【小説】『Dystopia 25』~楽園~Phase Ⅴ
The Three Chosen part Ⅴ
「えーっと、・・・これ、大丈夫?録音されてる?」
「・・・はい、大丈夫です、OKです」
記者のアシスタントらしき人物がオープンリールデッキのセッティングを終えて、録音を開始している。
「えー・・・では、初めてよろしいでしょうか?」
「はい、いいですよ」
ロキッチは緊張することもなく、余裕の表情と態度で応対していた。
「では、ロキッチ教授、今回は今現在行っている”治験”についてお伺いしたいのでが・・・すいません、我々はもう十分熟知してはいますが、記録として教授の方からご説明、願いますか?」
施設内部では医師と呼ばれているロキッチだが、世間体としては教授という肩書を名乗っている。
「ゴホンッ・・・ええ、いいでしょう。先ずはきっかけとしましては御社が毎週?毎月?刊行されている雑誌の小さな企画から始まりました。一般人が自由にフリー投稿できるスペースにて、二名の自称『マリア』『聖母』だと進言されるご婦人方の討論から、その後の話し合いや接触を図る内にその妄想・・・もとい、自己意識の改善、解消されたとお聞きし、本格的な心理学の見地から研究をし新たなる治療法として立証するために、私どもはスタッフ一同、立ち上がりました」
「素晴らしい志と行動ですね」
「ありがとう。そうして我々は聖母投稿の時のような自称、『預言者』『神』『救世主』と名乗る三名の男性の協力を得て、現在も治療中であります」
「現状はどういった状況でしょうか?」
「非常に順調です。三名が同室で暮らし、何事もなく治療へと向かっていますよ」
「意見の食い違いやお互いへの嫌悪感などから、争いには発展していませんか?」
「ええ。我々の管理下の元、厳重にそして安全に実施していますので、そういったトラブルは無縁ですよ」
「三名、もしくは二名と、その自称者たちはコミュニケーションは取っている状態でしょうか?」
「ええ。定期的な面談、対話、そして私を中心とした討論会なんかも実施し、円滑にお互いがコミュニケーションが取れるようになっております」
「教授ご自身で話し合いを?それは安心できますね」
「流石にこの仕事は重要かつ重大ですからね。助手や素人には任せることは出来ないよ」
ロキッチは不敵な笑みを浮かべながら鼻で笑う。
「もしよろしければ、その治験模様を見せて頂けませんか?」
「全然いいですよ。是非起こしになって下さい」
「ありがとうございます、次回のインタビューではお邪魔させて頂くかもしれませんね」
記者はアシスタントに向かってサムズアップのサインを送った。
「お待ちしてます。是非、我々は先進的で先見の明をお持ちな善意あるスポンサー様を随時募集しておりますので、そちらも何卒・・・・・・」
Surface War. After that
「・・・兄さん!!」「「レイア様!!」」
ウェルバーとレイアは、それぞれの可愛い部下、身内の待つ地下室へと直行していた。
「どうだったの兄さん!?こうして無事だってことは・・・・・・」
「ああ、終わったよ」
ライトは逞しいウェルバーの胸板に向かって飛びついた。続いて三人の側近、リサ、パメラ、セーラもレイアを抱きしめに涙ながら囲う。
「・・・ウェルバー、頼みがある。この子たちをここ第3から連れ出してくれないか?」
「・・・お前、レイアはどうするんだ?」
「私は・・・ここで少し残って後始末がある。流石にこれでケツを捲って逃げるだけって訳にはいかないからな・・・・・・」
「おい、だったら俺も残ってお前を護衛するよ」
「だめだ。保守の過激派ってのはどこでもバックから根を回すものと相場が決まっている。今回のようにな」
「しかし!」
「頼む・・・なに、私の退陣の表明と次の代表の選定をするだけだ。リベラル自由同盟も保守過激派フェミス党も、そうなれば次の候補者を立てるのに必死になるはずだ。そうすれば逃げることも用意になるだろうし、もし次の代表が中立派ではなければどちらか片方、派閥の追っても無くなり逃亡が楽になる。更に、好色男爵の野郎が噛んでいたということは、どちらかのバックに第2が完全に関わっている。必要となればその尻尾を掴んでおくか・・・・・・」
「おい、レイア。お前はもう代表で無くなればただの俺の妻だ。もうそんなこと考えなくてもいいんじゃないか?」
ライトを筆頭にその場の他四名は、ウェルバーの言葉に目を丸めた。
