8月15日/ポスト量子暗号化に向けた移行が本格化:ホワイトハウスの指示と世界的な対応





量子コンピューターの急速な発展がサイバーセキュリティの世界において新たな課題を提起している中、ホワイトハウスは国家安全保障覚書(NSM-8)を通じて、ポスト量子暗号化への移行を強く促しています。これにより、企業や政府機関は、今後数年以内に迫る量子コンピューターによるサイバー攻撃の脅威に備えるため、暗号化技術の見直しと強化を開始しています。


量子コンピューターは、現在の古典的なコンピューターとは異なり、量子ビット(qubit)を使用することで同時に複数の計算を行うことができます。これにより、従来の暗号化技術が依拠する数学的問題(例えば、大きな素因数分解や離散対数問題)が、量子コンピューターによって瞬時に解かれる可能性があります。現在広く使われているRSAやECDSAといった暗号化手法は、量子コンピューターの出現によって破られるリスクが高まっています。

特に懸念されているのが、「ハーベスト・ナウ、デクリプト・レイター(Harvest Now, Decrypt Later)」と呼ばれる戦略です。これは、現時点で暗号化されたデータを蓄積し、将来量子コンピューターが登場した際にそれらを解読するというものです。このシナリオが現実のものとなれば、個人のプライバシーや企業の機密情報、さらには国家機密までもが容易に侵害される可能性があります。

ホワイトハウスのNSM-8による影響

ホワイトハウスが発表したNSM-8は、このような量子コンピューターによる脅威を未然に防ぐための戦略の一環です。NSM-8では、連邦機関と民間企業がポスト量子暗号への迅速な移行を求められています。具体的には、現在使用している暗号技術を棚卸しし、どの部分が量子コンピューターに対して脆弱であるかを特定し、次世代の暗号化技術への移行計画を策定することが求められています。

移行プロセスは一夜にして完了するものではありません。まず、企業や機関は現在使用している暗号化技術の徹底的な見直しを行い、新たな標準への移行に備える必要があります。これには、既存システムとの互換性を保ちながら、新しいポスト量子暗号化アルゴリズムを導入するための適切なツールと技術が必要です。また、移行中に発生するセキュリティの空白を最小限に抑えるため、厳密なテストと段階的な導入が必須となります。


NISTのポスト量子暗号化標準

米国標準技術研究所(NIST)は、2016年からポスト量子暗号化の標準化プロジェクトを進めており、2024年に初のポスト量子暗号化標準を発表しました。この標準には、量子コンピューターによる解読に耐えうる3つのアルゴリズムが含まれています。それぞれ、鍵共有(Key Agreement)やデジタル署名に利用され、通信の機密性とデータの完全性を維持します。

FIPS 203(Kyberに基づく)は、公開鍵交換プロトコルの新しい標準として登場し、従来のディフィー・ヘルマン法に取って代わるものです。このアルゴリズムは、比較的大きな公開鍵と暗号文を使用しながらも、高速なパフォーマンスを実現しています。

FIPS 204(Dilithiumに基づく)は、電子署名に使用され、現在広く使われているECDSAやRSAに比べて署名の検証が迅速である一方で、署名サイズが大きくなる特徴があります。

FIPS 205(SHA-2やSHA-3に基づく)は、特にファームウェアのアップデートなどで迅速な署名検証が求められる場面で威力を発揮します。公開鍵が非常に小さい一方で、署名サイズが大きくなる傾向があります。


企業と政府機関の対応

ホワイトハウスの指示を受け、GoogleやApple、IBMなどの大手テクノロジー企業は、ポスト量子暗号化アルゴリズムの導入を加速させています。これらの企業は既に新しい標準を自社システムに組み込んでおり、量子コンピューターがもたらす脅威に備えています。

また、各企業は暗号化の棚卸しと評価を進めるために、暗号化管理の自動化ソリューションを導入しています。このプロセスは、ランサムウェア攻撃のリスクを低減し、システムの停止を最小限に抑えつつ、シームレスな移行を実現するために重要です。


ポスト量子時代への準備

量子コンピューターが本格的に普及するまでにはまだ時間があるとされていますが、その到来は確実に近づいています。量子コンピューターが現在の暗号化システムを突破する日が来た時、準備が整っていなければ、私たちのデジタル社会は深刻な危機に直面することになるでしょう。

そのため、政府と民間セクターは今、未来に備えて動き始めています。量子コンピューター時代を迎えるにあたり、ポスト量子暗号化技術の早期導入が私たちのセキュリティを守る鍵となるのです。

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