小論文・志望理由書作成で注意したい並列表現 ~『悪文の構造』の読書感想文に代えて~
更新日:2024/11/29
小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導で教えている、文章作成における基本事項を紹介するのが、このシリーズ【文章作成の基本】。
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(〆野の自己紹介はこちらから見られます。)
『悪文の構造』を通じて学ぶ、適切な並列表現。
『悪文の構造』の紹介と感想から。
当初、純粋にこの本の感想文を書こうと思っていましたが、本日は、この本の紹介と感想をまとめた後、この本を基に「並列表現」についてお話ししていきます。久々の「文章論」です。
『悪文の構造 機能的な文章とは』、本書の著者は千早耿一郎(ちはやこういちろう)。日本銀行に入行しその事務仕事に従事する傍ら文芸活動に勤しんだ作家です。本書はタイトルにあるように、いわゆる「悪文の例」を示し、その文章のどこが構造的に悪いのかについて徹底解説した上で、それをどのように修正すると「正しい文(いわゆるサブタイトルにある『機能的な文章』)」になるのかについて説明しています。いわば、「正しい文章を書くための指南書」です。
一つひとつ、言っていることは基本的で単純なことです。比較対象として自分を挙げるのは大変恐縮ですが、私がこのアカウントで「文章作成の基本」として記事にしていることとほぼ同じです。たとえば「一文は短くしよう」、「言葉の意味を誤って使わないようにしよう」、「主語―述語、修飾語―被修飾語はしっかり対応させよう」、「適切に助詞(てにをは)を用いよう」など、おおよそ世に出ている文章術とほぼ同じことを言っています。
しかし、本書の本領はそこにあるのではありません。圧倒されるのは、とても豊富な「悪文の例」、そしてそれに対する徹底された解析です。最終的に帰着するところは凡百の文章術の本と同じかもしれませんが、そこに至るまで、次から次へと「悪文の例」を挙げていき、これでもかと言わんばかりに、「何が誤っているのか」を構造的に緻密に分析しひも解いていきます。それを読んで理解する過程の中で、文章に対する解像度は否が応でも高まります。今年、読んだ本のうちでは一番オススメかもしれません。これは「人に伝わる文章をしっかり書きたい」全ての人にオススメできます(ただし本書の文構造の解析は本当に詳細なので、読むのにとても時間がかかります。心して読んでください)。私も大変勉強させていただきました。1979年に刊行された本ですが、今でも全く色褪せない一冊だと思います。
サブタイトルの「機能的な文章」とは、ビジネス文章のような「実用的な文章」に限って言っているのではありません。本書の最初に表明している通り、言葉の主な働きとは「事実や意思を伝達する働き」であり、それが正確に遂行できる「洗練された文章」こそが著者が言う「機能的な文章」です。したがって、「悪文の例」は多岐に渡ります。法律や条例の文や官公庁の出した公用文、街角にある看板・案内板の文やキャッチコピーといった広告文、三島由紀夫などの文豪や作家が書いた小説文や評論文・エッセイ、歌謡曲の歌詞から果ては現代詩まで。よくもまあ集めたりといった「悪文の数々」。しかし、引用の許可どりはどうしたのでしょうか、小説家や作家先生たちは承諾してくれたのでしょうか。「あなたの文を悪文の一例として挙げるので許可してください」なんて、三島由紀夫に言えませんし許可してくれるとも思えません(笑)。
ともかく、いい本には違いないのですが、これをそのまま中高生の方々に「読んでね」と言うのは少し酷な気がするので、ここでは、今まで私の記事で取り上げていなかった並列表現に限って、本書の内容を引きながら説明していきます。
『悪文の構造』に示されている並列表現のポイント
並列表現というのは、「文節同士が対等の関係で並んで示されているもの」のことを言います。
例1は「名詞」を並べています。「現代文」、「古文」、「漢文」の三つが「出題される」ということです。例2は「連体修飾語+名詞」を並べています。「和食のランチ」、「洋食のランチ」の二つが「ある」ということです。なお、格助詞の「と」は本来は並列される全ての文節につくのが正しい(例:源氏と平氏『と』が一戦を交える)のですが、英語の「and」のように間に挟む使い方も今は許容されています(例:源氏と平氏が一戦……)。そして、例3も「連体修飾語+名詞」を並べています。「今の勇者の戦闘力」と「ドラゴンのそれ(=戦闘力)」とは「比べものにならない」ということです。こういったものを「並列の関係」もしくは「並列表現」と言います。
