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Lucky Shot


悪は善のことを知っている。

悪は善のことを知っている。
しかし善は悪のことを知らない。

チェコの小説家、フランツ・カフカの言葉です。
カフカと聞くと『変身』を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?

『変身』の冒頭、主人公は巨大な虫になります。

ある朝、グレーゴル・ザムザが、何か気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した。

人間が巨大な虫に変わる…この発想が後に石ノ森章太郎先生の不朽の名作『仮面ライダー』の『変身』へと繋がりました。

嘘です。
いや本当かもしれません。
分かりません。
分かりませんが、たぶん嘘です。

だいたい私はカフカの『変身』を読んだことがありません。
インパクト満点のこの冒頭だけは、江口寿史先生の不朽の名作『すすめ!!パイレーツ』で読んだから知ってました。

私のこの手の知識の7割くらいは漫画から得たものです。

さて…

悪は善のことを知っている。
しかし善は悪のことを知らない。

この世は様々な形で2つに分かれます。
善と悪、天と地、光と闇、表と裏…
その2つが同じくらい互いを知っているということは少ないでしょう。
だいたい、どちらかが一方的に相手のことをよく知っているものです。

これから書くのは、そういうお話です。

世の中には表と裏があります。
表だけしか知らない人間はいます。
でも裏だけしか知らない人間はいません。
裏を知っている人間は必ず表を知っています。

カフカのように言うなら、

裏は表のことを知っている。
しかし表は裏のことを知らない。

カフカの登場はここまでです。
カフカはこのお話とは関係ありません。

さて…

島村塾を開いて35年になります。
そのくらいだと思います。
ちゃんと数えたことないけど、そんなもんだと思います。
そのくらい数えろよって思われる方も多いと思います。
なにより私自身がそう思っています。

もちろん、ちゃんと数えようとしたことはあるんです。
でも数えようとするたび、何かに邪魔されます。
数える数字が不安定に変わります。
気持ちが他にそれてしまいます。
転生する際に自分自身の記憶に強い制限をかけたのかもしれません。
みたいな漫画を最近読みました。

単に集中力がないんだと思います。

さて…

島村塾を開いて35年くらいになります。
最初は高校2年の男子1名、女子2名の3人から始まりました。

それから10年くらい後の話です。

高校2年の男子が入ってきました。
彼は柔道部に所属していました。
登場人物が多いので名前をつけておきます。
柔道部の彼のことは十五と呼ぶことにします。
小林まこと先生の不朽の名作『柔道部物語』の主人公・三五十五から頂きました。

十五の所属する柔道部はそんなに強くなかったんですが、彼は柔道が大好きでした。
強くなりたくて同じ階級の強い選手がいる大学まで1人で稽古に行くような熱い奴でした。
頑張ったおかげで、高2の終わりには、個人戦でシードをもらえるくらいに強くなっていました。
自分は体格が中途半端で上げるか下げるかしないといけないけど、下げた方が有利だから…といって、大会前は減量していました。
1日トマト1個という、鷹村守のような食生活で減量してました。
それは、このお話とは関係ありません。

ある日、十五が、入塾希望の友達を連れてきました。

情熱の耐えられない軽さ

柔道に青春をかける熱い十五が、入塾希望の友達を連れてきました。
小学校、中学校も同じ、仲のいい友達だそうです。

いつも通り、面接をしてから体験授業を受けてもらうことになりました。

島村塾の体験授業を受けた方はご存知だと思いますが、島村塾では、体験授業の際に連絡先を聞くことはありません。
体験授業を受けて島村塾のことを気に入って頂ければ、次に来たときに記入した申込用紙を持ってきてもらいます。
気に入らなければ、来なければいいです。
入塾する、入塾しないの連絡は必要ありません。
体験授業で教えるときに不便なので、下の名前だけは教えてもらいます。
それから、必ず目標…進路と将来なりたい職業について聞きます。
小学生にも中学生にも高校生にも聞きます。

十五の友達にも同じことを聞きました。
十五の友達が、このお話の主人公です。
長身、細マッチョ、小顔にサラサラヘアのなかなかのイケメンでした。
当時は俳優の河相我聞さんに似てるって言われてました。
十五の友達のことは、我聞と呼ぶことにします。

十五の友達…我聞にも同じことを聞きました。

高校卒業したらどうしたい?
将来、何になりたい?

