小論文における「具体例」と「理由」の示し方。~「論証」のメカニズム~
更新日:2024/11/01
小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導で教えている、作文・小論文・志望理由書作成における実践的な技法をレクチャーするのが、このシリーズ【文章作成の実践】。
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(〆野の自己紹介はこちらから見られます。)
「根拠」である「具体例」と「理由」をどのように示すか。
小論文とは、「問い」に対して「主張」を明確に立てそれに「理由」づけをして「論証」した文である。
以下の記事で、小論文とは何か、その定義についてまとめました。
ここで挙げた「小論文を構成する要素」を簡潔にまとめると、以下のようになります。
以上から、小論文とは、「自分の立てた問いに自分の意見(主張)を立て、それに理由づけをし『論証した(自分の主張が正しいことを実証した)』文章」、とまとめることができます。では、それはどのように可能なのでしょうか。「論証」を実践的に行うために、まずは、ここで「論証」のメカニズムについて理解していきます。
「根拠」には「具体例」と「理由」の二つがある。
別記事でも例に挙げたように、小論文における「論証」は「数学の証明」を考えてもらうとそのイメージがつかみやすいです。「数学の証明」では最後に「∴(ゆえに)」と置き最後に答えを書きますよね。これこれこういうことで「だから」これが答えです、といったように、「証明」しました。これと同じことを文章上で行う、それが小論文だと思ってもらってよいです。つまり、ある課題が提示するテーマや論点に対して、自分はこう考えると自分なりの答え(意見・主張)を立てて、それが正しいことを読み手に「証明」する、それが「論証」であり、小論文とはそうした文章なのです。
たとえば、「Aさんが犯人だ」と主張して、その主張の正しさを「証明(論証)」するとします。それには、当然「証拠」を示すことが必要になってきます。Aさんがその犯罪行為を行った「証拠」がなければ、「だからAさんが犯人だ」と言えません。こうした「論証」において、その「証拠」となるものを主に「根拠」と言います。小論文では、自分の主張に対する「根拠」が必要なのです。
この「根拠」となるものは、大きく分けて二つあります。一つは先ほどから言っている、別の記事でも言っていた「理由」です。「物価が高騰し人々の日々の経済状況が苦しくなっている。なぜなら、物価が高騰しているにも関わらず給与水準が上がらないからだ。」というように理由づけをするものです。二つ目は「具体例」です。「物価が高騰し人々の日々の経済状況が苦しくなっている。たとえば、飲食店や歯科医院の倒産が過去最多ペースであることからも、厳しい国内の経済状況が明らかである。」というように具体例示をして、自分の主張が正しいことを示すものです。しかし、この「理由」と「具体例」、同じ根拠ではありますが全く同じものではありません。生徒のみなさんの答案を見ていると、この二つの違いをわかっていない人を多く見かけます。この「理由」と「具体例」は何が違うのでしょうか。
トゥールミンモデルで見る「論証」のメカニズム
イギリスの科学哲学者スティーヴン・トゥールミンは『議論の技法』の中で、通称「トゥールミンモデル」と呼ばれる、「基本的な論証のパターン」を示しています。これは、この手の話が好きな人なら知っているような「その筋ではとても有名な説」なのですが、「シンプル」なお話なので、それに則って、「論証」のメカニズムについて解説していきます。
まず、トゥールミンモデルでは、「理由」と「具体例」は同じ根拠となるものではあるものの、性質も機能も全く別のものとして考えられています。例文を挙げて説明していきます。
この文章は、実際私が見かけた、生徒が書いた答案に似せて、私が作成したものです。これを読んでどう思いますか。さっと流し読みしてしまうと、違和感なくすんなり受け入れられそうですね。「言っていることは正しいけど、説明が足りない。」、そうですね、うーんなかなかいい線いっています。たしかに、私も添削だったら限られたコメントしか書けませんから「説明が不足しています。」と指摘していますね(現にそう指摘しました)。でも、このモヤモヤ、紙面が限られていなかったら、トゥールミンモデルを使ってこう説明することができます。
トゥールミンモデルに従うと、前半の「プラスチック製品の生産の増加やそれのポイ捨てなどが原因で、海洋プラスチックごみが発生し海洋汚染が進んでいるという報告がある。」は根拠となる客観的事実であり「具体例」ですね(Data)。で「したがって」の後の「海洋汚染防止のために、使い捨てのレジ袋を使うのをやめて、再利用可能なエコバッグを使うべきだ。」は自分の意見や考え、つまり「主張(Claim)」です。「具体例」を挙げて、「したがって」と「主張(結論)」を導き出している、この論証は正しいです。でも……、これ何か一味足りない、説得力に欠けます、なぜでしょうか。
具体例(Data)と主張(Claim)を結びつける理由(Warrant)がないからです。そのため、論理の飛躍とまでは言いませんが、文字通り「説明が不足」しているのです。その「具体例」を踏まえてどうしてその「主張」に行きつくのか、その「理由」づけが十分ではないのです。では、この例文を改善してみましょう。
論証内容として大きな違和感を感じなかったのは、「レジ袋がプラスチック製である」のと「レジ袋が使い捨てであるためにプラごみが増える」ことが暗黙の内に了解されていた(常識的な環境問題に対する知識や理解がある人には)ためです。しかし、それがないために、「説明が不足」し「論証として不十分」になってしまったと言えます。ですから、「レジ袋はプラスチック製の容器包装であり、それを使う度に捨てることでプラスチックごみが増えている」ということを理由(Warrant)として挙げることによって、なぜレジ袋を使わないことがプラごみの削減と海洋汚染の防止につながるのかについて、十分に説明する必要があります。
このように、トゥールミンモデルでは、「具体例(Data)と主張(Claim)との論理的つながりを十分に担保するもの」として「理由(Warrant)」づけが成されることが、論証では必要であることを示しています。この「具体例(Data)」と「主張(Claim)」の論理的結びつきをより強固にし確実なものにするために、論拠として「理由(Warrant)」が必要なのです。そして、「正しいけど何か説明がもの足りない小論文」は、大抵この「理由(Warrant)」が欠けていると言えます。トゥールミンモデルの話はまだ続きますが、それはまた別の記事で扱うとして、ここまでが「トゥールミンモデルを使った『基本的な』論証メカニズム」の話です。ここまでの内容でいったん整理しておきましょう。
まとめ ~「具体例」と「理由」を適切に使い分ける~
答案で、「なぜなら……」と始めて具体例について述べているもの(概してこういう答案は『なぜなら~からだ』という文末の呼応表現が守られていない)や、逆に「たとえば……」と書き始めたにも関わらず、極めて抽象的な内容となっており具体例ではないものをよく見かけます。おそらく、「『具体例』も『理由』も同じ『主張』の根拠になるもの」と考えているため頭の中でごっちゃになっているのだと思われます。前述の通り、実際的な事例を踏まえて導き出された主張(自分の意見)の、その導出過程を保証するものとして「理由」づけが機能していないと、十分に「論証」したことになりません。「具体例」と「理由」を意識して使い分けるようにすると、より説得力のある小論文になるでしょう。
〈参考資料〉
Wikipedia「議論学」 「理論」の項目を参照。
注:「Data」・「Claim」・「Warrant」に対する訳語は、本や資料によって一致していない。ここでは小論文作成の指導としてこれらの語を用いたため、それぞれを「具体例」・「主張」・「理由」と訳した。
(トゥールミンモデルに興味のある方は是非!私も参考にしました。)
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