【小説】心霊カンパニア⑥ 『座敷牢』前編
瘴気
「梓さん・・・あれは?」
ボクと梓さんは”千里眼の開眼”訓練を今日もしていた。その最中に少しだけ歪んだ空間が視えた気がしたんだ。
「・・・少し早いかもですが・・・私が支えますので、もう少し視て”観て”下さいまし」
「・・・はい」
少し緊張する感じで、若干の不安はあれど不信は無かった。梓さんが着いてくれているので安心はしている。不安なのはまだまだ未熟な自分自身のことでの不安だ。
自分の立ち位置というか、視線の位置をもっと近づけてみる。古い、古民家のような田舎の建物。屋敷とまでは大きくなく、ただの家というには大きい古民家だ。
そこから、なんだか蜃気楼のように空間が滲み、歪んでいる。
外部からは見えない位置、物置小屋のような外れにある小さな小屋から歪み立ち上っているようだ。
この建物自体がもうボロボロでもう誰も住んでいないみたい。生活感と人の気配が全く無くて窓ガラスの殆どは割れ木板も所どころ歯抜け、戸も半分が外れ無くなっている。
歪みが濃い小屋の内部を恐るおそる見てみるも、特に表面上は何も無い。が、地面からは黒い湯気が溢れ立ち上っていて、シャルがこの場にいれば咽返っているんじゃないかという程の瘴気だった。
「・・・どうやらこの下からのようですね」
「みたいですね。そう言えばこういった土の中や水中とか、密着?密閉された内部とかも視えるものですかね」
「どうでしょう。それも、あなた次第ではないですか?」
・・・そうだね。別に直に見ている訳じゃないんだし。
「・・・変にアドバイスをして、私の先入観を植え付けては無粋なのですが・・・一つだけ。難しいですがちょっとした『線引き』があります。何事にも現世や肉眼で見えるモノの基準で先入観をもって見ると何も観えてきません。それは表面的な事象でしか捉えれませぬ。ですが、己の見解が全て正しいといった過信をしてもそれは盲信するだけであり、また真実や実質を見落とし見誤ります。その線引き、心や思考を調整し続け揺蕩うことこそが人類が与えられ、許された能力でもあります。忘れることの無く」
まぁ、バランス、ってことだよね。
「何度も申し上げ恐縮では御座いますが、霊体も幽体も自身の世界と意思の支配が大半の認識となります。私たちのこの能力も同じく、どう観て、何を聴き、どのような感じ方をして、何に触れるか。超越しつつ高慢に成らず。そこも訓練の一つです。落ち着いて、大丈夫です。千鶴さんは誰よりも俯瞰な存在です」
「はい。がんばります!!」
輪廻
ボクは土竜。そう。もぐらもぐらもぐら・・・・・・
・・・集中とかイメージって、こんなもんだよ?
いつもの『千里眼』のイメージはね、目玉のオヤジが武空術かスーパーマンとして飛んでるって感じ。
『透視』は、障子に目あり。
まぁ、何でもいいんだよ!集中できれば!!