我聞は答えました。

はい。
僕の両親は、○○○で△△△をやっています。

○○○や△△△では、なんか雰囲気出ませんね。
でもさすがに我聞の住所と実家の職業を晒すわけにはいかないし…

はい。
僕の両親は、ペンギン村で発明家をやっています。

はい。
僕の両親は、ゴッサム・シティでヒーローやってます。

まあ、○○○でいきましょうか。

私は我聞に聞きました。

高校卒業したらどうしたい?
将来、何になりたい?

はい。
僕の両親は、○○○で△△△をやっています。
それと僕には兄がいます。
僕は兄と一緒に△△△を手伝うつもりです。
僕と兄が力を合わせて△△△を大きくします。
そのために、商人の町、大阪の大学で商学か経営学を勉強したいです。
簿記の資格もとります。
そのために、これからしっかり勉強したいです。

ああ、私は今、猛烈に感動しています。

まだ高校2年生なのに、お兄さんと協力して、ご両親の家業を発展させようというのです。
無気力な若者が増えたといわれる現代社会、こんなにも親思いで純粋で情熱に燃えた若者がいるのです。
日本はまだまだ捨てたものではありません。
長身、細マッチョ、小顔にサラサラヘアのなかなかのイケメンなのに、全然、チャラくなくて、真剣な目で私の目をまっすぐに見つめかえしています。

私は感動でこぼれそうになる涙を堪えながら言いました。

そうか。
我聞ならできるよ。
一緒に頑張ろう。

そして我聞は、家の用事があるということで十五とは別に先に帰っていきました。

我聞を見送り、涙をぬぐう私に十五が言いました。

あれ、我聞のノリですよ?

私:ん?

十五:
心にもない、ええこと言うて誉められるんがオイシイって思ってるんですよ。

私:ん?

十五:
ええ奴やけどチャラいっすよ。
今やって、家の用事と違いますよ。
彼女の塾が終わったけん逢いに行ったんですよ。

………

超星神

島村塾は、小学生、中学生、高校生を教えています。
中学生、高校生と進むにつれて彼氏、彼女がいる生徒は多くなります。
小学生は両思いかどうかまでで、彼氏と彼女というのは別次元の話らしいです。
うちの生徒でも小学生で彼氏、彼女がいるというのは、過去35年間でもごく僅かでした。

高校生は学校が終わると彼氏が彼女を自宅まで送ったりします。
中学生ではあまり聞かないです。
逆のパターン…彼女が彼氏を自宅まで送るというのも少ないみたいです。

この風習は、2人が同じ学校ならいいんですが、彼氏と彼女が違う学校だと大変です。

彼氏は家から4.8km離れた高校に通っていました。
彼氏は授業が終わると、自転車で5.2km離れた彼女の通う高校の近くの待ち合わせ場所まで行きます。
彼女と合流すると5.2km離れた彼女の自宅まで楽しくお話しながら1時間以上かけてゆっくり帰ります。
彼女の自宅まで送り届けたら、自分の自宅まで8.1kmを激チャ20分で帰ります。
※各距離は、グーグルマップで確認しました。

この『バリバリ送り伝説・ハーフマラソン』を聞いたことがある生徒は多いと思います。
この彼氏というのが我聞でした。

我聞の細マッチョは、1日23.3kmのサイクリングの賜物だったのかもしれません。
いや、マジで…。

君を笑顔にするために
必要な遠回りならば
僕は平気なフリをして
「しあわせ」と呼ぶんだ

『超星神グランセイザー』のエンディング曲、安倍麻美さんの『きみをつれていく』です。

超星神シリーズは、特撮テレビドラマの名作だと思います。
安倍麻美さんの『きみをつれていく』は名曲だと思います。

心にもないええ話で感動の涙を無駄に流させてくれた我聞ですが、十五が言うほどにはチャラくなくて、まじめに勉強するし、彼女のことが大好きないいヤツでした。

ところで島村塾は、小学生、中学生、高校生を教えています。
というのは先ほどもお話しました。
島村塾は、開いてる時間は、いつ来てもいい塾です。
学年や教科で教室や曜日を分けていませんから、高校生の横で小学生が勉強していることは珍しくありません。

