4月はコロナ禍で中止になった公演の復活上演が目立つがHANA'S MELANCHOLY 『風-the Wind-』(シアター風姿花伝)もそういう1本である。HANA'S MELANCHOLY *1は劇作・一川華、演出・大舘実佐子という2人の女性コンビによる演劇ユニットである。これまでその作品を年間ベストアクト*2に取り上げるなど注目してきた集団だ。
性(ジェンダー)を含む社会性の高い問題に切り込み、直接アニメなどとの関連性はないが、その作品自体はリアリズムというよりは2・5次元演劇的なエンタメ性も感じさせる作りともなっているのが特徴。一方で物語性を重視した骨太な作りなど最近の小劇場演劇の流れとは一線を画した動きを注目してきた。
現実と非現実が地続きのように描かれる演劇は最近珍しくはないけれども、この集団の場合、その描き方に他にはないような特徴を感じる。現実と非現実という書き方をしたが、『風-the Wind-』では現実として描かれるのが、背中の痣にコンプレックスを持つ女性が背中に竜の入れ墨を入れるために風俗店で働くことにするが、入れ墨のせいで客からクレームが入り、店での評価が大幅に下がり、性行為の対価としての賃金を大幅に下げられてしまう。風俗と入れ墨というあまりリアルな形では演劇で取り上げられることは珍しい主題を正面から取り上げて、性行為などの場面を正面から描くということはないけれども取材を基にある程度リアルな筆致でそれを描き出している。
一方で主人公の女性は店の電話にかかってくる謎めいた電話でアフリカに住んでいて、性器切除などの女性の尊厳を侵犯する行為を強制される女性と不思議なつながりを持つことになる。アフリカの女性からの電話が突然風俗店のウエイティングルームの連絡内線に入ってくるなど、実際にはありえないことが中盤以降相次いで起こる。アフリカの出来事と風俗店の女性が自らの身体に入れ墨を入れる行為は身体を人為的に傷つけるという意味では共通点があり、響き合っているともいえるが、それを強引に結びつけてしまうということには論理的な整合性というよりはイメージによる連鎖という側面が強く、観客である私にとってはそれがもやもやとしてしまうことでもあり、自分とかけ離れた発想という点では面白くも感じた。
*1:simokitazawa.hatenablog.com
*2:simokitazawa.hatenablog.com