掘るぞー。掘るホル。ボクは土竜だ。ここ掘れワンワン。
・・・・・・わぁあ!!骨だぁ!!汗
・・・人骨??うん、頭蓋骨だ。
合計、多分だけど三体分の人がこの小屋の下に埋められている。
「・・・梓さん。人が三人、ここの下に埋められています」
「何があったのでしょう。ここまでの瘴気を纏うほどの何かがきっと・・・・・・」
「霊体として形と成らずに埋まったままって、どういうことなんですか?」
「捕食された動物霊として、このように土に還り草木として転生することはよくあります。ひたすらに種を待って共に育み、そしてそのまま草木として一生を過ごすモノや、また草食動物に捕食されその子の一部として宿すことも。人の場合では、そうですね・・・例えば戦地や虐殺による大量死の跡地に眠る場合、多くの他の戦死者の渦に飲まれて完全に自我をも無くすといった出来事や・・・・・・」
梓さんは、少し考え事をしている。
「この三人も、戦死者ですかね」
「・・・視てみますか?」
そういって、梓さんは何かの念仏を唱え出した。
「・・・千鶴さん、視線を小屋の中へ、地上へと移して・・・映して下さい」
言われるがまま、ボクは言う通りにした。
すると、地面が盛り上がり、埋まっていた骨の一つが地上へと現れどんどんと肉が付いていく。蛆が蠢き様々な昆虫類が死体に集る。ボクは見てられなくなり目を瞑ろうとした瞬間
「心の目を閉じないで下さい。まばたきのような一瞬であれば問題ありませんが、約一秒以上この千鶴さんの千里眼で紡がった『縁』が途絶えてしまいますと『口寄せ』が遠隔では出来なくなると思われますので」
ボクはハッとして、気持ちが悪かったけど何とか我慢して目を離さずにじっとしてました。梓さんは引き続き念仏を唱え出し集中する。
幽閉
時間の感覚が数秒にも数時間にも感じた。一人目の死体が全て受肉しては消えて、今度は残り二つの骨が先ほどと同じように受肉して行く。
どうやら後の・・・いや、遡っているので先のこの二つの頭蓋骨は「双子」だったみたく、二人は受肉後、普通の人としてずーっとこの小屋の中で過ごしている。二人がここに『幽閉』された辺りで『逆再生』は止まり、ビデオテープのように通常再生がスタートされた。その面容は子供の姿だった。
断片的に視えるこの双子の動きで推察していくしかないけど、定期的に食料が投げ込まれているようだった。
「これは・・・一体??」
・・・梓さんが何も話さない。ボクの千里眼をサポートするのと口寄せの両方を同時に行うには、流石に他の意識は向けれないのかもしれない。ボクは引き続き双子を見守っていく。
何かを拾ってそれを口に運ぶ動作は食事だと思う。でもそれ以外は特にこれと行った動きはなく殆どが寝ている。二人で何か言い合っている時もあるが、声は聞こえない。古杣さんが居れば聞こえるのだろうか。
髪はどんどんと伸びていき、風呂に入れることもなく肌や眼差しもどんどん曇っていく。
季節は冬になったのだろう。二人は抱き合い必死に暖を取っている。
そして春が過ぎ、夏の炎天下。
二人は暑さで虫の息。脱水症状が出てきている。
そのまま二人ともが動かなくなり、腐り崩れていった・・・・・・
次は一人目の・・・いや三人目の『収監者』がやってきた。
それは高齢の老婆だった。
小屋の扉を叩き、必死に足掻いて泣き叫んでいる。時には怒り、そして悲しみ、ブツブツと独り言を呟いている。
足元の双子の骨を見つけ、穴を掘り埋めて拝んでいる。
来る日も来る日も拝んでいる。
やがて拝みながら、老婆はいつの間にか死んでいたようだ・・・・・・
口減らし
千里眼の術式は終わっていたが、ボクは気が付かずにそのまま泣いていた。
あの子供達と老婆はなんだったのだろうか。なぜ監禁され、そのまま死んでいくような運命にどのような理由があってそうなったのか。どんな理由があれ、そんなことは許されない。怒りと悲しみでそれ以外の把握ができないままだった。
梓さんがボクの肩にポンっと手を置いたのを合図かのように、ボクの肉眼は開いた。
「・・・もしよろしければ、視たものを教えて頂けますか?『死に口』の間の私は何も意識が全く無いのです」
ボクはありのままに、ボクの感じたことや疑問の全てを伝えた。
「・・・なるほど。恐らくですが、それは『口減らし』の類かもしれませんね」
「口減らし?」