小学生から見たら男子高校生は怖いみたいです。
女子高校生は歳が離れていても怖いという評価はないみたいです。
むしろ可愛いという評価を得ることもあります。

うちにいる男子高校生は中身は可愛いんですが、確かに部活やってる連中は日焼けしてて見た目は厳つくて怖いです。
本当は、そういう連中の方が、中身は可愛くていい奴です。

島村塾 怖すぎる世界ランキング歴代1位 は、20年位前の徳島市立高校サッカー部のキャプテンですが、本当は凄くいい奴で、小さい子供が大好きで一緒に遊んであげる優しいお兄さんでした。

詳しくは、竜起 をお読みください。

島村塾 怖すぎる世界ランキング現役1位は、城北高校テニス部の男子なんですが、絶対王者にはなれていません。
少なくとも私は、彼が絶対王者だとは認めていません。

島村塾 怖すぎる世界ランキング歴代1位は私の主観ですが、島村塾 怖すぎる世界ランキング現役1位は、島村塾の小学生に聞いた結果です。
中学生まで入れて聞く場合もあります。
これまでの現役1位は、だいたい満場一致でした。
ところが今年の 島村塾 怖すぎる世界ランキング現役1位は、他の候補者にも票が入りました。
票の割れる1位ではカリスマ性には不満が残ります。
もっと頑張ってほしいです。

さて…

中学生になると高校生は怖いという印象は薄くなります。
更に一部の男子高校生は中学生の女子からカッコいいという評価を得ることもあります。

長身、細マッチョ、小顔にサラサラヘアのなかなかのイケメンの我聞は、その幸運な男子高校生の1人でした。

勾玉

我聞でワーキャー言ってる中学生は4人いました。
だいたいこういうのは、誰か1人が言い出して、それに周囲が同調していきます。
我聞の場合もそうでした。
最初の一人が、このお話のもう一人の主人公です。
普通の女子中学生です。

名前は…
十五みたいに柔道が強いわけではないし、我聞みたいに長身、細マッチョのサラサラでもありません。
このお話で本名出すわけにもいかないし…

名前は…草薙浅黄…浅黄ちゃんとします。
平成ガメラ1…『ガメラ大怪獣空中決戦』で目覚めたガメラの背中で発見された勾玉を持つことでガメラと心を通わせるようになる女子高生です。
ハリウッド俳優のスティーヴン・セガールの娘さん、藤谷文子さんが演じました。

その女子中学生が藤谷文子さんに似ているとか、勾玉を持っているとか、ガメラと心を通わせているとか、そういうわけではありません。
単に思いついただけです。

ご存知の方もいるかもしれませんが、私はアニメや特撮が好きです。

初めて見た特撮映画は『大怪獣決闘ガメラ対バルゴン』だったと思います。
おばあちゃんに連れていってもらいました。
当時の映画は、同時上映といって2本か3本のセットで見られました。
『ガメラ対バルゴン』の同時上映は『大魔神』でした。

このとき観た『ガメラ対バルゴン』についてはあまり覚えていません。
『大魔神』の印象が強烈過ぎました。
映画館のスクリーンいっぱいに映る『大魔神』は正義の使者とか悪を懲らしめるとか関係ありませんでした。
私は小学1年生でしたから。
今なら、『大魔神』『大魔神怒る』『大魔神逆襲』の3本立てでも全然余裕で1人で観られます。

『大魔神』も特撮映画の名作なんですが、結局、私はガメラにはまりました。

私の好きな映画とかに興味のある人がいるんでしょうか?

