嫁をおしゃれキャンパーにする
キャンプが好きだ。
キャンプ道具も好きだ。キャンプ沼というらしい。新しいテントがほしい、今ならコットンテントだ。レトロ感がたまらない。地獄のように重いが、それがどうした。かっこいいじゃないか。年中そんなことばかり考えている。
ご多分に漏れず私も同類ではるあるが、私には家族という守るべきものがあるからして、そのように好き勝手にキャンプ道具を揃えるなんて愚の骨頂。愚か。薄給の身としては肩身が狭い。
結婚して子供が生まれてからというものキャンプとはご無沙汰だ。仕方がない。そもそも、嫁は虫嫌いにもほどがある。庭が素敵だと言って買ったマンションだが、虫がでるという理由で庭の手入れは一瞬で私の仕事となった。
そんな虫嫌いな嫁ではあるがキャンプには興味があるらしい。子供もこの夏で3歳になるし今年はキャンプに行ってやってもいいぞとお許しがでた。最近のおしゃれキャンプ特集なんかに触発されたらしい。「キャンプと虫」なんて、「餃子とビール」ぐらいの相性の良さだが、嫁にお知らせはしない。だってキャンプに行きたいじゃない。
今年は昔買ったテントでキャンプするかぁ。でも子供と3人だとちょっと狭いしなぁ。新しいテントがほしい。レトロで可愛いコットンテント…。
なんて考えていたら、実家に子供の頃使ってたテントがあったことを思い出した。30年以上前の話だし、確かな記憶ではないけどレトロでけっこう可愛かった気がする。
嫁はレトロとかビンテージという言葉には目がない。おまけに可愛いときたら間違いない。好きがこうじて海外のビンテージ雑貨を買い集め、お店を開いてしまぐらいに大好物である。ビンテージテントをきっかけに嫁をキャンプ沼にはめるのなんてわけないぜ。
題して「嫁のおしゃれキャンパー化計画」。
早速ある日の夕食中それとなく実家に古いテントがあることを嫁に告げる。
嫁:「古いテントなんか重いやろ」
即答された。おっしゃる通り。30年以上前のテントだ。重いに決まっている。一瞬心を乱されたが、キラーワードで応戦。
私:「でもレトロで可愛かったと思うねんな」
嫁:「ふーん。でも大きいんやろ、車に載らへんで」
あれ、響いてない。話が違う。レトロ可愛いのキラーワードが無情にも空を切った。嫁をおしゃれキャンパーにする計画が早速暗礁にのりあげてしまった。まずい。そんなこと言わずに今度テントを確認してみましょうよ。といって早々に話をきりあげた。
ほどなくして実家に帰省中、倉庫の棚で埃をかぶっていたテントをひっぱりだす。泣く子も黙る鉄のポール、なかなかの重さだ。嫁はまだ「重たいテントなんて」とぶつぶつ言っていたが「まあ、まあ」となだめながらテントを組み立てていく。
素材はコットンだと思っていたがどうやら違うみたいだ。そのせいか幕はそれほど重くない。そして思った以上に雰囲気がいい。可愛いらしいレトロな窓もついてる。痛みも少ないし、まだまだ使えそうだ。嫁もさっきから「可愛いかも」と手のひらを返し始めた。その調子だ。もうひと押し。私も稲川淳二よろしく「可愛いな、可愛いな、可愛いな」と呪文のように唱え洗脳をこころみる。30分余りで組み立て完了。ほどよくレトロで可愛らしい、組みあがったテントを見ながら嫁はいった。
「毎週キャンプしたくなってきた」
毎度あり。あざす。沼へようこそ。
私は「焚き火台があったらいいな」という。
嫁は「椅子もほしい」といった。
順調である。
つづく。