「はい。これは日本の・・・いえ、世界中の貧困世界で起きている現実です。今の日本は大変、豊かになりましたのであまり無いですが、貧しかった頃の日本や、今でも新興国において”無い”とは言い切れません」
「今でもさっきみたいなことが?!」
「私が過去に、様々な人と霊体と話させて頂いてきました。その中で多かったのがこの『口減らし』です。口減らしとは、その名の如く『口を減らす』こと。食べ物やお金が無く、一家全員がこのままでは餓死してしまう。その様にみなが苦しみ死すならばと、特に生産性がない、働き手とならない幼子やご老人を減らす。致し方が無いことです。それを止めれば、全員が死ぬことになるのですから」
「それが、今でもあるのですか?」
「ええ。残念なことに。日本では様々な施設や福祉、支援がございますのでそのようなことはもうあまり御座いませんが、世界の制度や思想、政治事情により似たようなことは御座います。現在では人身売買の類が多いかもしれませんが・・・・・・」
「そ、そんな・・・・・・」
「それらを、私たちがとやかく言えることでは御座いません。いくら情があれどそのようなことで全ての貧困をなんとかできる訳でも無いのです。例えばなんとか出来たとして、その双子のどちらかしか救えないとしたらば、千鶴さん、選べますか?」
「!!」
「無理ですよね。私もです。世界中の富を私個人が得れたとしても、全人類に配布は恐らく不可能だと思われます。そこに、また贔屓と差別が出来てしまことでしょう。資源にも限りがあり、輪廻と同じく生態系が自然には御座います。これ以上は種の絶滅に至るというまでの搾取はしてはいけません。それが、例え我々人類が平均的な生活の為だとして。そして、人類の全てが不幸にならないための救済だとしても」
「・・・・・・」
「なので、私はせめてもの意味を込めて不幸な運命に終わった霊や不運なだけの魂を救い、『浄霊』をして、次世でせめて裕福とまでは言いません。せめて普通な平穏な一生を送れるよう手助けがしたいのです」
「梓さん・・・・・・」
ボクはもう何も言えなかった。
ただ、老人の『姨捨』のような話はどこかで聞いたことがあったが、でもそれは食料や費用がかかるから「減らす」ことだと思うのだが、ここの経緯は少し違っていた気がする。そう。ちゃんと食べ物は外部から支給されていたように見えたのが違和感として残る・・・・・・
救済
救済、施し、か・・・・・・
ボクは考え事をしている。最後に言われた梓さんの言葉がすごく胸に刺さった。
可哀そう、だとか同情。ダメな事や、人間的ってなんだろう。
それらはなんだか所詮はボクのエゴのような気がしてきた。自分はなんの不自由な立場でないのに、かと言って何かしてあげれることなんて無いくせに・・・・・・
正義、正しいとは。
可哀そうだからって、その子や人をその場のボクの情だけで救済をしたとする。それって正しいことなんだろうか。事故や事件で助けるとは訳が違う。命の取捨選択。きっとボクには出来ない。でも、その実行した事こそ残酷な結果になりかねないんだ。止めたとしてその後の実状を自分がなんとか出来るのだろうか。救った命のその後の責任が取れるのだろうか。でも、他になにか方法があるはずだと信じたい。いや、そんな甘い考えこそが平和ボケをしているボクのエゴなんだ。
森の中をボロボロに死にかけて歩いていたことを思い出す。
ボクは運が良く、ここの人たちに救われた。
なぜ?
他に、さっきの子たちのように死んでいる人はきっとごまんといるはず。なのに何故?
ボクには霊視感能力があったから。
他の人には無かったから?これが贔屓??
こんな能力がそもそも無かったら、こんなことにはなっていなかった・・・はずだ。
何か意味がある。
何かあるはずだ。ボクに出来ることが!!
ガラガラガラッ・・・・・・
マヨヒガ屋敷の引き戸が空く音がした!そう、ボクは今また温泉に浸かりながら考え事をしていたの!!ヤバイ!誰か来たぁ!!汗
とっさにボクは隠れてしまった。右手奥の岩が少し出っ張っていて、そこに鼻下まで湯に浸かり見えないようにと。
誰だろう汗。え?こんな時間に?!
千里眼の訓練が終わって夕食後、いつも最後だろうって時間に入るようにしているんだけど・・・だって、ボクは男湯と女湯、どっちの時間帯に入ったって違和感しかないんだから!