今は全然映画館には行かなくなりましたが、昔は、月に2本か3本のペースで映画館に通ってました。
そんなに映画全般が好きってわけでもないんですが、テニスを教えてた生徒さんが映画のチケットをくれてたので、本当にジャンルに関係なく観てました。
今でも心に残ってるのは『モスクワは涙を信じない』です。

さて…

話を浅黄ちゃんに戻しましょう。

我聞でザワザワしていた中学生は4人いました。
4人は同じ中学でした。
1人は浅黄ちゃんです。
4人の中で浅黄ちゃんと仲が良くて、いつもよく一緒に行動している子がいました。
名前は…長峰真弓…真弓ちゃんとします。
平成ガメラ1…『ガメラ大怪獣空中決戦』で古代文明によって作られた生物兵器ギャオスを発見し、調査する鳥類学者です。
中山美穂さんの妹さんでアイドルで女優の中山忍さんが演じています。
こちらも別に中山忍さんに似てるとかではありません。
浅黄ちゃんの友達だから真弓ちゃんです。
映画の中で草薙浅黄と長峰真弓は友達ってわけではないんですけど。

ザワザワの中学生4人、浅黄ちゃんと真弓ちゃんの他の2人は、このお話には直接関わりません。
女子中学生Aと女子中学生Bでは味気ないですね。
ギャオスとレギオンにします。

浅黄ちゃん、真弓ちゃん、ギャオス、レギオンの4人は、我聞にワーキャー言ってました。
しばらくは楽しそうだったんですが、ギャオスとレギオンが飽きてきて離脱して、浅黄ちゃんと真弓ちゃんが残りました。
真弓ちゃんも飽きてきてる…っていうか、真弓ちゃんは最初っからそんなに乗り気ではなくて、浅黄ちゃんに付き合ってワーキャー言ってる感じでした。
暫くして真弓ちゃんもフェードアウトして、浅黄ちゃん1人が残りました。

Beer bar

浅黄ちゃんのワーキャーは、なかなか治まりませんでした。
浅黄ちゃんなりに真剣でした。

島村塾は中高生の恋愛を否定しません。
塾内恋愛も全然アリです。
勉強の邪魔にならない範囲でなら応援します。
島村塾で出会って幸せな結婚をした2人もいます。
詳しいことは、終らない幸せ をご覧ください。

他にも、
島村塾で勉強したおかげで、成績が急上昇しました。
島村塾で勉強したおかげで、志望校に合格できました。
島村塾で勉強したおかげで、嫌いな上司が左遷されました。
島村塾で勉強したおかげで、朝、起きれるようになりました。
島村塾で勉強したおかげで、肩の痛みがなくなりました。
島村塾で勉強したおかげで、新聞が老眼鏡なしで読めるようになりました。
などなど、島村塾に入塾された皆様から喜びのお便りをたくさん頂いています。
さらに特典がございます。
今、島村塾に入塾していただいた皆様にはもれなく、この『火球を吐くガメラマグカップ』と『羽レギオンデジタル温度計』をプレゼントいたします。

嘘です。

前にも使ったことがありますが、肩の痛みと老眼鏡は今回初登場です。
私のくだらない話は、私自身の経験をもとに成長しています。
今でも雑誌の裏にメッチャ怪しいパワーストーンとかの開運お守りの通販とかってあるんでしょうか?

さて…

島村塾は中高生の恋愛を否定しません。
塾内恋愛も全然アリです。
全然アリなんですが、我聞には『激チャ・ハーフマラソン』の彼女がいるから、浅黄ちゃんは難しいだろうなと思っていました。
まあ、そうでなくても高校生と中学生は難しいみたいです。

真弓ちゃんはワーキャーは完全に卒業しました。
これからは応援キャラでいくことにしたみたいです。
いい選択だと思います。

ところで、島村塾は午後4時半から午後11時まで開いています。
昔は午後6時から午後9時だったことをご存知の方は少ないでしょう。
元々は高校生だけの塾だったんです。
学年が上がるほど教えるのが楽になります。
前に務めていた明峰塾でも高校生を中心に教えていました。
それがうちに来ている高校生の弟や妹が入りたいというので対象を広げました。
それで小学生や学校帰りに勉強したい生徒のために午後6時開講から午後4時半開講になりました。
それから部活が長引く生徒のために午後9時終了から午後11時終了になりました。
結局、午後4時半から午後11時まで頑張る働き者になりました。

