失敗している小論文は「課題」に答えていないのが9割!
更新日:2024/09/20
小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導で教えている、文章作成における基本事項を紹介するのが、このシリーズ【文章作成の基本】。
(〆野の自己紹介はこちらから見られます。)
試験問題である以上、「課題」に答えるのが前提。
小論文は「文学賞」ではない。
タイトルの「失敗している小論文は「課題」を読めていないのが9割」。あなたは極論だと思いますか?これ、たぶんほとんどの国語や小論文の先生には同意していただけることだと、私は思っています。
評価の低い答案のほとんどは、まずもって課題、つまり問題文と課題文が読めておらず、課題に答えていないものです。内容の説得力うんぬんの前に、問題が聞いていることに対して答えていない答案が大半なのです。
小論文では漠然と「いい感じの文章」が評価されるともし考えているのであれば、その考えは捨ててください。また文章を書くセンスや才能に長けた人が小論文試験で評価を受けると思っている人も同様です。その考え方は間違えています。小論文試験は「文学賞」ではありません。
文章を書くということ以前に、「これは試験である」という前提に立てば、「課題に答えていなければ得点や評価につながらない」というのは至極当たり前のことだとわかるはずです。他の教科試験においても、聞かれたことに答えていなければ、得点できませんよね?それは小論文試験でも同じことです。
さてここで、あなたに究極の選択をしてもらいます!
「問題には答えていないけど内容がとても素晴らしい小論文」と「問題には答えているが内容がいまいちな小論文」。どちらが評価が高いでしょうか?
……正解は、後者の「問題には答えているが内容がいまいちな小論文」です!前者は問題に答えていないのですから、いいも悪いも最初から評価外です。前者がいかに文章内容として素晴らしくても、「文学賞」ではないですから、それだけが手離しで評価されるわけではありません。問われていることに答える、これが試験の基本です。その上で、その答えた内容に評価が下されます。問われていることに答えていないのは、その評価の俎上にすら上がりません。Xの値を求めよと問われて、Yの値を答えているようなものですから、かりにYの値としてそれが正しくても、そもそもそれは問われているXの値ではないわけなので「不正解」となります。
失敗している小論文答案の9割はこれと同じことをしてます。それはバタフライ200mの競技なのに、クロールで泳いで1着になるのと同じです。それはもう泳ぎが速いとか、素晴らしいとか以前の問題で、「失格」です。「厳しい……」と思う人もいるかもしれませんが、それが試験なのです。同じ条件下(課題に答える)で競い合いそこで優劣がつく、それが試験です。小論文試験も、他教科同様そうした試験であることをしっかり意識した上で、学習をし本番に備えてください。
さて、この「課題に答えていないケース」ですが、これは大きく分けて二つあります。一つは「問題文に答えていないケース」、二つ目は「課題資料に答えていないケース」です。ここでは、その二つのケースに分けて、問題点と解決策を示していきます。
問題文に答えていないケース
小論文で、「課題」といった場合、それには大きく分けて「課題資料」と「問題文」とがあります。たとえば課題文型の小論文の場合、「次の文章を読んで、あとの問いに答えよ」、で、課題文が示され、その後「問一……」と続きますが、ここでは、まず「問題文に答えていないケース」について考えていきます。つまり、問題文で指示されている条件を踏まえていないというケースです。
たとえば次のような問題があったとして、問1は「筆者が主張していること」について「説明しなさい」とあります。これを読んでわかる通り、これは自分の意見や主張が求められているのではなく、筆者の主張しているものがどういうものかを「説明する」、つまり「論述問題」や「要約問題」であると言えます。しかし、こうした問題のとき、しばしば自分の考えや感想を書く人がいます。当然、これは「問題文に答えていない」答案ということになります。自分の意見を書いてはいけません。これは本文からの「読み取り問題」なのですから、本文でそれがどういう風に説明されているのか読み取り、本文の語句や表現を用いて、制限字数内で説明するべきです。
また、問二では、「『聞く力』に関する筆者の見解について、あなたの経験をふまえながら、考えを述べなさい。」とありますから、まず「『聞く力』に関する筆者の見解」をしっかり読み取った上で、それについての自分の考えを述べることが大事です。もし論じる対象がそこからずれていたら、それがいかに素晴らしい論であったとしても、「問題文に答えていない」答案ということになってしまいます。
ここでは「筆者の見解について」の考えを述べるということですから、その見解に賛成(同意)か反対かという意見の提示になろうかと思います。しかし、ここが「○○についてあなたはどう思うか」という問いである場合は、それは賛成か反対かということではなく、自分がそれについてどのように考えるか答える必要があります(何でも考えずに一律に「賛成」、「反対」と論じる生徒がよく見かけますが、その生徒は何が問いかけられているのかが読み取れていないと言えます)。つまり、その問題文の「問いかけ」がいわゆるYES/NOクエスチョン(賛成or反対)か、WHクエスチョン(自分ならどう考えるか)か、しっかり問題文から読み取って答えることもここでは大事です。