あ・・・いや、勝手に自分でそう思っているだけかもだけど汗
とにかく!わかんないからわざわざこんな遅くに入るか、真昼間かにしてんのにぃ!
古杣さんかなぁ?だとしたら、嬉しい♡・・・いや、それどころではない汗どうしよう!拒否られても何も反応が無くてもショックなんだよぅ・・・・・・
混浴
やべ、来る来る来る来る!こっち来るぅー!!手前で入っておけって!奥のここまで来るなっての汗汗
・・・あ、桃ちゃんだ。
んんんん?それはそれでどうなんだ?ヤバい、こっちのがヤバい汗
早く出て、ボクが居ることを知らさなければボクが変態ってことになるんだよぅ!一応は男だし。
「あ、あの・・・・・・」
「・・・あ、千鶴ちゃん!ヤッホー♪」
憐れもない姿の桃ちゃんが、一糸まとわずそして無防備にも桃ちゃんの桃がもう桃✖2・・・・・・
「こんな時間に入ってんねやー、子供はもう寝る時間やで?」
いや、あんたもや。同じ年とか言ってたくない?
「ご、ごめんなさいぃ!直ぐに出るから」
「え?ええって。大丈夫やろ?あんた、”女子”やんな?」
「・・・そのつもりですけど、一応、戸籍上はってことでさぁ・・・・・・」
「いや、わかってるって、う・ち・は♡恋愛対象は男やろ?ほな大丈夫なんちゃうん?それに、あんた”ソマっち”狙ってっしょ??」
ニヤニヤと、シャルといい勝負なぐらいにいやらしい目と顔でグイグイと寄ってくる。
「・・・ソマっち??」
「|古杣《ふるそま》っちのこと、あんた好きやん♡うちはなんでも知ってるでぇー」
「なぁ!?!ち、違いますよぉ!」
「いやいやいや、無理無理無理無理。ウソは通じやんって。それはうちらが誰よりも知っとるでそ?」
人のことを『覗き魔』みたいな言い方しといて。どっちがだよ!もう、シャルとお似合いな性格してるわ。
「ああ、んんん汗。い、いやそうだったとしても、今ボクたちがこうやって混浴して良いことにはならないじゃあないですかぁ照」
「いや、それすらも逆にここの人らからしたら大丈夫やろ?」
「そ、そうかもしれないけどぉ・・・・・・」
「まぁ、ええやん、仲良ぉしよや!んで?何悩んでんの?」
「・・・え??」
相談
水というのは本当に不思議だ。なんでも繋ぎ紡いでしまう。塩分や糖分といった結晶から、色や温度も透し受け入れる。
科学的には『水素結合』っていうらしいんだけど、その力で溶かしたり別の分子を融合させたり。この地球上の唯一無二なほどの存在感がある物質だ。
この力により生命は生まれ、結合と分裂を繰り返し、現在に至ると言っても大袈裟ではない。
温泉も、その力で多くの成分を含み効能がある。
それら全ての間を取り持つのが『水』。地球の七割が水で、私たちの体内の七割も水。
日本だけでなく、海外ですら『水』というのは霊界や霊体との媒体とされていることが多く、物質世界だけでなく精神世界でも影響がある。生と死を司っている水も、使い方次第で天国に地獄にもなってしまう。
その水、温泉の湯を通して桃ちゃんは全身が水の分子と繋がって接触しているから、離れていても漠然とだけどボクの気持ちが伝わってきたと言う。だからボクがずっと悩み考えている感情が伝わっちゃったんだね。
一連の、今日の訓練で見た双子と老婆の話をしっかりと伝え、終わるころにはもう”のぼせて”くる頃だった。
「・・・なるほどねぇ。難しいこと考えてんのやなぁ」
「なにか、ボクに出来ることってありませんかねぇ・・・・・・」
「梓さんが言うように、その時や現実で出来ない分、死後に出来ることがなにかあるんやろ。あんたは視てあげること。うちは感じ取ることや」
