絵本「100万回生きたねこ」で知られる佐野洋子の生涯描く 劇団外から才能が集結した音楽劇 演劇集団円『ヨーコさん』@吉祥寺シアター
演劇集団円『ヨーコさん』@吉祥寺シアターを観劇。絵本「100万回生きたねこ」で知られ、演劇集団円にも脚本を提供したことで縁が深い作家、佐野洋子さんの生涯を描いた音楽劇だ。作・演出の角ひろみはもともと関西で活動していた演劇作家で、芝居屋坂道ストアという劇団を主催しており、当時の作品は何度か見た記憶があったが、かなり長い間遠ざかっており、作品を久しぶりに見た。
佐野洋子本人の母親との軋轢、早世した兄、弟への複雑な感情など佐野の伝記的事実がこの舞台の本筋ではあるが、こうした出来事を基に佐野洋子が描き出した「100万回生きたねこ」の世界が佐野自身の生涯と二重重ねになるような構造になっている。この仕掛けが巧みだが、肉親の死、これから迎える自身の死が主題となっているだけに老いて最近人生の最期のことを考えることが多くなっている私には身につまされるようなことが多い作品だった。
角ひろみは脚本だけでなく、同時に演出も手掛けており、振付を白神ももこ(モモンガ・コンプレックス)が担当するなど小劇場系の舞台での活動の多い女性作家が参加。谷川清美が新代表になったこともきっかけのひとつかそういう路線に沿っての彼女の代表就任であるのかはよく分からないのだが、シェイクスピアの演出に中屋敷法仁(柿喰う客)を招くなど以前の新劇劇団だったらないような門戸の開き方を演劇集団円は行っているのではないかと思う。
音楽劇と書いたように音楽を担当した西井夕紀子*1も白神ももこの率いるモモンガ・コンプレックスに音楽を提供することが多い音楽家でこうした人脈上の人物が多く関わっているのが「ヨーコさん」の面白さだといえるだろう。
とはいえ、岸田今日子の肝入りで始まった円こどもステージの脚本を今回の主人公のモデルとなった佐野洋子に委嘱するなど劇作家以外の作家の起用や外部の人材の起用も以前から演劇集団円の伝統とみることもできるわけで、そうした伝統に従って劇団への脚本提供を行ってきた角ひろみが同様のことを行ってきた先達である佐野洋子のことを舞台化することになったというところには偶然の一致以上の劇団の意図を感じるし、角の今後の劇作提供への劇団からの期待が感じられるのではないかと思った。