昔は1日3時間働いて、残りの時間は遊んで暮らす優雅な暮らしでした。
余った時間でプログラムを書いて売ってました。
それが本業になるはずでした。
詳しいことは、TAOs WordBook をご覧ください。
なんか意味なく『詳しいことは』が続きますが、本当に意味はありません。

今は授業が終って後片付けをしてると日付が変わってますが、当時は、授業が終ってから夜のお散歩も楽しめました。

缶ビール飲みながら人通りの少ないアーケードを歩くのがお気に入りでした。
今はお酒をほとんど飲みません。
当時もそんなには飲みませんでしたが、お散歩ビールは楽しみでした。

ある夜、アーケードを抜けて銀座を缶ビール散歩してると、1人の外人さんに声をかけられました。

外人さんは聞きました。
"Where is the beer bar?"
ビールバーはどこにありますか?

私は缶ビールを掲げながら答えました。
"Beer bar? Here is."
ビールバー?ここですよ。

外人さんは大きく両手を広げて笑いました。
"Ha,ha,ha!"

知らない外人さんとハイタッチしたのは生まれて初めてでした。
もう二度とないと思います。

どうして私の話は逸れるのか…

当時、ほぼ毎週、授業の後で行くお気に入りの店がありました。

きれいだ!

ほぼ毎週行ってたお気に入りの店は、レンタルビデオ屋さんです。

塾から自転車で7分くらいのところにありました。
ツタヤとかキングスロードみたいなチェーン店ではなかったと記憶しています。
私の怪獣映画やアニメの知識の大部分は、ここで培われました。
平成ガメラやゴジラ平成VSシリーズなどの怪獣映画の新作は人気があって、借りるのに随分と待たされました。
そういう時は、昭和のガメラやゴジラを借りて我慢してました。
『大魔神』は借りたことがなかったです。
念のために言っときますが、怖かったからではありません。
他にもっと観たい映画があっただけです。

今なら、『大魔神』『大魔神怒る』『大魔神逆襲』の3本立てでも全然余裕で夜中に1人で観られます。

我聞の家は、レンタルビデオ屋さんの近くにありました。
それから浅黄ちゃんの家も近かったです。

ある日、いつものようにレンタルビデオ屋さんに行くと、浅黄ちゃんが1人でいました。
そのレンタルビデオ店にはゲームコーナーがありました。
100円玉とか50円玉とかを入れてやるゲーム機が並んでいました。
当時は、ストリートファイターⅡとかバーチャファイターが全盛の頃だったと思います。
格闘ゲームはやらないのでよく分りません。

昔、学生の頃、大学の近く、雑居ビルの2階に『レインボー』ってスナックがあって、テニス部の男子がよく集まってました。

きれいだ!

若手芸人の登竜門『おもしろ荘2018』で優勝してブレイクしたレインボーのコントのセリフです。
レインボーって書いたら続けて書きたくなっただけです。
スナックの名前が『ブルゾン』だったら「35億」って書いてたと思います。
このお話には特に関係ありません。
女子中学生と男子高校生のお話ですから、狙ったのかと問われれば、うなずくしかありません。

昔、ツービートのビートきよしさん、紳助・竜介の松本竜介さん、B&Bの島田洋八さん…漫才でうなずくだけのツッコミの人…今で言う『じゃない方』の3人で結成した『うなずきトリオ』が『うなずきマーチ』という曲を出して話題になったことがあります。
なんと作詞作曲は大瀧詠一さんでした。

さて…

私はたまにしか行きませんでしたが、同級生は入り浸ってました。
付き合いが悪くて友達少ないのは、その頃から変わっていません。
今は友達少ないんじゃなくて、友達いません。
もともと友達少ない上に、昼間働いて夜寝る堅気の方たちとは逆の夜の世界の住人ですから、時間が合わないんです。
気楽だから私は気にしてません。
っていうか、気に入ってます。

『レインボー』は入ってすぐにカウンターがあって、奥のソファーのテーブルがブロック崩しのゲーム機でした。
ゲーム大好きの私ですが、ブロック崩しにははまりませんでした。
その後に来たインベーダーゲームにははまりました。
それからギャラガとかヘッドオンとか…私のゲーム人生はインベーダーゲームから始まりました。

以上、大魔神もガメラもびっくりの誰も興味のない昔話でした。
わざとじゃないんですよ。
思いついたら書いてしまうだけなんです。

さて…

浅黄ちゃんは、ゲームコーナーの入り口から中の様子を窺っていました。
私は浅黄ちゃんに声をかけました。

浅黄ちゃん?

