中編・二人称ホラー小説『あなた』~山着~第二話・マヨヒガ
『帰郷』
怏々と活性化された草木の緑葉は、毎年の恒例行事のように秋から冬に掛け紅葉となり朽ち果て落ちる。それはまるでわたしたちが毎日入浴し石鹸で垢を洗い落とすかのように、草木や山にとっては我々と同じく清々しくスッキリした気持ちになるのだろうか・・・・・・
山という生物が、まるで動脈や静脈のように張り巡らせた木々の幹や根は、毛細血管のように細かく枝となり葉という細胞を分裂していく。その自然の恵みが砂を土と変え、様々な動植物の糧となる。
木を伐採し錬金したコンクリートを敷き詰めて、鉄の塊に石から抽出した油である炭化水素を注入し走らせる自動車。山からすればそれはまるで皮膚をカビらせる真菌や白癬のような存在だろう。
しかし、何をするにも田舎での活動に車は必要だ。
荷物は全て引っ越し業者に頼み、あなたはまた車で数時間かけて目的地へと向かう。仕事は一旦、長期休暇を貰ったが状況次第では辞めることも覚悟の上で、長距離運転で生まれ故郷へと帰省をしている。
義理の叔父の話を聞いてからは、この長いトンネルを見ると別世界への入口に見えてしまう。生唾を飲み込みながらハンドルを握る両手には汗が、フロントシートにずっと座っていたお尻には余計に汗が”ジワる”のを自身で感じる。
トンネル内によくある、等間隔に配置されたオレンジ色の低圧ナトリウムランプが、ボンネットとあなたの両腕をリズミカル照らす。その点灯が地獄への秒読みを刻むかのように、あなたを何かが受け入れていく。
最後の直線コースに差し掛かる。前方の遠い先にトンネルの出口が小さく見え、ここを出てしまうとなんだか一生、もう引き返せない気がしてくる。なんとなく微かに踏み込むアクセルを緩めてしまっている自分がいた。
トンネルを抜けると雪景色が・・・なんてことは無く、そうであれば大分と気が楽だったかもしれない。まだ雪が積もるような季節ではなく、肌寒いだけの時期が続く。山々は緑葉と紅葉がちり散りとなり、マヌケな顔をしている。
あなたは確固たる決意を込めてこの地へとまた帰省しにきましたが、心のどこかではまだ逃げ出したい気持ちも燻り蠢いていました。その嫌悪感。それは得体も知れない『モノ』への、『おもどりさん』への恐怖なのか。未知なる未来への不安からか、それとも叔母への罪悪感からか・・・・・・
それらの現実から、そしてあの『視線』から、どちらからも逃れることはできない。そう悟った。
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