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『個性躍動』22年W杯欧州予選 Group.A~セルビアvsルクセンブルク~

 皆さん、こんにちは。シルジャベです。本企画も早いもので、3試合目の投稿になりました。まだまだ先は長いですが、これからもご愛顧を賜りたく存じます。
 今回の対戦、私はルクセンブルクの躍進に期待しており緊張感を持って見守りました。そういった心の機微もお伝えできれば幸いです。

【両チームのラインナップ】

セルビア×ルクセンブルクスタメン

 まずはホームのセルビアから見ていきましょう。各種サイトや現地放送での陣形予想は3-4-3でしたが、20番ミリンコヴィッチ・サヴィッチ(以下サヴィッチ)(長い)が左WGに入っていたため試合を見るまでは読みにくい形だったかと思います。結論から先に述べますと、サヴィッチがトップ下に入る4-2-3-1(上記の形)でした。サヴィッチ以下ミトロヴィッチタディッチコスティッチと世界的にも名前が知れたアタッカーが揃っており、前線の破壊力には期待が持てます。
 続きましてアウェイのルクセンブルク。中2日で迎えたこの試合、スタメンは1人だけの変更となりました。中盤を務めていた15番オリヴィエ・ティルが控えになり、CB予想で2番チャノットが代わりに入ります。こちらは4バック予想ですが、左SBのカールソンは前の試合でCBを担当していた選手です。したがいまして、今日も可変フォーメーションを活かす狙いがあるように思われます。結果としては、3バックが基調となる上記の陣形でした。

【試合前雑感】

 それでは、ここで各種状況の整理と試合前の見どころについて押さえておきましょう。グループAですが、試合前の時点でセルビアが2勝1分の勝ち点7で2位、ルクセンブルクが2勝1敗の勝ち点6で3位という状況でした。ルクセンブルクにとっては、目の上にいるライバルを食う最高のチャンスです。ただ、相手は強国セルビアでしかもセルビアの主催試合。日程面でも、両国は同じく中2日ではあるもののセルビアは親善試合をカタールと行ったに過ぎず、ある程度のメンバーチェンジを施していました。この不利要素たちをルクセンブルクがどのように跳ね返すのかが焦点でした。また、セルビアを相手に自分たちがどれだけボールを保持できるのかも肝になってくるでしょう。自慢の可変保持も、ボールを取り上げられてしまえば厳しい戦いが予想されます。

【前半】

 それでは試合内容に移って参ります。セルビアが立ち上がりからボールを握るスタートとなりました。守勢に回るルクセンブルクは、5-3-2の陣形でセルビアを迎え討ちます。ルクセンブルクは時折前の5枚でアンカーを囲む5-2-1-2のような形になりながら、ミドルブロックを組みます。セルビアの前進を許した際にはラインを低くして撤退し、自陣ペナルティエリア付近のスペースを埋めようと試みます。
 試合開始から10分少々、早くもルクセンブルクの問題点が露呈し始めます。アウェイでの強豪戦ということもあり、恐らくはまず慎重に入ったであろうルクセンブルク。まず1つに、前進手段がほとんどなかった点が挙げられます。自陣深い位置でボールを回収できたとしても、セルビアの果敢な即時奪回に手を焼く場面が多かったです。頼みの綱であるエースのジェルソン・ロドリゲス(以下ロドリゲス)まで良い形でボールが渡ることシーンが全くなかった前半でした。ただでさえ個人の技量ではセルビアが上回っている中、ルクセンブルクが慌てていっぱいいっぱいになってしまっては大変です。次にもう1つの問題点なのですが、守備時に著しくボールウォッチャーになってしまう点です。開始早々から、失点にこそならなかったもののゴール前でのマークが不十分なシーンが散見されました。セルビアの中央に構えるのは、なんだかんだで良い選手のミトロヴィッチです。易々と逃がして黙ってくれるような選手ではありません。私はこの点が非常に心配でした。
 そして迎えた22分、ついに均衡を破られてしまいました。中央をスルスルと駆け上がったサヴィッチがエリア手前のタディッチと縦関係のワンツーでパス交換。返ってきたボールをダイレクトでルクセンブルク最終ラインの裏にスルーパス。抜け出したのは、ミトロヴィッチでした。ルクセンブルクGKモリスとの1対1をあっさりと制し、セルビアが先制に成功します。
 はっきりと申し上げますと、失点は時間の問題でありました(大本営発表)。何度もサイドを深く抉られ、その度に中央のマークが曖昧でした。失点シーンこそ防ぎにくい個人技術の爆発でしたが、ビハインドという展開そのもの自体は至極妥当だったように思えます。
 さて、ここまでルクセンブルクに視点が偏ってしまいました。そこで、セルビア側の戦いに目を移して参りましょう。4バックが基調のセルビアでしたが、ボランチの2人が大いに最終ラインをサポートする面白い仕組みを採用していました。8番グデリはCB並の頻度で最終ラインに降りていましたし、16番ルキッチもそれに近い動きです。それに伴い、CBの4番ミレンコヴィッチがサイドや中央で高い位置を取る変則的な動きも取り入れていました。前節ではルクセンブルクが多彩な可変陣形を用いて相手を撹乱していましたが、今度はセルビアの柔軟な陣形変化に苦しめられた印象です。自由な立ち位置は前線でも機能し、右サイドハーフのタディッチは積極的に中央での崩しに参加。トップ下のサヴィッチもあらゆるエリアを出入りしていました。推進力溢れるタディッチとコスティッチに力強く創造力豊かなサヴィッチ、中央で圧倒的な強さを見せるミトロヴィッチが絡む攻撃は期待に違わぬ破壊力を見せつけました。
 こういった風にセルビアの攻撃力に思いを馳せていた35分、重い追加点がセルビアに舞い込みます。これまで再三切り裂いていた左サイドを崩し、コスティッチが深い位置からエリアまで侵攻します。余裕を持って上げられたクロスボールは、これまたマークから外れていたミトロヴィッチの頭に届きました。この得点で代表通算43ゴールとなったミトロヴィッチは、同国の最多得点記録を順調に更新し続けています。

