キムタクのドラマは真剣勝負
キムタクがキムタクを貫く”心地よさ、キャラの解放で確かとなった木村拓哉という冠
「ボナペティと軽率に言っちゃう」「キムタクがやるように、美味しいと思うときに上を向いちゃう」…など、ドラマ『グランメゾン東京』の内容も話題に。
© ORICON NEWS 提供
「ボナペティと軽率に言っちゃう」「キムタクがやるように、美味しいと思うときに上を向いちゃう」…など、ドラマ『グランメゾン東京』…
木村拓哉が主演を務めるドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)。先週放送の第6話は視聴率11.8%、視聴率不振のこの時代に6周連続2桁をキープしている。だが本作の反響は数字からだけでは読み取れない。SNSでは「このドラマ、キムタクがめっちゃキムタクだ」「90~00年代ドラマ世代には抜群の安心感」「内容がベタだけど逆にわかりやすい」と好意的な意見が多く、キャラとしての“キムタク”が貫かれていることが話題に。「何をやってもキムタクと言われる」と以前番組で木村自身が発言したことは記憶に新しい。だがその概念が新たなフェーズに突入しているとは言えないか。
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■「ちょ、待てよ」「メイビー」数々の名言生み出す、冠を背負えるのは“限られたスター”のみ
まずこれまで語り尽くされている木村拓哉の“歴史”について、基礎情報として改めて記す。木村拓哉と言えば、ドラマ世代からすれば『ロングバケーション』(96年)や『ラブジェネレーション』(97年)、『ビューティフルライフ』(00年)など王道の恋愛もののタイトルが挙がる。徐々に他のドラマの数字が低下したところでも視聴率を取り続けていたのが木村だった。
01年には“職業もの”の流れがスタート。『HERO』においては全話視聴率30%超えという記録を樹立した。その後も『プライド』(04年)、『Good Luck!!』(03年)、『CHANGE』(08年)と“職業もの”が続く。木村が演じてきた職業は実に23種だ。
『こんな恥ずかしい台詞、普段使う?』『こんな出来すぎた展開ってある?』といったぶっとんだ台詞や設定でも説得力を与えていた。「いわば、ドラマという“ファンタジー”に“重力”を与えられる存在だった」と話すのはテレビ誌で木村拓哉ドラマの連載も手掛けていたメディア研究家の衣輪晋一氏。
「ちょ、待てよ」「メイビー」「よろしこ」「ぶっちゃけ」。リアルなら恥ずかしくも聞こえる台詞だが“木村拓哉”という存在が発するなら許された。寧ろ黄色い声が上がった。さらに茶髪にロン毛、『HERO』で着ていたAPEのダウンジャケット、REDWINGのエンジニアブーツなど、文化やファッションの流行にも多大な影響を。昨今は安易に“社会現象”という言葉が用いられるが、“木村拓哉”という“社会現象”を超える“社会現象”は現在ほぼ見られない。
「『ニンゲン観察バラエティ「モニタリング」』(TBS系)で、木村さんご本人が『何をやってもキムタクと言われる』と話されたことが話題になりました。ですが改めて考えれば、石原裕次郎、高倉健、吉永小百合など、『何をやっても~』は昭和の大スターの系譜。『キムタクはキムタク』と言われることも、それを皆が求めていた結果。だがよく観察すれば、木村さんのお芝居の上手さは感じ取れます。演じ分けてもいるのですが“木村拓哉”というオーラがただ単に強すぎる。紛れもなく木村さんは名だたるの大スターたちの特徴を備えているのです」(衣輪氏)
■“何色にも染まれること”がいい俳優の条件とは限らない。実力派俳優たちが抱く木村への畏怖
「役者はどんな役にも色にも染まらなければならない」――。昨今はそんな“役者原理主義”が、芸能業界だけでなく一般視聴者の感覚にも広がっている。“カメレオン俳優”という言葉も取り沙汰される。松山ケンイチや中村倫也、滝藤賢一、安田顕、志尊淳などが代表例で、「“カメレオン俳優”こそが実は役者として最上級」という論評も少なくはない。
