叡智の守護龍
老魔術師「ほぅ、あの話にそんな顛末があったとはのう。お前さんは本当に何でも知っとるんじゃのう。さすがは『叡智の守護龍』と言われるだけの事はある。
龍「それは人がつけた名よ。我は世界の記憶を受け継ぐ者ではあるが、知っておるというだけよ。知識はそれのみでは叡智に在らず。」
老魔術師「然りよな。さてさて、つい話が横道に逸れたがな、儂がお前さんに会いに来たのは、昨今流行っとる疫病のことなんじゃ。300年前にも良く似た疫病の流行った事があったじゃろう?その時の事を教えて欲しくてな。」
龍「流行病は押し寄せる波の様に全てを押し流す。300年前もそうだった。人々は次々となすすべもなく倒れ、多くの村や街、国が滅びた。結局疫病が引潮の様に去るまで10年はかかったかのう。」
老魔術「本当になすすべが無かったのかの?疫病に打ち勝った『エフタル』という国があったと伝え聞くが?」
龍「ふむ、かの国は確かに疫病には打ち勝ったな...。だがその事で『邪法』を用いる国として、周り中の国から攻められてな。かの国はその全てを焼き尽くされ、最も最初に滅ぼされたのじゃ。」
老魔術「『エフタル』で何が行われたのか記録がまるで残っておらんのじゃ...。お前さんの言う『邪法』とされたものが何じゃったのかも皆目わからん。それでお前さんにお出まし願ったというわけじゃ。」
龍「簡単に言えばな、大魔術師であった『エフタル』の王は疫病の最初の頃に偶然生き残った者を調べ、人が一度かかった病にはかかりにくなるという仮説をたてたのじゃ。そこで疫病にそっくりじゃが遥かに弱い病を魔法であえて国中にばら撒いた。そして数ヶ月で『エフタル』で疫病で命を落とす者はいなくなったのだが...。」
老魔術師「それは...また...、思いきった事をしたものじゃのう...。」
龍「なぜ滅ぼされたか分かったじゃろう?」
老魔術師「そもそもの疫病の元凶と思われても言い逃れ出来んな。」
龍「左様。かくて『エフタル』はごくわずかな伝説しか残らぬまでに焼き尽くされたのじゃ。」
老魔術「うーむ....。しかし、王のやった事の効果はあったのじゃな?」
龍「本当のところは私にも分からぬよ。ただ『エフタル』で疫病で死ぬものが殆んどいなくなったのは事実じゃ。必要なら王の魔法がどんなものだったか更に仔細な話も出来るが?」
老魔術師「うむむ...。」
龍「どうした?」
老魔術師「知りたい...、知りたいが迷うておる。聞けば儂は試さずにはおれなくなるやも知れぬ...。」
龍「それを知るためにここまでやってきたのでは無いのか?」
老魔術「然り...、されど儂は恐しい。恐しいのだ。有望ではあっても確実とは言えぬ。それでも試さずにはおれなくなるだろう儂自身がな。龍よ其方はどう思う?」
龍「それに答える事は出来ぬ。我は世界の記憶の全てを蓄える器ではある。だが、我が知識を得た者が何を成し、何を為さざるかは我に与えられた領分を超えておる。それを決めるのは其方次第よ。」
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