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警察の内幕描き後味の悪さが持ち味か オフィスコットーネプロデュース 綿貫 凜 追悼公演(第33回下北沢演劇祭参加作品)「磁界」@小劇場B1

フィスコットーネプロデュース 綿貫 凜 追悼公演(第33回下北沢演劇祭参加作品)「磁界」@小劇場B1を観劇。先日他界されたオフィスコットーネのプロデューサー、綿貫凛さんが生前進めていた企画を残されたものたちが受け継ぎ綿貫 凜 追悼公演として上演した。
 「磁界」はJACROWの中村ノブアキ作演出による新作。ある警察署を舞台に警察組織の内幕を描き出している。描かれる対象となっているのは生活安全課。パンフなどではあまり刑事ドラマなどでは描かれないと紹介されているが、大沢在昌の人気ハードボイルド小説シリーズ『新宿鮫シリーズ』の鮫島警部がここの所属という設定だったことでけっこうなじみの深い部署ではあった。
 作品は肩肘張らずに見られるものであったが、主人公がややナイーブすぎるのではないかという気がした。作品としては警察組織の冷徹さを批判したいのかもしれないが、警察に押しかけている姉妹の言い分はあまりにも無理筋。妹を見つけてくれと話してもこれだけでは警察が動くことにリアリティーはないとしか思えないし、そのことで主人公が悩むのも「向いてないのね」としか思えない。民事不介入の原則がある限りは警察が動けないことを一番知っているのは弁護士であるはずで、後段で主人公に迫る弁護士の言い分にひとかけらも説得力を感じられなかったから、そういう意味ではどうしても作りが甘いなあと思えてしまう。
 いろいろと世話になった綿貫凜氏プロデューサーの追悼公演ゆえに手厳しいことを言うのははばかられるのだが、これはミステリではないとはいえ、内外共に警察小説が好きで数多く読んできたこともあり、例えば横山秀夫が連作短編で書いた警察内幕ものなどと比較するとどうしても厳しくなってしまうのが申し訳ない。
 主人公役の西尾友樹をはじめ俳優陣は熱演していたので、もう少しディティールに作り込みがあればなと思ってしまった。キャストを終了後再確認してみると主人公にとって迷惑きわまりないおばさん姉妹を演じていたのは異儀田夏葉、柿丸美智恵であれほど共感しにくい役柄を見事に演じていたのは実は「名演」だったのかもしれない。そういう意味では観劇当初はあまり入り込めなかったが主人公も含め一人も共感できる人物がいないこの作品はそういう後味の悪さにこそ見るべきところがあったのかもしれないとも思えてきた。

作・演出:中村ノブアキ(JACROW)
プロデューサー:綿貫 凜
出演:西尾友樹、井上拓哉、異儀田夏葉、狩野和馬、柿丸美智恵、谷仲恵輔、青山勝、大滝寛

2023年2月9日(木)~2月19日(日)  小劇場B1
前売りチケット発売中『磁界』アフタートーク登壇者決定!
14日(火)19時回 稲葉賀恵(演出家・文学座) 中村ノブアキ(劇作家・演出家・JACROW主宰)
16日(木)14時回 西尾友樹(劇団チョコレートケーキ) 柿丸美智恵 中村ノブアキ(劇作家・演出家・JACROW主宰)
進行:津吹由美子(オフィスコットーネ)

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