【アーカイブ】維新派「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」@彩の国さいたま芸術劇場
維新派「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」は「瀬戸内国際芸術祭2010」の参加作品として今年の夏に岡山・犬島で野外劇として上演された舞台の劇場版だが、いくつかの場面が新たに付け加えられていて、サイトスペシフィックアートの要素が強かった犬島公演とはまったく別物の作品に仕上がった。
<彼>と旅する20世紀三部作♯3と位置付けられた本作は、2007年の第1部「nostalgia」(南米篇)、2008年の第2部「呼吸機械」(東欧篇)に続く、第3部(アジア篇)としてシリーズの最後を飾る作品だ。ただ、アジアについてはこれまでも松本雄吉は何度も題材として取り組んできており、ここ最近の作品の中でも新国立劇場で上演された「nocturne」ですでに第2次大戦中の戦時下の満州を登場させたりしており、今回はどんなものを取り上げ3部作を締めくくるのだろうかというのは前作「呼吸機械」の終了時にすでに興味を抱いていたことだったが、初演が犬島でいくつかの島を舞台に展開する「瀬戸内国際芸術祭2010」の参加ということもあってか、戦前の日本人の南方の島への進出の歴史と彼らが太平洋戦争に巻き込まれていくなかで悲劇的な運命に翻弄されていく姿を描いたのが「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」であった。
表題の「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」はジュール・シュペルヴィエルという人の「中国の灰色の牛が…」という詩からの引用である。
参考のために全文を引用してみると
こんな風だ。 ただ、元の詩では「中国の〜」となっていたのが、今回のモチーフである「南島」に合わせて「台湾の〜」改変されている。シュペルヴィエルの詩自体はシュールレアリスムというか、見方によってはかなり幻想的な色合いのものなのだが、この「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」は例えば「ナツノトビラ」がそうであったように抒情的な幻想譚にはならずに、いわば叙事詩的に展開していく。
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