【前半総評】

 ここで前半終了です。いやぁ、セルビアは圧巻の出来栄えだったのではないでしょうか。前半を通して圧倒的な支配を確立し、横綱相撲を展開しました。ミトロヴィッチが何度も決定機に絡み、それが2得点という結果に実りました。特にコスティッチが絡んだ左サイドアタックは絶品で、分かっていても止めがたい迫力がありました。対するルクセンブルクは、保持攻撃が形を成さないまま終了してしまった前半だと言えます。単発の攻撃に終始し、攻守の連動性に乏しかった印象です。交代策などでアクセントを付けられるか、しっかり守備を立て直せるのかが鍵になりそうです。

【後半】

 後半開始です。まず動いたのはビハインドを負うルクセンブルク。CBの3番マフムトヴィッチを下げ、中盤が本職である15番のオリヴィエ・ティルを投入しました。最終ラインを削って攻勢に出る意図があるのと同時に、前節アゼルバイジャン戦の形に戻しました。ルクセンブルクの交代策に対して『前節の形に戻したな』とコメントを残せる人間、自分だけ説。
 そんなささやかな優越感はさておき、ルクセンブルクは前への圧力を高めて積極的な立ち上がりを見せました。輝くを放ったのは、交代で入ったオリヴィエ・ティル。左サイドから供給されたボールを枠内にシュートを放つなど、セルビア守備陣の脅威となりました。
 しかし、ルクセンブルクの時間も長くは保ちませんでした。60分頃になると、攻勢はすっかり終息してしまったかのような展開になります。前に出たということは即ち、カウンターを浴びるリスクを負うということでもあります。案の定、セルビアの前線に致死性の速攻を何度か食らう展開になりました。そして落ち着いてしまったルクセンブルクの攻撃。ここまでか。
 そう思われた77分、試合が突如として動きます。敵陣エリア手前で自由を得たオリヴィエ・ティルが持ち上がり、中央のロドリゲスに縦パスを預けます。エリア手前で粘ったロドリゲスはボールをこぼしながらも何とか相手を背負い、やや右に流れたボールに飛び込んできたのは………オリヴィエ・ティルでした。勢いそのままに右足を振り抜き、放たれた弾丸はゴール左に突き刺さりました。セルビアGKライコヴィッチが一歩も動けない、素晴らしい得点でした。
 様々な状況を考慮すると、勝ち点1でも非常に大きいルクセンブルク。残り15分少々のところで希望の火が灯りました。私の応援(あ、応援って言っちゃったね)にも熱がこもります。握る拳に汗が滲みます。いける…いけるんだ…!
 そんな『ちょっと夢を見たくなっちゃうよ!』な時間は、5分足らずで終わりを告げました。セルビアに右サイドを抉られ、クロス。ニアでタディッチがCBを2人引き連れ、ファーのミトロヴィッチがヘッド。一度はGKモリスのファインセーブで掻き出しますが、味方DFの足に当たってゴールラインを割りました。その直前にはゴールキックを8番のペレイラが見ておらず(!?)ボールをロスト、その流れで失点しました。ここでもエリア内でのマークの弱さが顔を出し、あっさりとミトロヴィッチを逃がしてしまいました。いやー、もったいないよ。確かに足は止まりつつあったし、限界は近かったと思う。それでも追い上げのゴールは何よりも活力源になったはず。それを手放しちゃったらなー。この試合のルクセンブルクは、ここで本当の終わりを迎えてしまいました。
  その後は後半ラストプレーでセルビアがダメ押しの4点目を決めて試合終了。ちなみにフリーキックからの流れだったのですが、ロドリゲスが肘打ちして与えたものです。はい、こちら本日2枚目のイエローとなりましてロドリゲスは退場しました。なにやってんねん!