「・・・ふふ、そうだな。しかし、ケジメは付けないと。ここの民も、多くの私の家族だ。両手離しで放ってはおけん。それに、間違いなく報復や暗殺、危険分子として狙われるのは私とウェルバー、あんな大立ち回りをした私たちだ。そのターゲットがずっと同じ場所に居るのは敵としては願ったりだろう。その二人は別行動をしてれば敵も分散、もしくは片方しか狙わない可能性がある。その方が安全とも言えるだろ?」
ウェルバーは考え込んでしまった。
「ここの中立派はみんな私の仲間だ。優秀な兵士ばかりだから安心してくれ。なんなら私の演説を素直に聞いてくれたリベラル派がいたとすれば、そんな彼女達も味方になってくれるかもしれん」
リサが話を割って入ってきた。
「・・・なんだか分かりませんが、凡その察しは付きました・・・ではレイア様。私も残ります。ここの参謀として、最後までレイア様の補佐を全うさせて下さい」
「リサ・・・お前・・・・・・」
「レイア様も、ここの政治の全てを把握している訳ではないでしょう。私が必要となる場はすぐに訪れますよ」
「しかし・・・巻き込む訳には」
「お願いします。私にとってもここの者は家族です。実際に親族も多く居ます。それらをレイア様と同じく放ってはおけません。是非、ご一緒させて下さい」
「リサ・・・分かった。とにかく無理はしない。ただ引退しここを抜ける。滞りなければお前も近い親族と共にここを去るつもりでお願い。詳しい話は後にする。ありがとう、リサ」
「パメラ、セーラは第2、第4出身者だし、ここに親族なんて居ない。お前たちはとにかくここにいれば危険だから、この男に着いて行ってくれ」
「「はい、分かりました」」
「・・・ウェルバー様。レイア様には私が着いてます。この命に代えてもお守りしますので、どうか、パメラとセーラをよろしくお願いします」
リサが深々と頭を下げた。
「・・・そうか・・・分かった。レイアを頼む。この二人は任せておけ」
そう言うウェルバーだが、その表情にはまだ少し不安は拭い切れてはいなかった。
ライトは一人、ずっと輪に入れずにキョトンとしている。
Factionalism
「・・・なるほど、そういうことがあったんだね。凄い、レイアさんカッコいい!!」
第3からは例の抜け穴を通って、夜明けの森へと抜け出した四人。そしてどこへ行くかも定まらずに歩いていた。とりあえず全員が一晩中、奮闘していた疲れを安全に癒せる寝床の確保場所を探しながら、ウェルバーがライト、パメラ、セーラへ何があったかを説明していた。
「本当に大丈夫でしょうか・・・レイア様」
パメラとセーラが心配そうにしている。
「なに、あのレイア様だぜ?あいつは俺が惚れた女だ。絶対に大丈夫。その強さはお前たちも俺以上に知っているだろう?」
ウェルバーが自分にも言い聞かせるかのように不安げにしている二人に勇気づける。
「そ、そうですよね!あのレイア様が何かあるはずがありません。ありがとうございます、ウェルバー様」
「・・・その、『様』っての、止めない?そんなに俺ら年は変わらないと思うんだけど・・・・・・」
「いいえ、レイア様の旦那様ですよね?なら尚更です!」
パメラもセーラも同じような目と、前に手を組んだ姿勢のいい立ち振る舞いでウェルバーを尊敬の眼差しでみつめていた。
「・・・ったく、やりづらいなぁ」
「まぁいいじゃない、兄様。慣れだよ、慣れ」
「んー・・・お、丁度いい木の並びだな」
そう言ってウェルバーは空を見上げていた。その先はただ単に三本の木が三角状に等間隔で並んでいただけだった。
「何が丁度いいのですか?」
「この木の上で、いったん休もう」
「ええ?!この上で・・・ですか?」
「ああ。どうした?何かあったか?」
「すいません・・・私、高所恐怖症で高い所が苦手で・・・・・・」
セーラが申し訳なさそうに言った。
「そうか・・・じゃあ、もう少し歩いた所に獣しか知らないような洞窟がある。そこまで行くか。みんな、まだまだ歩けるか?」
「「はい!!」」
なぜかライトも一緒にその解答に返事をする。
Sexual Preference
野生の動物が住処にしそうな洞窟で、四人は隠れながら休息していた。パメラ、セーラの女性陣は心身共に疲れ果て、安らかに眠っている。ライトは今後のことやこの世界について考えることが多すぎて、疲れてはいたが眠ることが出来ないでいた。ウェルバーと話をしたくて二人きりになる期を図っていたのもあった。
「・・・兄さん、これからどうする?」
「ああ、俺もずっと考えてはいるんだがな・・・答えが出ないんだよ。第6に帰ってもセンターに狙われるだけだしな」