人間、本当に驚くすると、その場で垂直に飛び上がります。
浅黄ちゃんはレンタルビデオ店の天井で頭を打ってうずくまりました。
そういえば浅黄ちゃんはバスケ部の選手でした。

嘘です。
バスケ部は本当です。

あ、先生!
浅黄ちゃんは私を見ると小声で叫んで口に指を当ててシーって…

浅黄ちゃんのあまりに真剣な表情に私も小声で聞きました。
なんしよん?

浅黄ちゃんも小声で応えます。
なんでもないです。

ゲームコーナーを見ると我聞が座って何かのゲームをしています。
浅黄ちゃんの熱視線には気がついてないようでした。

あんまり遅うなられんよ。
浅黄ちゃんと一緒に我聞を眺めているのは違うと思ったので、私は、その場を離れました。
怪獣映画の新作が借りられていないか、心配だったわけではありません。

このゲームコーナーの出待ちに気づいていたかどうかは分りませんが、浅黄ちゃんがここまでアグレッシブになると、さすがに我聞も気がついていたと思います。
周りも気づいていたでしょう。
でもまあ中学生と高校生だし、何かありそうな感じもありませんでした。
ワーキャーの延長、今で言うと『推し活』みたいな感じです。

穏やかで平和な日々は、ゆっくりと過ぎていました。

そして事件は起きました。

小さくまとまるなよ。

今、島村塾は1階と2階に1部屋ずつ、2つの教室があります。
以前は、2階は使っていませんでした。
1階に2つの教室がありました。
Lucky Shot は、その頃…1階に2つの教室があった頃のお話です。

当時は、教室の真ん中に長机2つくっつけて4人が食卓を囲むような感じで座って勉強していました。
島村塾の教室のコンセプトは、お母さんが料理の準備をしている台所の食卓で勉強する子供です。

さて…

島村塾はいつ来てもいいし、いつまでいてもいい塾です。
平日は午後4時半から午後11時、土曜日は午後2時から午後11時の間、生徒たちは自由に来て勉強しています。
だから生徒が少ない日は本当に少ないです。
雨が降ったとか、定期テスト明けとか、四国電力 橘発電所にガメラが飛来したとか、生徒が2人とか3人の日は普通にあります。
逆に定期テスト前は、生徒が多くなります。
島村塾は、徳島市周辺のいくつかの高校といくつかの中学の生徒が来ています。
つまり、いろんな学校の生徒が来ています。
中間テストは日程的に割れることが多いです。
だから中間テスト前に教室が満杯になることはそんなにありません。
恐ろしいのは学年末テストです。
高校は高校で、中学は中学で結構重なります。
今は、席を増やしていますから大丈夫なんですが、以前は、ドキドキしてました。
何とか満席御礼になったことはないです。

2学期の中間テスト前だったと思います。
程よく席が埋まっていました。
4人で座る席に浅黄ちゃんと真弓ちゃんが並んで座ってて、その正面には十五が座っています。
今回の主な登場人物のうち、我聞以外の3人が1つの机を囲んでいました。
ギャオスとレギオンはいなかったと思います。

我聞は十五と仲がよくて、いつも一緒に勉強しています。
その日も十五が座っていたら、我聞が隣に来るのは確実です。
それは浅黄ちゃんの前の席です。
真弓ちゃんはもちろん、十五も浅黄ちゃんが我聞推しなのは知っていました。