加えて、忘れてはいけないのは、この問二では「あなたの経験をふまえながら」とあります。こうした設問の条件や指示には必ず従わないといけません(感覚的にですが、実際のこの試験でもこれを忘れて答案を書いた受験生が一定数いたと思われます)。つまり、「自分の実体験」を取り上げて論じる必要があるわけです。これが盛り込まれていなかったら、当然、その答案は「問題文に答えていない」ということになります。本番では、こういう設問の条件や指示には線を引くなどして、しっかりチェックしておくことが大切です。
課題資料に答えていないケース
上記のように問題文の指示がある程度具体的である場合には、その指示を的確に押さえて忘れずにそれにしっかり従い、いわばあえて「設問の誘導」に乗っかっていきながら文章答案をまとめていけばいいのでまだいいです。しかし小論文の問題の中には「課題文を読んで、あなたの考えを800字以内で述べよ」とだけしか指示がない場合もあります。私の考えではこうした問題の方が厄介だと考えています。
さきほどの例題のようなパターンは、ある意味「問題文が先行してあなたが読み取るべきことを読み取って示してくれている」とも言えます。
考えてみてください。問一で「筆者が主張する聞き手行動の重要性」をまとめさせるということは、それが本文における筆者の主張のキモであることを示しています。また、問二で「『聞く力』に関する筆者の見解」について自分の考えを述べることを指示しているということは、それが本文における「主題(テーマ)」と「論点(何について論じているか)」であることを示唆していると言えます。つまり、別の言い方をすれば、こんなにいい「ヒント」はなく、こんなにも「親切設計」の問題はないのです。本来なら、こうした「誘導」がなくても、これらのことをあなたは自力で読み取らなければいけません。
ですから、「課題文を読んで、あなたの考えを800字以内で述べよ」のような、何の設問条件もないシンプルな問題の方が厄介と言えます。自分で課題資料から、「主題」と「論点」、「筆者の主張(課題文の場合)」を読み取り、しっかり問題提起をして、小論文を書かなければいけないということになります。
ここでよく見かけるのが「論点のずれ」です。「主題」を読み取れない人はまずいません。たとえば「社会の高齢化」について述べている課題文があったとして、「ああ、超高齢社会がテーマなんだな」とほとんどの受験生はわかります。しかしその課題文が何を論点としているのか、つまり社会の高齢化の何を問題として論じているのかがしっかりと読めていないケースがあるのです。
これは実際に過去に見かけた答案です。その問題の課題文では社会の高齢化をテーマとして介護問題(いわゆる老老介護)について論じていました。介護する側も高齢になることでの家庭介護の大変さについて論じていたわけです。しかし、その生徒は、たしかに社会の高齢化について述べてはいましたが、高齢化の背景にある少子化の問題について論じ、若年層の非婚化や晩婚化の問題について言及していました。同じ高齢化の問題をテーマとして論じていますがこれは論点がずれており、これでは「課題文を読んで考えを述べた」ことにはなりません。老老介護の問題について論じるべきです。
「課題文を読んで自分の考えを述べる」ということは、課題文の「主題(テーマ)」と「論点」を自分も踏まえないと「読んで書いたこと」にはならないのです。筆者の意見に対して賛成か反対かは自分の意見の提示としてどちらでもよいですが、課題文と「論点」が共有されていなかったら、課題資料を踏まえたことになりません。「主題」を取り違えるというのは高校生の場合ほとんどないのですが(中学生はたまにある)、「論点」がずれるのはまま見られます。当然、こうした答案も「課題に答えていない」とみなされてしまいますので、課題資料から正確に「主題(テーマ)」と「論点」を、そして文章資料の場合は「筆者の意見」を読み取ることが大事です。
まとめ ~小論文でも「課題」に答える姿勢を忘れずに~
小論文も大学入学試験の一教科として課される以上、合否に関わる評価が成されます。上手い文章を書けるのに越したことはないですが、それ以前に、「スタート段階」でのその試験問題に答えるという姿勢がまず必要です。「課題」をしっかりと読み取り、小論文問題に取り組むようにしましょう。
〈付記〉
こちらの記事では、高校で36年間小論文指導に取り組まれ、2020年から代々木ゼミナール教育総合研究所・主幹研究員を務めていらっしゃる鈴木勝博先生が、この拙記事と同じ主旨のことを書かれていますので、引用してご紹介します。
こうした気付きから鈴木先生は、「ある取り組み」を行われました。それは設問文を「声に出して」読ませることでした。
その結果、生徒は設問の「条件」をとりこぼさず、設問の「要求」に答えた文章答案が作れるようになったと言います。鈴木先生はこの後、このように述べられています。
まさしく先生のおっしゃる通りです。ベテランの鈴木先生は、生徒が設問や課題に答えていないのがネックとなっていることを見抜き、そして指導法を変えて対応されていたのですね。とても参考になる記事でした!
これ以外の内容は当該記事をお読みください!
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