「ボクは所詮、見ることしか出来ない・・・感じ取って知ることも、聞いてあげることも、伝えることも出来ず、ただ見てるだけ」
「・・・あんな、外国人の多くは人の口元を見て真意とかウソを見抜いたりとかしてんねんて。うちら日本人は相手の目を見て判断することが多いって、なんかで読んだわ。うちは表面的なことしか分からん。ソマが聞いたことも、ウソかもしれん。匂いは香水とかで誤魔化せるし、言いたいこと言えても相手の反応が見えん」
「・・・・・・」
「それぞれの適材適所ってゆうか、一長一短ってゆうか。なんし色々やわな。うちは”ちーちゃん”のその能力が羨ましいで?そのケースもさ、ちーちゃんやから見つけてあげれたんちゃう?うちのは手の届く範囲でしか知ってあげられへん。ソマもそんな程度の範囲やし、シャルは気流次第。シルちゃんは音の届くとこまで。そう考えたら、あんたの幅ってヤバくない?」
「・・・ですかねぇ」
「・・・あ、そや、じゃあさ、行ける範囲で見つけたら、うちがそこまで行って供養していったろか?」
「え?!いいんですか?」
「時間が合ったらな。あんたらこの屋敷から出られへんねやし、うちしかおらんやん?」
「でも・・・どうなんだろう?危なくない?」
「なんで?さっきの話からして思うことは、きっと誰にも供養もされずにずっとそこに埋まったままでさ、寂しく空しく死んでいった霊魂の鎮静ってことなだけやろ?んで、あんたはそれを見つけることは出来ても何も出来ない、見つけてあげることしか出来なくて悩んでるんやんな?」
「う・・・うん、まぁ、そんな感じ」
「ソマっちも梓さんも、毎日忙しくしてるしうちらだけでも何か出来ることがあるならいいんちゃうん?それに、うちの役割としても『予定悪霊の阻止』の一環として考えたら、いい考えやん!ってか、うちもずっと雑用とかだけでなく何かしたかったとこやねん!!」
んー・・・勝手に決めていいのかなぁ汗
でも、ボクもずっと同じ気持ちだったのは確かだった。ここにこうやって居候させてくれて、毎日たったの五分ぐらいの訓練だけして、後はこんなにいい温泉に気持ちよくゆっくりと浸かっているだけが、なんだか申し訳が無かったのだ。
無念に死んでいった人たちの生前にも何かできないかと考えていたけど、そんなことは差し出がましくておこがましいことかもしれない。せめて事後だけでも頑張ってみようと心に誓った。
それに、久しく「ちーちゃん」と呼ばれてなんだか懐かしくも、また以前の明るかった時の自分に戻れたような気がしたのだ。
役割
梓さんと古杣さんは色々とここの要になっているのが分かる。金銭的なとこや現世とのパイプラインとしても。
ボクがまだまだ力不足であまり関わってなくてよく分からないけど、『浄霊』においては梓さんが中心として各々が動いているようで、現状、シルバちゃんの『言霊』がここの防壁の強化と『真言』で、今風に言うと『タンクアタッカー』
古杣さんの『霊聴』は完全に情報収集。『情報屋』??
シャルが『霊嗅』にてみんなの健康状態の管理と探索機能の『ヒーラー兼、探索部員』
桃ちゃんがバックアップ、デバッファーのようなモノかな?
梓さんは・・・そう言えば何だろう?今のところ『オールマイティー』な感じがしているけども、『霊〇感』ってあるのかなぁ??
で、ボクは・・・梓さんの補整がなくても、もっと遠くが見れたり『因果の前後左右』が視れるようになればきっと、優秀な情報部員になれるはず!
