アップデイトダンスNo.93「if」(勅使川原三郎振付)@荻窪アパラタス
米国のフォークロックバンド「ブレッド」の「if」にインスパイアされて作られたダンス。「if」は地球の回転が止まり、最後の時を迎えるというSF的ビジョンを歌った歌でダンス作品はこの楽曲を最後の方に配置しているが、その前に宇宙において黒い衣装の男と白い衣装の女が出会い、別れの時を迎えるという壮大なビジョンをダンスによって描いていく。
作品を生と死というイメージが覆っている感がするが、真ん中あたりに夏目漱石の「夢十夜」の佐東利穂子による朗読が挟み込まれていることで、生と死についてのイメージが言語テキストと勅使川原三郎、佐東利穂子のデュオダンスが交錯するように提示される。
この日の公演で興味深かったのは終演後の勅使川原三郎の挨拶。勅使川原は通常はこういう場では言わないことだがの前置きをしたうえで、パリでのファッションショーの演出を依頼されて行ったことなど最近逝去したばかりの三宅一生との思い出を語った。興味深いのはその後、ベネチアビエンナーレでの金獅子賞受賞のトロフィーを披露してうえで、客席にたまたま来ていたパリオペラ座のダンサー(名前が分からなかったが男性二人)を紹介したことだ。
勅使川原三郎の公演にはこれまでもいろんな人が来場したはずだが、今回のように観客にわざわざ紹介するというのは私が観劇した中では初めてのことだが、わざわざ紹介したのは世界を代表する才能の死を追悼した後で、それと対峙するようにこれからのダンス界を背負っていく若い才能を紹介したのではないかと感じた。そして、それはどこまで意図的なものだったのかは分からないが、この日上演した「if」という作品の主題と呼応するようなところがあったのではないかと感じたのである。