とある地方都市の外れにて #01 爺さんの寝込みを襲ったもの

私が中学生の頃だったと記憶している。
ばあちゃんが認知症(当時はまだ痴呆症と言われてた)を患ったこともあり、爺さん達と同居を始めた。

爺さんは酒と煙草と女の問題を除けばまぁ特に人畜無害な存在であったのだが、たまに夜中に絶叫することがあった。
年寄りと言うこともあり、何かあったのかと駆けつけてみると、何事もなかったかのようにグッスリおねんねしている。
起こされた方は腹立たしいが、死なれるよりマシなので軽く舌打ちして自室に引っ込む、というのか常であった。

ところがある日のこと。
いつもの絶叫に加え、窓ガラスを激しく叩く音がした。
うっすら明るかった記憶があるから、もう明け方近かったのかもしれない。

駆けつけた家の者は皆驚愕した。
爺さんの二の腕から流血していたのである。

興奮しまくった当人は相変わらず窓の外に向かって吼えている。

宥めようとする家族にまで襲いかかろうとするものだから手に負えない。

恐る恐る声をかけつつ、遠巻きに見守ること数分、ようやく爺さんは落ち着きを取り戻し、ポツリと呟いた。

『わっぜぇかもん(とんでもないもの)が窓の外から来て、腕をガブーっとやって、すぅーっと出て行った。』

驚いて窓を見たが、しっかりと閉じて鍵までかかっている。
一階に寝ているのだ。当然である。

訝しがる家人をよそに、爺さんは『わっぜぇかもんが…』と譫言のように繰り返している。

わっぜぇかもんの件は怪しいが、こうしている間にも傷口からは鮮血が滴ってもうすぐ敷布団に落ちそうだ。

一体何をどうすればここまでの傷がつくのだろうか。

爺さんの寝込みを襲ったわっぜぇかもんの正体は分からない。

ただ、爺さんの下唇が異様に腫れ上がっていたのが腕の傷と同じくらい気になった。

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