桃ちゃんは自分のことをあのように言っていたけど、何も出来ないでいるのはこのボクなんだ・・・『予防』も、立派で重要な役割だよ。
連障
「なぁなぁ、ちょっと考えたんやけどさぁ!」
突然、ボクがシャルの代わりに洗い物をしている最中に後ろから桃ちゃんの声がした。
「なになにぃ?」
「あんたちゃうわ!」
夕食の下準備をしていたシャルがわざと返事をした。本当に仲が良い。
「ああ、それ終わったらちょっと一緒に行こか」
「どうしたの?二人で」
「内緒や!女子会や女子会!男子禁制やで!」
完全に女性として扱ってくれているのが気持ちいいぐらいに嬉しい。
「あ、シャル、なんか買い出しある?」
「そうだなぁ・・・じゃあ、卵だけお願いできる?」
「オッケー」「んで、後でちーちゃんの部屋行くわ。『椿』の部屋やったよな?」
「うん、ボクの部屋周辺はまだ移動してないから、前と同じ場所だよ」
「じゃ、後でね」
元気な表情で桃ちゃんは去っていった。
「最近、二人仲良くしているね」
シャルが嫉妬でもしているのか、微笑ましく見てくれているのか分からない表情とトーンで言ってきた。
「桃ちゃんのあの元気で明るい雰囲気のおかげだよ。桃ちゃんと一緒にいるとなんだか色々とくよくよしている自分が、どんどんバカらしくなっちゃうんだよね」
「そうだね。桃華ちゃんがここに来てくれてからすごくみんなが影響しちゃって、明るくなった気がする。そして、千鶴ちゃん、君が来てからまた和んだ雰囲気になっていてメンタル面ですごく感謝しているんだよ?」
「え・・・本当に??」
「うん。君たちが居ない場でも、よく話題が上がるぐらいにね」
どんな会話をされているのだろうか。すっごく気になるぅ!
でも、自分ではそんな実感がないしシャルの気遣いなだけかもしれないけど、少し嬉しかった。より頑張ろう!って気になってきた。
シャルのお手伝いが終わって、今日は素直に自室へと帰る。本当はシャルと桃ちゃんの掃除の手伝いもして良い汗かいてから温泉に入り、古杣さんが帰ってきたらシルバちゃんとお唄を一緒に歌い、千里眼の訓練の予定をしていたんだけど桃ちゃんをお迎えしないとダメだから、ちょっとだけ自分の部屋をお掃除をしなきゃと思った。
万年床のように敷きっぱなしのお布団を畳み、ついでに置き型で木製の間仕切りに干すように架けた。借りてきた室内用の箒で履いていると
「おっすー♪ちーちゃん、おる?」
返事をする間もなく障子が開けられ、なぜかボクはドキドキしている。
「お、ちゃんとおるおる。あんな、これさぁ」
そういう桃ちゃんの手にはおかっぱで赤い着物を着せた、定番的な日本人形を持って見せてきた。
「・・・お人形さん?」
「そう!ちょっと手ぇ貸してぇ」
少し強引に桃ちゃんに手を奪われると、目の前にこのお人形に似た小さな女の子が映った。服装は人形のように綺麗にあしらった物ではなく少しボロっぽくもあったが、この人形と楽しく遊んでいる微笑ましい姿が映った。
「・・・どう?」
「・・・え?・・・あ、えーっと・・・小さな女の子が、この人形と遊んでる姿が視えた」
「やっぱり!?よっしゃー!!」
夢現
桃ちゃんの『霊触』で感じるイメージを言うと、感情の想いと『俳句』のように『単語』が聴こえるだけなんだって。もっと一般的なもので形容するならば、直ぐに忘れてしまうような目覚め直後に見た『夢』みたいな感じだそうで、視えるとか聞こえるというよりも『感じる』という感覚に近いんだって。
実際に見る夢の中でも、例えば登場人物がコロコロ変わっていることがボクにはあるんだけど、自分自身がいつの間にか映画の登場人物や俳優に変わったり、登場していた友人や家族とかもいつの間にか変わっていたり。
一人称だったのが三人称視点で見ていたりとちょっと訳は分からないよね。
そんな感じで『感じ取る』から、なんとなく伝わったってだけではっきりと見て聞くことは出来ない状態らしい。