ほか阿部寛や堺雅人、香川照之、鈴木亮平など演技の力量や演じ分け、役や作品に馴染む“実力派”ももてはやされる。それは当然のことでもあるのだが、彼ら彼女らと比べて「木村拓哉は木村拓哉しか演じられない」とくさす論者もいる。だが、こうした“カメレオン俳優”“実力派”が、木村に憧れや畏怖の念を持って接するケースは実は多いのだ。
例えば香川照之。2015年のORICON NEWSで香川は「襟をただし心構えを見直し、曇りがないことを確かめないと木村さんとは出会えない。一見、スムースにナチュラルに事を運んでいるかに見える木村さんだが、その実、見えざる水面下では他の追随を許さないほどの命懸けで足をかき、全てのカットに全力を注いでくるからである。その姿勢は、8年前に初めてお会いした時から変わっていない。木村さんの、真の男気とまた向かい合えることは、俳優として本当に幸せ」と話している。
「テレビ誌の連載で木村拓哉さんのドラマを制作するスタッフにインタビューしてきましたが、ほぼ同じ話になります」とは前出の衣輪氏。「私が木村さんにインタビューするときも同様。いわば木村さんとの真剣勝負であり、少しでも甘い言葉を言えば、その目はギラリと光る。まるで“剥き身の日本刀”のような方。しかしこちらが真剣に向き合えば、木村さんはスタッフの制止を振り切り、時間をオーバーしてでも、ファンに自分の言葉を伝えようとします。武士のような礼節、志があるんです」(同氏)
■封印が解かれた『グランメゾン東京』、“キムタクっぽさ”に心地よさを覚える
そんな木村拓哉が“木村拓哉”らしさを発揮しているのが『グランメゾン東京』だ。木村は慢心からすべてを失ったカリスマシェフ・尾花夏樹を演じ、世界最高の三ツ星レストランを目指している。その随所にも木村らしさが。ちょっとした仕草でウインク、去り際に相手を指差し笑顔を見せて歩いていく、独特の数の数え方をする、などなど。
物語もツッコミどころが満載だ。例えば第6話。見習いシェフの芹田(寛一郎)は魚をさばくのに、アクの強い野菜を切ったナイフを使用し、夏樹(木村)に叱られる。「そんなの素人でもやらないミスだろ!」とツッコむのは野暮。木村の存在感がそんなツッコミを自然に流し、いつの間にか視聴者は次の展開にのめり込む。ツッコミは欠点ではなく視聴者の楽しみにもなっている。そして木村が“キムタク”でいられるのは鈴木京香、沢村一樹、及川光博などの芸達者俳優陣がいてこそ。配役も見事だ。
SNSでは放送後、木村が使っていた食材、“キムタクっぽさ”あふれる演技がトレンド入りをはたすことも。「美味しいときにキムタクがやるように上を向いてしまう」「何をするにも“はいどうぞ”の感覚で(夏樹の決め台詞である)ボナペティを言ってしまう」など。“キムタクがキムタクであること”を楽しんでいる空気がある。
「このような空気感はゲーム『JUDGE EYES:死神の遺言』頃から見られる傾向」と衣輪氏。当時、SNSでは「キムタクが如く」というワードが話題に。“キムタクがキムタクである”こと、“キャラとしてのキムタク”がうまく昇華されていたゲームで、SMAP解散以降、ユーザーからの否定的な言葉が多かった木村はこのゲームによって、SNSやネット界隈での“愛されキャラ”となった。
「先ほどは“武士”と表現しましたが、熱烈なファンではない“一視聴者の目線”では、木村拓哉がマスコット化され、“ゆるキャラ”のような立ち位置にきている。これは“木村拓哉”としての新たなフェーズでもあるのではないか」(同氏)
共演者やスタッフからも畏怖されるひたすらにかっこいいキムタク、ゆるキャラのように愛されるキャラとしてのキムタク、これらを開放し、うまく作用した最大公約数が『グランメゾン東京』だ。自分の冠で作品をつくれる意味でも“最後のスター”であるキムタク。このスタイルを貫き続けてほしい。