真弓ちゃんも十五も浅黄ちゃんを励まします。

やったなぁ。
頑張りよ。
チャンス!
小さくまとまるなよ。

最後のは、ドラマ『チャンス!』で主演の三上博史さん演じるロックミュージシャン、本城裕二のキメ台詞です。
あまりのチャンスに私の心も浮かれます。

浅黄ちゃんは、ニコニコしながらうなずきます。
浅黄ちゃんの可愛さが25%くらい上昇しています。
ここが勝負どころだと分っているんでしょう。

生徒の質問が途切れたところで、私は休憩で自分の部屋に戻りました。

10分ほどして教室に戻ると明るい空気は一変していました。

25%アップの浅黄ちゃんがいません。
真弓ちゃんは呆然としています。
十五は何かを忘れるかのように勉強しています。
他の生徒たちもドンヨリしています。

本城裕二はもういません。

私は残っている2人に何があったのか聞いて理解しました。

私が自分の部屋にいる間に我聞が教室に来たそうです。
そして入り口から教室の中を見渡して、十五の前に真弓ちゃんと浅黄ちゃんがいるのを確認すると出ていったそうです。
浅黄ちゃんは少しの間うつむいて黙っていましたが、荷物をまとめて1人で帰ってしまったそうです。
真弓ちゃんのノートには、帰る前に浅黄ちゃんが書いた文字が残っていました。

きらわれた

姉さん、事件です。

事件は現場で起きてるんじゃない!
教室で起きてるんだ!

そんなこと言ってる場合じゃなくて…

私は、25%アップのフラグに気がつかなかった自分を呪いました。

それから真弓ちゃんに頼んで、浅黄ちゃんに連絡してもらいました。

当時はラインとかなくて、っていうかスマホはありませんでした。
ガラケーもありませんでした。
携帯電話ではなく自動車電話とか移動電話…平野ノラさんのネタで出てくる、シモシモのアレはありました。
でも高くて、私達庶民の手は届かなくて、企業の社長さんとかじゃないと持てませんでした。

島村塾を開いた頃、生徒の親御さんに頼まれてパソコン教室をやってたんですが、パソコン教室の生徒さんの1人が、地元企業の社長さんでした。
その人は、パソコンの勉強をするというより、パソコンでやる会社の仕事で分らないことを私がサポートするみたいな感じでした。
その社長さんが移動電話を持ってたんですが、保証金20万円って言ってました。
基本料金もめっちゃ高かったと思います。

Lucky Shot は、パソコン教室から少し後の話ですが、まだ携帯電話は高かったです。

若い子はピッチ…PHSを使っていました。
今の携帯電話…ガラケーに似ていますが、車とか電車に乗ってると切れて使えないとか、田舎は電波が届かないとか制約はありましたが、安くて庶民の味方でした。

私もPHSを使っていましたが、私の番号では出てくれないかもしれません。
真弓ちゃんに頼んで浅黄ちゃんに連絡してもらいました。
とりあえず浅黄ちゃんが冷静で安全なのは確認できました。

寸劇と情熱のあいだ

真弓ちゃんと協議の結果、浅黄ちゃんが大丈夫なら、そっとしておこうということになりました。
真弓ちゃんは勉強を続けることにして、私は隣の教室に行きました。

そして我聞を見つけました。

見つけたっていうか、普通に勉強していました。

我聞は隣の部屋の騒動には全く気がついていませんでした。
コンタクトを外しててメガネもかけてなかったので、部屋の奥の方にいる十五に気がつかなかったそうです。
隣の部屋に十五がおるよって言ったら、じゃあ行きますって、さっさと十五の隣に行きました。
我聞の前には浅黄ちゃんの座っていた空席があります。

十五、我聞、真弓ちゃんの3人で、浅黄ちゃんの席に誰かが座ったって記憶はありませんが、誰か後から座ったかもしれません。
事情を知らない中1男子が座ったような気もします。

それからいつも通り勉強して終わることにしました。
塾には十五、我聞、真弓ちゃんの3人以外には残っていなかったと思います。

生徒が帰るときは、私はできるだけ自転車置き場まで出てお見送りすることにしています。

島村塾は教室だけで控え室みたいなのはありません。
教室には他の生徒もいて、進路とか成績とか内緒の話もできないし、教室では緊張して話せない子もいます。
だから他の生徒を教えているとき以外は、帰る生徒を自転車置き場までお見送りして、ちょっとした内緒話をすることがあります。

十五、我聞、真弓ちゃんの3人と一緒に自転車置き場に出ました。

我聞に聞きます。
浅黄ちゃんが我聞のこと好きなんは知っとったん?