でも、以前に古杣さんが近くに居る時に『霊触』をしたらちょっとだけはっきり文章が聞こえた気がしたんだって。ずっと、たまたま、気のせいかな?って思っていて、タイミングが古杣さんとは合わずにそのままにしていたところにボクが現れて実験してみたとのこと。
ちょっと、何も言わずに急に止めてよ汗
「えー、ってか、うちには見えへんかったわーなんなん、ちょっとがっかりや。けど、ちーちゃんは見えたんやんな??まぁそれでも十分やぁ!」
「あ、あの、急で驚いただけになっちゃったけど、これって一体・・・・・・」
「ああ、ごめんごめん。この人形はちょっとね・・・貰い物なんやけど色々とあるやつやねん。・・・まぁ、こんな感じでさぁ?うちが感じ取った物の思念を、ちーちゃんが具体的に視ていけんちゃうん?!と思って。どう?」
「どう・・・って、それでどうしようと??」
「もう、疎いなぁ。うちらでも出来ることがあるってことやん!事件や事故があった場所や遺品、それをうちが持ってきて一緒に視て供養していこうってこと♡」
なるほど。そいういことだったのか。ちょっとボクもウキウキワクワクしてきたかもしんない。
「後さ、この屋敷ん中にもちらほらとヤバそうなんあるやん?知ってる?」
「あ!知ってる!こないだ丁度、変な部屋の中を覗いて見てみると不気味な『箱』が置いてあって、異様な気を感じてヤバそうな所をシルバちゃんとシャルに危うく助けてもらったとこなんです!」
「せやろ?掃除していくとそんな部屋が結構あんのよね。ヤバって感じてうちは入らんようにしてたけどさ。んで、聞いたらどうしようもないのが仕方なしでとりま封印してんねやろ?それらのも、うちらで調べていけんちゃうんと思ってさ」
「ですかね?!」
「まぁ色々やってみようや!」
自主練
ってことで、ボクと桃ちゃんはタッグを組んで『浄霊』の新たな形として、試行錯誤をすることになった。
「・・・さて、いきなりここの屋敷内にある、なんかいかにもヤバそうなやつに手ぇ出す訳にもいかんやろ?ってか、絶対に怒られそうやん?」
「うん、だと思う」
「ってことで、わたくし、今から調達しに行きます!」
そう意気込んで言っている手の指が九十度に折り曲げて、陸でも海でも空軍でもない敬礼をしながら屈託のない笑顔で背筋を伸ばしている。かわいい♡
「どこにいくの?」
「えへへへ。ちょうどね、うちの近所の子んとこのチャコちゃんっていうペットの犬が行方不明なんやて。庭の犬小屋から首輪が外れててそれだけが落ちてた。あんなん勝手に外れることなんてそうそう無いやろ?誰かが外してチャコ攫ってったんちゃうかって」
「ああ!なるほど!そういった捜索なんかボクらの能力の相性はピッタリかも!!」
「せやろ?・・・まぁ、『浄霊』とは全然関係ないけど、お試しには丁度いいやん?やってみいひん?」
「いい!すっごく良いと思う!」
「ほな、シャルの買い出しのついでにその首輪、借りてくるから待っててな」
「OK!代わりにここの掃除、やっとくね」
「あ、いいの?じゃあお願い。次はね、シャルの『銀杏』の部屋の周辺の予定やったから、よろしく。あ、掃除機当てるだけでいいからね」
そうしてボクらは一旦は分かれて各々、良い兆しを感じながら準備に勤しんだ。
時刻は黄昏時。
「ええか・・・いくで?」
「・・・はい」
二人で手を繋ぎ、お互いの開いている反対の手で首輪を掴んでそれぞれの感覚に集中する。
桃ちゃんの溢れんばかりの湯気が、繋がっているボクの手を包んでいく。温かくて、今日は桃と苺の香りがしている。どこかで苺を食べてきたんだなと直ぐにわかる。その香りがボクからも感じるようになってくると、ボクの瞼の裏にチャコちゃんと思われる犬の姿が視えてきた。
《誰かが、犬を抑えている》《けっして、可愛がっている感じではない》
《犬の感情を少し感じる》《これは桃ちゃんを通して感じるのか》
