うどんを食べた話
大学の帰り道。腕の時計を見ると時刻はもう午後の二時だ。昼食を未だ取っていないのは惜しまれるが、だからといって遅い時間ではない。ちょっとデカ目のおやつと考えればオッケーだと自分を騙して、さてどんなおやつを食べようかと探しだそうとするのだが、そこでくぅとお腹がなる。どうやらこれ以上動くなということらしい。
だが腹が減ったのは如何ともし難いので、何か近くにある店を探す。目線を左右に揺らしながら良さそうなおやつを食べれそうな所を見つけようとする。ガッツリ食べると夕食に影響が出るので、出来る限り軽めに済ましたい。
すると、灯台下暗しとはまさにこのことだろうか。目の前にパァッと光が輝いたかの如く、うどん屋が現れた。
ほう、うどんか。好きな部類ではあるし、私の身体には半分香川県民の血が流れている。しかも初めて入る店だし、これ以上は動けなさそうと見た、なら行かねば。
限界に成りかけた身体を動かして、外に備え付けてある券売機の画面をタップする。僕美味しいよ! と言わんばかりに季節や期間限定、等と激しい主張をしているうどん達をごめんね、君たちには興味ないんだと、容赦なくスワイプして、一番安いかけうどんをタップ。そのまま支払いを終えて券を取り出す。
ちなみにかけうどんにした理由は安いし、うどんの良さがシンプルに味わえるからだ。食いすぎるということもないし、そういう意味では今の私にはぴったりのうどんだった。
店内は立ち食いのコーナーとクソ高椅子のカウンター、そしてノーマルな椅子とテーブルの座り食い用の三種に分かれており、各々うどんを堪能している。初めて入るからどうしたらいいか一瞬迷いかけたが、前にいたおじさんの後ろに位置取ることで全てが解決した。ありがとうおじさん。
おじさんは美味しそうな卵乗せ牛丼とうどんが乗ったトレイを受け取って、歩いて行った。私も続いて券を店員さんに渡し、今か今かとうどんの降臨を待ち侘びる。一分くらい掛かるかなと思ったが、流石はかけうどん。三十秒も立たずにスープを掛けられ、ネギを乗せられた状態で出て来た。
トレイを受け取って、何処で食べようかと悩む。普通に立ち食いがテーマの店だから、立ち食いしようと思ったが、肉体的なことも考えてバカ高い椅子に座って食べることにした。
目の前のうどんは、ホカホカとした湯気を上げながら早く食べてくれと言わんばかりにこちらを見つめている……ような気がした。ので、伸び切る前に食べて上げようと、いただきますをした後に箸を手に取ってうどんを掴む。
細くなく、ちょっと太めよりの麺。ずるるっと啜る。口内に楽しそうに飛び込んできた麺とお仲間のネギ達を、舌と歯のコンビネーションで大歓迎してあげる。舌で味わい、歯でも味わう。もちもちとしたかと思えば潔く切れるうどん。あっぱれと言いたくなるその散り際に内心感動しながら、どんどんと食べ進めていく。ずるずる、ずるずる。音が鳴る度に器から麺が消えて行き、気付けばもう器には配下を無くしたスープと仕えるべき主を失い、生きる意味を無くしたネギの残党達だけになっていた。ここまで熱中して食べたうどんは何時ぶりだろうか、雨が降っていて少し気温が低いから? 腹が空いているから? いいや、このうどんは敬意を評すに値するものだった。ならば最期まで敬意を持って味わってやろうと、スープもごくごくと飲み干していく。丁度良い塩加減に温かいスープが、食道を通って胃に温もりを届ける。食されたうどん達と、スープ達が胃の中で涙ながらに再会するのが思い浮かんだ。また生まれ変わってもうどんとして会おうなと誓っているのが思い浮かぶ。何処まで行っても、うどんはうどん以外の何者でも無いのだ。
ごちそうさま、と感謝と敬意を示して、トレイを返却口に返す。美味しかったです、ありがとうございましたと告げて店を去る。
背中から聞こえてきた、ありがとうございました〜と言う温かい声と、先程温かくなったお腹を抱えて、私は笑顔を浮かべながら、軽い足取りで店を出た。
「あ〜、美味しかった。」