勅使川原三郎の拠点「アパラタス」の 10周年記念公演 アップデイトダンスNo.97 新作「月の砂漠」(勅使川原三郎振り付け)@荻窪カラス アパラタス
アップデイトダンスNo.97 新作「月の砂漠」(勅使川原三郎振り付け)を観劇。勅使川原三郎ならびKARASの拠点であり、アトリエでもある「アパラタス」の カラス アパラタス10周年記念公演である。この30年間日本のコンテンポラリーダンスのトップランナーの地位を勅使川原三郎が守り続けてきたことを否定する人は少ないと思うが、ここ10年におけるその豊富な創作活動を支えてきたのが、この場所の存在であったことは間違いないだろう。
勅使川原三郎の最大の武器はほかに比較するものがないほどのオリジナリティーに溢れるムーブメントであり、それがもともとはマイムとバレエを基にしたものだとしても何十年もの時をへて「勅使川原三郎のダンス」とでもいうしかないものに成熟している。しかも師匠にあたる勅使川原とパートナーの佐東利穂子は明らかに踊りのディティールは異なり、それぞれが唯一無二としかいいようがないものに行き着いており「月の砂漠」は直近におけるその見事な成果と言える作品だったのではないだろうか。
「月の砂漠」といえば同名の童謡を思い浮かべる人が多いかもしれないが、何もないアパラタスの空間に黒い衣装をまとった二人のダンサー、彼らを切り取り、白と黒に分けるような照明によって構成された作品世界は無機質で静謐な印象を与えるものだ。BGMの音楽に風の音とも思えるノイズが乗せられることで、宇宙空間や空気のない月の表面などのイメージではないけれど、童謡で表現されたような牧歌的なものではなく、どこか荒涼とした場所(例えていえば「デューン 砂の惑星」に出てくる砂漠のような)を感じさせた。