知性の中に静かな狂気 ひさびさに見た小須田康人の演技に感嘆 オフィスコットーネプロデュース「加担者」@下北沢駅前劇場
オフィスコットーネプロデュース「加担者」を下北沢駅前劇場で観劇。フリードリヒ・デュレンマットはスイスの劇作家・推理作家。推理作家というのでウィキペディアなどで調べてみたのだが、「約束」「嫌疑」という作品が以前世界ミステリシリーズ から翻訳出版されたことがあったようだが、私は未読でおそらく本自体は絶版となっていると思われる。
デュレンマットは代表作である『老貴婦人の訪問』(1958年)『物理学者たち』(1961年)が今年になって相次ぎ上演された。「物理学者たち」には共同プロデューサーとしてオフィスコットーネプロデューサーの綿貫凜も関わっており「加担者」が上演されることになったのもおそらくそういう流れに沿ってのことと思われる。
「加担者」は「物理学者たち」の続編とされているようだが、上演を見ていないが、あらすじなどを読む限りは「物理学者たち」と「加担者」はかなりテイストが違うように思われる。
科学者が倫理的に許されぬことに手を染めた物語とおおざっぱにくくれば共通点もなくはないが、殺人と死体の処理をパッケージで受注する企業化された犯罪組織というのはコメディーだとしてもリアルな物語というよりも風刺性が強く感じられた。
「加担者」は「物理学者たち」のように寓話(ぐうわ)的な作品でもないが、現実を描いたリアルな作品という風に考えるとどうにも荒唐無稽。ただ、ミステリ小説に例えると「奇妙な味」と呼ばれている作品のようなおかしな魅力はある。とはいえ、今回の上演の場合、ともすれば絵空事になりかねない物語を主人公のドク役を演じた小須田康人の演技が支えている部分はあるかもしれない。小須田といえば鴻上尚史の率いる第三舞台の中心俳優で、サードステージ「トランス」(1993年)での静かな狂気を漂わせる演技は忘れがたい印象を残した。しかし、最近は舞台での演技を見ることは珍しく見たのはいつ以来だろう。主役となるとかなりひさしぶりであることは間違いない。
息子を殺され、恋人も殺された上にその死体の処理もさせられるというとんでもなく悲惨な役柄なのだが、そんな中でさえ知性の中に壊されてしまった人間の静かな狂気さえ感じさせた小須田康人の演技には感嘆させられた。
失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 (光文社古典新訳文庫)
光文社
同学社