我聞
知りませんでした。


(バカじゃん)
どうするん?

我聞
先生、僕は高3です。
卒業したら大阪の大学で経営について勉強するつもりです。
今は、受験で頭がいっぱいで、浅黄ちゃんの気持ちは本当に嬉しいんですが、高校の間は、そういうことは考えられません。

こういうときの我聞は、真顔で私の目を見ながら真剣に話します。
知らない人間が聞いたら、我聞は物凄く真面目な奴だと思ってしまうでしょう。
私も入塾の面接でやられました。


そうやなあ。
可哀想やけど、浅黄ちゃんにはあきらめてもらうしかないなあ。

我聞
はい。
すみません。
先生から、言ってあげてください。

最後まで真面目で誠実な好青年を演じてやがります。
我聞がたち悪いのは、言ってることは間違ってなくて、否定するとこちらが悪者になるというトラップが仕込まれていることです。
結局、私も安っすい寸劇に付き合うしかありませんでした。

十五も笑いを堪えて、楽しそうに寸劇に参加します。
俺は気がついとったよ。
ほなけんど俺ら受験生やけん、どうしようもないでえなあ。

神様、この2人が、これから家に帰るまでに自転車で5回こけさせてください。

我聞初心者の真弓ちゃんは、黙って聴いていました。
我聞さんって、マジメで優しくてステキ!ってなってたと思います。

真弓ちゃんに、我聞の激チャハーフマラソンを教えてあげたかったです。

翌日、何事もなかったかのように浅黄ちゃんと真弓ちゃんは塾に来ました。
浅黄ちゃんは、いつもと何も変わらないように見えました。
浅黄ちゃんが普通ならそっとしておいた方がいいです。
その日は、何事もなく過ぎていきました。

真弓ちゃんが1人になったときに聞きました。


浅黄ちゃん、大丈夫なん?

真弓ちゃん
はい。
浅黄ちゃん、あの時、塾の前の駐車場に隠れてたんです。
それで我聞さんの話を聞いてたんです。
我聞さんが将来のために頑張っているのがよく分ったから、我聞さんの迷惑にならないように、諦めて自分も頑張るそうです。
我聞さんには受験、頑張ってほしいそうです。

なんという幸運。
まさに lucky shot …まぐれ当たりです。
あのとき、変にツッコんだりせずに、くだらない、安っすい寸劇につきあった私と十五を褒めてあげたいです。

当時はインスタグラムはありませんでした。
もしインスタがあったら、多分、我聞に彼女がいることもばれていたでしょう。
そしたらあの寸劇は不発に終わるところでした。
もし彼女がいることを知っていたら、浅黄ちゃんがここまで盛り上がったかは分りません。

さて…

裏は表のことを知っている。
しかし表は裏のことを知らない。

我聞と十五と私は、このことを知っています。
でも浅黄ちゃんと真弓ちゃんは、このことを知りません。
今も知らないと思います。
これを読まなければ、我聞さんはマジメで優しくてカッコいいお兄さんのままです。

浅黄ちゃんに、同級生の彼氏ができたのは、それから2ヵ月後のことでした。

このお話は以上です。

ちなみに、まったく盛っていません。

本当です。
私は嘘は言いません。
『大魔神』『大魔神怒る』『大魔神逆襲』の3本立てでも全然余裕で1人で観られます。
夜中でも大丈夫です。
ま、夜中はちょっと無理かもしれませんが、昼間なら全然大丈夫です。

さて…

さらっと書いて終わらせるつもりが、思いがけず長話になってしまいました。
高校総体の写真を整理している途中で、中学総体が始まって、急がないといけないときに、妙なことを始めてしまいました。
それで最後は大急ぎで書き上げてしまいました。
誰も得しない、締め切りも何もない雑談を大急ぎで仕上げる…まあ、世の中、全てのことに意味があるわけではないです。

忙しくてやったらあかんときには、やったらあかんことをやりたくなります。
期末試験前に部屋の片づけを始めるようなもんです。
そういうわけで、高校総体の写真は、少し遅れます。

終わりです。