《遊んでくれるのか、何なのか、家族の匂いじゃないし戸惑っている》
《抱きかかえられて、車に乗せられていった・・・・・・》
探索
「・・・どう?見えた??」
「・・・うん、連れ去られたみたい。中年の女性で・・・白のワゴン車」
ボクは目を開けて桃ちゃんの方を見た。桃ちゃんは少し不安な表情をしている。間違いなく犬の感情を感じとって共感共鳴している様子だったので、ボクが珍しくこの場をリードした。
「いけるね!犯人の顔も車のナンバーも見えたよ!もう一回、いい?頑張ってナンバー覚えるから」
それから三回も確認して、女性の特徴と車のナンバーをメモした。
「・・・あんた、絵、下手すぎやな・・・・・・」
「・・・え汗」
そうして、その日の夜にボクは梓さんとの訓練の時に首輪を持って挑んだ。ボクの増強された力でどこまでできるのか、試す番だ。
まずは犬の、チャコの行方。そして犯人の居場所の二点。
桃ちゃんと見た場所とチャコに意識を集中し、後を追うように視線を流していく。
「・・・この場所は?」
梓さんが地味な千里眼の『絵』に素朴な疑問を持って、質問を投げかけてきた。
今まではあくまでも訓練なので、海中の底やマグマの中。ヒマラヤ山脈の奥地から地中のアリの巣の様子など、ボクの視野の広さや細かな気づきといったマクロとミクロの世界を意識した訓練だったの。視野で言えば、物理的に言うと人や動物の体内や宇宙空間まで、精神的に言うと本人にも気づけていない潜在意識の奥を視れるまでが目標だったので、それらに比べると確かに地味だった。
「あ・・・えっと、すいません汗。桃ちゃん・・・桃華ちゃんの知り合いのここの家のペットが行方不明って聞いて、ボクの力で探せないかなって思って・・・ダメですか?」
「・・・いいえ、いいですよ。私もお力添えいたしましょか?」
「いえ・・・あ、いや、ありがとうございます。えっと・・・一回、自分だけでどこまで出来るか試してみてもいいですか?」
「分かりました。是非、やってみて下さい。だから、その輪っかを持っていたのですね」
「はい。これは、その犬のなんです」
「では、改めて・・・どうぞ」
ボクはその後、思うがまま探してみたけど、全く見当が付かなかった。直感的に感じるかもと思ったんだけど、そういった能力はボクにはやっぱり無いようだ。けど、意識と何かの繋がりを持てばそこの場を見ることが、今でいうこの首輪が落ちていた犬小屋の前から千里眼を持っていけることが分かった。
「・・・ふぅ」
「ダメでしたね」
「何か、いい方法はないですかね・・・・・・」
「では、助言だけ。さっきの場所の特定は、どうやってできましたの?」
「あ、ええっと・・・・・・」
ボクはもしかして怒られるかもとか考えながらも、隠し事なんて出来ないと思い桃ちゃんとの作戦を全て説明した。
「なるほど。発想としてはいい案だと思いますよ。しかし、程度は捜索とか調査だけにしてて下さいね。決して、悪霊や怨念の追跡はしないように、お願いできますか?」
「あ・・・はい!勿論です!」
「では・・・私はあなた方が行っている、要は古杣さんとシルバさんのように共に能力を発動させることを『協調』や『連障』と言います。みなさんは英語で『cooperate』『コアポレーション』と言ったりもしていますね。その『協調』を、シャルルさんとも実施してみてはいかがかと」
「シャルと?・・・あ!」
「ええ。もうお分かりですね。三人の『協調』がどこまで『共鳴』できるのか・・・それ次第ではございますが、そこは私も楽しみですね」
なるほど。シャルの『霊嗅』なら、辿って追跡が出来るかもしれない!明日、早速やってみよう!!!
「ありがとうございます!!」
梓さんは優しく微笑みかけてくれた。
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