だから私は写真を撮る
動画の時代
2020年代に入り、メディアは静止画よりも動画が主流になっている。
スマホで動画を撮り、編集し、5G回線で簡単にアップロードができる時代。
デジタルカメラももはや動画機能が差別化の主軸だ。
フォトグラファーの方々も動画へ進出する方が増えている。
時が進むスピードは日に日に速くなっている。
モバイル通信の速度もこの10年で理論上40倍に高速化した。
できるかぎり、速く・短く・簡単に。これは人間が求めてきた普遍的な価値観だ。
求められるものはタイパ=タイムパフォーマンスだ。
映画やドラマを2倍速で見る人も増えている。
Instagramでも動画やストーリー機能を使ってアピールする人が多い。
Instagramに写真をアップしても、人の目に触れるのはせいぜい1秒程度だからだ。
もはやこの時代において写真はむしろレガシーなメディアなのかもしれない。
そんな時代にどうして自分は写真を撮るのだろう。
それは、動画にはできない「一瞬を永遠に変える」という写真の最大の魅力に取り憑かれているからだ。
動画からの切り出しでもきっと実現できない、フォトグラファーの一瞬を感じ取る感性と根性が写真を作り上げていく。
撮るのは私しかいない
6月15日、音楽ユニット「MOON RABBiTS」のライブの写真を撮らせていただいた。
私が購入した撮影可能席("カメコ席"、と呼ばれていた)は数席が用意されていたが、実際に来場したのは私だけだった。
この公演を写真として残せるのは今、自分しかいない。そんな勝手な責任感が湧いてきた。
ファンのみんな、盛り上げる方は任せた。
私は私にしかできないことをする。
夢中でシャッターを切った。
1時間公演で撮影した枚数は2000枚超。メモリーカードは公演終了の瞬間に使い切っていた。
帰宅し、Macの前でそれらの写真をどうするか考えた。
そしてもう一つ、写真にしかできないことを思い出した。
プリントすること、すなわち形にすること。
彼女たちの6月15日はあっという間に終わってしまった。
でも、プリントというツールを使うことでそれを永遠に変えることができる。
私は2000枚の写真から数十枚をまとめ、フォトブックという形にした。
ここに、彼女たちの6月15日が永遠に刻まれた。
一瞬を永遠に
先日、MOON RABBiTSの現体制での活動が9月を以てクローズすることが発表された。
どのような事情があったのか、邪推するのはセンスがない。
今はただ、その事実を受け入れるしかない。
そして、彼女たちの残りの大切な一瞬一瞬をただ応援するだけだ。
一つ感じたことがある。それは「6月15日」という日を、(技術的にはプロに劣るけれど)私なりの形にできて本当によかった、ということだ。
下町あおさんの、石田夢音子さんの、北野真衣さんの”今”が再び起こることはない。彼女たちはただ前を向いて走っていく。
そんな彼女たちの一瞬一瞬に無我夢中でシャッターを切り続けた時、
私は少しだけ自分がフォトグラファーになれた気がした。
ありがとう。