように思える。
堀埜 歌いだしから違いますからね。
中西 それと比べるとその次の「One More Time」はすごくさわやかな印象の歌い方。この曲はシティ・ポップ*4といっていいんでしょうか。
堀埜 これは全然違います。シティ・ポップは関係ないです。実はシティ・ポップはすごい狭いジャンルの音楽を言っているので、いま皆がシティ・ポップ、シティ・ポップといって騒いでますが、それはその時代へのノスタルジーです。僕らリアルタイムで聴いてきた人間にとってはこういうのはシティ・ポップとは言えない。
中西 ジャンル名としてシティ・ポップを使うのはダメということなんですね。都会派のポップスというならいいんでしょうか。
堀埜 「的」はいいんですよ。シティ・ポップ的とか。
(ここで私の発した「シティ・ポップ」という呪文でこの後、パンドラの箱を開いてしまったかのようにしばらく堀埜氏のシティ・ポップ論が続く。「山下達郎はシティ・ポップではない」とかそれ自体は極めて興味深い話であったが、本論とは直接のかかわりがないので今回は残念ながら割愛する)
音だけで分けるとしたらシティ・ポップは基本的には生楽器の音楽です。だからDTMの打ち込みというのはシティ・ポップ的ではない。もう一歩踏み込んで言うとシティ・ポップの場合はギターのカッティングが入ります。
中西 ではこれは何なのでしょうか。
堀埜 アメフラの楽曲が今行こうとしているのはひとつのパターンをステイさせながら1曲完結させる、歌詞は別にしてアレンジとしてあまりストーリーがない楽曲をやっている。そして、それは今のポップスのすべての系統がそうなっていますから、時間をかけてその曲を味わって聴くというよりは踊ったり、クラブで聴いたりするときにループは気持ちいい。そしていい感じのループに乗っている時のラップが気持ちいいのでそこの部分を目指して曲を作っている。そういう最新トレンドにAMEFURASSHIはいます。
中西 その後の「Magic of love 」がちょっと不思議な曲。などというと全然楽曲の説明にはなっていないのですが、スリー・ディグリーズとかって言うと音楽通のひとに笑われそうだけれどひと昔前の黒人系コーラスガールズグループ*5が歌ってそうな楽曲に聞こえる。
堀埜 テイストとしてはそういう要素も引用されてはいるがソウルの延長線上にあるというわけではないと思います。過去のものというのも今の時代にいろんなところに同時多発的にあるものも同じ水準で捉えて楽曲を作るというのはいまのトレンド。今の若い子がいまだにビートルズを聴いて「ビートルズっていいやん」という感性とビートルズというものを知らないでサブスクで聴いている時に古そうな音楽やけどすごいいいメロディやなあと感じたりする。それと同じで新しいものも古いものも全然フラットに聴いておいしいところをつまみ食いして持ってくるようなBananaLemonがやっているような感じはいまのアメフラのテイストにもたくさん入っている。今の若い人はYoutubeでも過去曲とかを引いてこられる。僕らの時はそうじゃなかったので本当にその時代に流行った曲がここからこう来てこうなったんだなといういわゆる系譜学をももクロの本でも書いているし、そういう聴き方を僕らはしてきたけれど、そういうのとは全然違う文脈で音楽を作れる環境も出てきているし、若い人の感性はむしろそっちにいっている。どこにどういうネタがころがっているかというのをピックアップしながらやっている。
【収録曲】※豪華盤・通常盤共通
1. Fly Out (Lyrics: sty / Music: Dirty Orange, sty)
2. Batabata Morning (Lyrics: MOMONADY / Music: KORANG-E, ELIXIR)
3. Blow Your Mind (Lyrics & Music: sty)
4. One More Time (Lyrics: MOMONADY / Music: Neckwav, Mikax, jinheo, MOMONADY)
5. Magic of love (Lyrics: MOMONADY / Music: KORANG-E, ODD-CAT)
6. Love is love (Lyrics & Music: sty)
7. Tongue Twister (Lyrics: SHOW, MOMONADY / Music: Dirty Orange, SHOW)
8. グラデーション (Lyrics: SHOW / Music: SHOW)
SE. BAD GIRL Maozon REMIX
1. Fly Out
2. DROP DROP
3. MICHI
4. グラデーション
5. Love is love
6. Drama
7. SENSITIVE
8. Lucky Number
9. メタモルフォーズ
10. DISCO-TRAIN
11. UNDER THE RAIN
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*1:
*3:さらに調べて分かったのはディワリというのはレゲエのアーティストの名前。レゲエでは同じトラックに乗せた楽曲をいろんな人が競作するのが一般的でそれをリディムという。ディワリはよく知られたリディムのひとつ。
*5:むしろ比較するならばももクロがマス寿司三人前でカバーしていたザ・シュープリームズとかの方が適当かもしれない。ももクロのカバーはまだ現在ほどの技量がない時期のものゆえ、有安杏果のボーカルがあってこそ成立したものだというのがよく分かるが、これを聴くとアメフラの技量の高さが間接的に浮かび上がってくる。それでもやはり杏果は凄いと改めて感じた。