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盂蘭盆 彼岸と此岸の重なる日

 小噺です(ホラー風味)。

 みんなは肝試ししたことある??

 ボクはしたことあるよ。


 お盆、親類の人たちと田舎に帰ったんだけどね。

 そこは漁師町で、泊まった家の前は林と海がずうっと広がっていたよ。昔は時代劇のロケにもよく使われていたというだけあって、本当に風情のある光景だった。

 家の裏のほうに行くと、駅があって、線路を渡ったら、そこからやっと民家が並ぶ町になる。

 法事が終わって、夜は客間で寝るんだけど、いつもと環境が違うからなかなか寝付けないんだよね。

 ボクと同じでお盆で帰ってきていた子で、同じように寝付けない子がいたから、一緒に布団を抜け出したんだ。

 深夜に出歩くんだから肝試しというよりただの夜遊びかもしれないけどね(笑)。

 とりあえず防風林の中を黙々と歩いていたんだけど、途中でトイレに行きたくなったんだよ。

 それで、昼間に出歩いたときに、防風林沿いに野外ステージのようなものがあって、そこにトイレもあったことを思い出した。

 ちなみに昼間は、トイレは外から建物を見ただけで、入っていないよ。

 その野外ステージのところまで、とりあえず二人で歩いて行った。

 野外ステージもあったしトイレもあった。

 電気が消えていたから、スイッチを探して押したんだけど、女子トイレのほうのスイッチだったんだ。

 入口に扉がついていなかったから、中が見えたんだけど、びっくりしたよ。

 女子トイレは、個室が五つ、洗面台も複数あったんだけど……

 洗面台のガラスが全部はがされていた。

 それだけでもちょっと気味が悪いのに、個室はもっとひどかった。

 扉が全部しまっていて、何か違和感を覚えたから、近づいて扉を押したんだけど、開かないんだよ。

 鍵を見たら、「赤」になっていたから、人が入っているってことなんだけど……

 深夜の二時を過ぎた時間だよ?

 まあ、それを言ったら、ボクたちも同じだよね(笑)。

 異常なのは、一番目のトイレから、五番目のトイレまで、全部! 全部鍵がかかっているんだよ。

 上から中をのぞいたわけじゃないから断言はできないけど、まったく気配も物音もしなかったからね。

 誰も入っていなかったと思うよ。

 あんまりにも気味が悪かったから、そこのトイレで用を足すのはやめたんだ。

 林の中を歩くのはやめて、駅のほうに行くことにした。

 駅のトイレは近代化していて綺麗だったから。

 それでずっと引き返して、無事駅まで行って用を足したんだ。

 それから、次は線路の向こうの町のほうを歩いてみようってことになって、再び歩き出した。

 周囲はアマガエルの鳴き声と、ボクたちの足音以外は何も聞こえない。

 当たり前だけど、民家はどこも電気が消えていたし、田舎だから街灯も少なくてほとんど真っ暗だった。

 そんな中で、たまに目につくのが灯篭。お盆だから、灯篭がたまにつるされていて、真っ暗な家の中からその不思議な明かりがこぼれおちていた。

 そんな中を歩いていたら、気がつくとアマガエルの鳴き声がなくなっていた。

 代わりに聞こえ始めたのが、お経。

 低い声で、延々とお経が読み上げられ、だんだんとその声が大きくなっていく。

 あんなにうるさかったアマガエルの声もしない。

 さすがに怖すぎて引き返して布団にもぐったよ。

 それまでもドキッとする体験はしたことがあるけど、これが一番怖かったな~。

 お盆だからお経のCDでも夜通しかけていたのかも・・・と思っているけどね(笑)。


 そんな、お盆の思い出でした。


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