見出し画像

腹15分目の炊き込みごはん

歴史ある小さな温泉街に佇む、
料理が人気の温泉旅館に行ったときのこと。

夕食の机の上には、黒毛和牛の鉄板焼き、
松茸入り秋の小鍋など贅沢なお料理もあれば、
季節の八寸や揚げ物など、手間暇かけた逸品も。

所狭しと色とりどりのお料理が広がります。


久しぶりにお目にかかるハレのお料理に、気分は舞いあがります。


ひとくちひとくち味わいながら、
素材の美味しさを、季節感を、お出汁の旨みを満喫。


「ふぅ。お腹いっぱい!」


まだごはんと水ものを残して、すでにお腹は12分目。


(もう食べられないかも…)

と、心配しているところに、ごはんと赤だしが運ばれてきました。

画像1


お出汁の優しい香りを漂わせてやってきたのは
栗ときのこを使った秋の炊き込みごはん。

食欲をそそる香りに誘われてひとくち食べてみたら、なんと美味しいこと!


栗としめじ、人参、油揚げといたってシンプルな具材なのに、底知れず深みのある旨み。

そして時折り顔を出すおこげの香ばしさ。

あまりの美味しさに無我夢中で食べ進み、あっという間に完食しました。


もちろん、水ものまでしっかりいただいて
お腹は破裂寸前の15分目。


それでもまだ、あの炊き込みごはんが食べたくなるほど、虜になってしまいました。


旅館の方が「今日はおかわりする人が少なくて余ってるから、食べれたらおかわりしてね!」

と声をかけてくれるからなおのこと。


食べたいのに食べられない悔しさ。

炊き込みごはんに後ろ髪を引かれながら、ゆっくりと席を立ちました。


「おかわりはできなかったけど、炊き込みごはんが美味しかったことをちゃんと伝えよう)
と思い、旅館の方にお話したところ…

「ちょっと待ってて!」と慌ただしく奥へ行ってしまいました。


しばらくしてやってきたその人の手には、
大きな炊き込みごはんのおにぎりが2つも。


「夜食にでも食べて。」


そう言って、アツアツのおにぎりを渡してくれました。


その人の気遣いと、魔法のように美味しい炊き込みごはんに、心がほっこり温まりました。


大切な人に接するような、心遣いの行き届いた接客のおかげで、つかの間の温泉旅行を心地よく過ごすことができました。