この並列の関係に対して、『悪文の構造』の中で著者の千早耿一郎氏は、その関係の成立条件としては4つあると言っています。それが、以下のものです。
これに照らし合わせると、たとえば、例1は「現代文が出題される」、「古文が出題される」、「漢文が出題される」となるため、①から④の条件を満たしています。このように、この条件が満たされないと並列関係は成立しません。しかし実は、この手の間違えは中高生の小論文や志望理由書でまま見かけます。たとえば、こんな感じです(これは実際〆野が見かけた志望理由書の文章を改変したものです)。
「部員に声かけをして士気を高めてやる気を鼓舞すること(A)」の後に「と」があるので、「~『こと』と……『こと』」と続かないとおかしいですが、Aと等質のもの(B)がありません。また、内容的にBは「チームが一丸となって野球に取り組めるように部員とコミュニケーションを十分にとり、」になりそうですが、「……こと」のように名詞終わりになっていないと等質とは言えません。さらに、「合流点」がわかりません。「部員に声かけをして士気を高めてやる気を鼓舞すること(A)」から「部を県大会優勝へと導きました(C)」につながりません。「チームが一丸となって野球に取り組めるように部員とコミュニケーションを十分にとり(B)、部を県大会優勝へと導きました(C)。」は「B→C」とつながりますが、「A→C」とつながりません。
以上の誤った点を踏まえて、以下のように改善してみます。
例4―1案では、「部員に声かけをして士気を高めてやる気を鼓舞すること(A)」と「チームが一丸となって野球に取り組めるように部員とコミュニケーションを十分にとること(B)」というように、等質(同じ名詞終わり)・等量(同じくらいの内容量)のものにしました。その上で「合流点」を「に努め(C)」というように新たに設定しました。これによって、「部員に声かけをして士気を高めてやる気を鼓舞することに努め(A→C)」、「チームが一丸となって野球に取り組めるように部員とコミュニケーションを十分にとることに努め(B→C)」のように完璧につながる文(句)に分解できるため、十分な並列関係が成立していると言えます。
一方、例4-2案では、「部員に声かけをして士気を高めてやる気を鼓舞し(A)」と「チームが一丸となって野球に取り組めるように部員とコミュニケーションを十分にとり(B)」というように、等質(同じ動詞終わり=連用中止法)・等量のものにしました。ここでは、「合流点」を「部を県大会優勝へと導きました(C)」に定めました。これによって、「部員に声かけをして士気を高めてやる気を鼓舞し、部を県大会優勝へと導きました(A→C)」、「チームが一丸となって野球に取り組めるように部員とコミュニケーションを十分にとり、部を県大会優勝へと導きました(B→C)」のように完璧につながる文に分解できるため、十分な並列関係が成立していると言えます。1案でも2案でも、どちらでも構いませんが、このように改善するとよいでしょう。
私の指導経験上、こうした「並列関係の不成立」は、一文が短いことは余りなく、一文が長くなることで引き起ることが多いようです。長い文を書いている間に、何と何を並べているのかがわからなくなるのでしょう。一文をなるべく短くまとめ、前述の4つの成立条件を意識して、適切な並列表現をとることを心掛けたいものです。
なお、本書にはこんな「悪文の例」が出てきます。ちょっとクイズ感覚で読んで見て、考えて欲しいです。さて、この文章は一体何がおかしいのでしょうか。
読んで「ちょっと違和感があるな」と思う人は、この文の何がおかしいのか、説明してみてください。そして、どうしたら「正しい機能的な文章」になるのか、改善案を提示してみてください。なお、この記事のコメント欄に書いてくれたら、〆野が答え合わせをしますよ(笑)。
まとめ ~適切な並列関係を成立させるように、意識して小論文や志望理由書をまとめよう~
本日は、千早耿一郎著『悪文の構造 機能的な文章とは』の紹介を、自身の感想を交えて行いました。また、そこから本書にある「適切な並列関係の成立条件」を示し、並列表現のどういう点に注意をしたらよいか、述べました。
この本を読むと、世の中にいかに多くの「悪文」があふれ、そしていかにそれに普段気付いていないか思い知らされます。大文豪の文章でも意外と基本的なミスがあって、驚きます(もちろん、だから学生のみなさんもミスしていいよ、ということではありません)。ご興味のある方は、是非一度読んでみてください。高校生や受験生だけではなく、大人の方にも、いや大人の方の方が、文章作成能力の向上に役立つ一冊だと思います。
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