【後半総評】

 ルクセンブルクが一時追い上げを見せて試合が盛り上がるも、度重なる痛恨のミスで流れを手放し終戦してしまいました。試合を通して完成度の高さを見せつけたセルビアが勝利に値する試合だったかと思います。特に前線のクオリティは、何度も触れているように迫力満点です。ここにルカ・ヨヴィッチヴラホヴィッチが控えていることを考えると、質量ともに大国に引けを取らない陣容でしょう。結果として4点は取れましたが、もっと早く試合を決定付ける機会は何度もありました。こうした取りこぼしは、更なる強豪国相手だと致命傷になりかねません。1つ1つ集中してチャンスをものにしたいところ。今後のポイントとしては、いかに前線までボールを届けるのかという点中盤含め守備陣がどこまで粘りを見せられるのかという点でしょう。同じく前線に多くのタレントを揃えるポルトガルとの再戦が楽しみです。どちらも前輪駆動型のチームということで、似た要素も多いです。
 方やルクセンブルクですが、この試合で退場したロドリゲスと累積警告に抵触したペレイラが次節出場停止となってしまいました。ロドリゲスは攻撃の要であり、ペレイラは多彩な可変のキーパーソン。ちなみに次節はホームにセルビアを迎えての大一番。どうするんだこれ(絶望)。それでもやるしかありません。なんとかセルビアにやり返して失った勝ち点の穴埋めして後は他力に縋る他ありません。正直言って本大会への出場は困難なものとなりましたが、私はこのルクセンブルクの行く末を最後まで見守りたい所存です。

【気になった選手】

①ドゥシャン・タディッチ(32歳・アヤックス)

タディッチ

 まずは勝利したセルビアからの選出。ここはコスティッチとめちゃくちゃ迷いましたが、やはり最も輝いていた選手を讃えようと思いタディッチの選出となりました。代表チームではキャプテンも務めるアタッカー、アヤックス躍進時のことを覚えている方も多いのではないでしょうか。私はプレミアリーグを見ているので、サウサンプトン時代の活躍も印象的でした。32歳と円熟味を増す年齢に差し掛かり、今もなおエネルギー溢れるプレースタイルが魅力的な選手です。あらゆる基礎技術が高く、スピードも兼ね備えています。常に相手守備陣の脅威となり続けられる選手で、ゴールに絡む決定的な仕事をこなせる万能人です。多彩なセルビア攻撃陣を引っ張るリーダー、本大会を含めた躍進に彼は欠かせないでしょう。

②オリヴィエ・ティル(24歳・ヴォルスクラ)

オリヴィエ・ティル

 敗れたルクセンブルクからはこちらの選手。本記事でも何度か名前が出ていたオリヴィエ・ティルをピックアップ。見事な追撃弾もさることながら、安定したボール保持と優れたタッチ技術が持ち味の選手です。まだ24歳と若くキャリアは途上で、現在はウクライナ1部のヴォルスクラに所属しています。いつだったか、UEFAヨーロッパリーグ(通称EL)でアーセナルが対戦したこともあるチームですね。懐かしい。今季は所属クラブで17試合4ゴールを決めており、国内外でのステップアップも可能な選手だと思います。一度は窮地に陥ったチームを鼓舞した同点ゴールは一見の価値があります。

【試合結果】

2021.9.4
22年W杯欧州予選 Group.A 第5節
セルビア 4-1 ルクセンブルク
【得点者】
セルビア:ミトロヴィッチ 22' 35'
                  チャノット(OG) 81'
                  ミレンコヴィッチ 90'+6'
ルクセンブルク:オリヴィエ・ティル 77'
【警告】
セルビア:タディッチ 44'
ルクセンブルク:ジェルソン・ロドリゲス 79' 90'+5'(退場)
                             マルティンス・ペレイラ 34'

 今回のレビューは以上になります。なぜか回を追うごとに文字数が増えています。簡潔にするという目標は、どうやら中々難しいらしいです。それではここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。また次回のレビューでお会いしましょう。それではまた!

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