「・・・結局、第3の争いは男女の戦いであって、センターとかフォレスターとか関係なかったもんね」
「レイアには第6の現状とセンター教についても伝えておいた。注意も含めてな。参謀の・・・リサが敬謙なセンター教徒だ」
「ええ?!・・・そうだったんだ」
「リサ本人が深く繋がりがあるかどうかは分からん。コロニーが違うと”分派した同教”ってな感じだしな。もしかするとこの第3の紛争が落ち着いた時、俺たちの指名手配書でも張り出されているかも。それまでに俺たちの居場所も確保する必要があるってのは確かだ」
「・・・ねぇ、チェバラ先生探しとセンターから身を守るって二兎を得るんだったら、第4に協力してもらうってのは?前にフォレスターと争ったって言ってたじゃない。じゃあフォレスターについて僕らよりも情報があるかも」
「いや、第4は・・・だめだ」
「どうして??」
「・・・まず、第5は俺たち第6の隣だ。第7もそうだが過激派センター教の手が伸びるのも早い。そもそも、最初から伝達されていた可能性も高いだろ?照らし合わせながら『暗殺』という行動をされていたとしたら、速攻”お縄”かもしれない。隣接しているコロニー同士は、その意思が反発か同調するもんだ」
「・・・うん、僕もそこはそう思うよ」
「第4は・・・一応に近いってのもあるが・・・んー」
「なに?どうしたの??」
「俺は大丈夫だが・・・ライト、お前が危険だ」
「どうしてよ?第4の木こりとかとは仲が良かったでしょ?」
「ああ。・・・えー、第4について、お前はどこまで知っているんだ?」
「ええ?だから、フォレスターのデモとかで大変で、男が多いんでしょ?」
「男が多いって、ことは?第3は女だらけだったよな?」
「ああ、うん、男の世界ってことだよね。リサさんからも聞いたよ?」
「異性との関わりを経ったのが、第3と第4ってことだ。つまり、それぞれ同性が好きなんだよ」
「うん」
「・・・だから!お前は・・・恐らく第4では女みたいのものだ」
ウェルバーは後半の言葉を窄めた。
「はぁ?!・・・いや、確かに僕も女の子が苦手だよ?!だからって僕が女の子になるわけないじゃないよ!」
「いや・・・お前がその気があるかどうかなんて関係ない。もちろん、それぞれの趣味趣向はあるだろうが、お前は比較的、多くの第4の民にとっては標的、というかモテモテ、だろうな」
「そうなの?!全然、自分では分かんない・・・なんで兄さんはそう言い切れるんだよ」
「・・・さっきの木こりの奴とか、何人かの林業仲間がいるだろ?その第4の何人もから、いつもお前を紹介しろって言われてたんだ・・・当然、ずっとそれを断ってきてたんだ」
「そ・・・そうだったんだ・・・え、どうしよう・・・・・・」
「まぁ、つまり第3とかの女子、この二人のような娘が第2のチーターの群れの中に放り込まれるようなもの・・・と言えば分かり易いか?まぁ、もしお前が”その気”があるのなら話は別だが、な」
「あ、いや、大丈夫です、ごめんなさい・・・ん?でもなんで、兄さんは大丈夫なの??」
「言ったろ?第4の人にも趣味趣向があるって。俺みたいな”ゴツい”のが良いってやつも中にはいるよ。でも、お前のような方が受容があるんだって。後、襲うって思考であれば腕力で勝てそうなのをターゲットにするだろうしな」
「・・・なるほど・・・なんだか怖くなってきた・・・・・・」
「だから、第4は二つの意味で、無しってことで」
「か、かしこまりました・・・無しってことでお願いします・・・・・・」
Abyss
「レイアよ・・・本当にそれでよいのか?」
「はい。迷いは一切ありません」
「・・・分かった。上老院の方々へもそう伝えてみよう。結果がどうなるのかは私にも分かりませんよ」
「前任帝である貴女様からお伝え頂くだけで十分です。心残りとしましては、私を選任して頂いた貴女様への期待に答えれなかった事。それだけが悔いてなりません」
リサは事の経緯を黙って聞いていた。
「よい・・・今回の反乱はただの反乱では無かった。第2の侵略、そしてそこに陰で糸を引く者、それらを最小限に抑えた。表向き、そなたの功績は見えぬが、わらわは解っておる」
「寛大なそのお心と、聡明で博識な見解、誠にありがとうございます」
「問題は後継者じゃな・・・恐らくはこの流れ、フェミス党の中でも更に中枢からのバックアップを得ている”犬”が指示を集めるだろう」
「・・・パトラ・・・ですか」
「第一候補として、そうじゃな。他にも数人いるが、パメラの姉が有力じゃろう」
リサがピクっと反応する。つい声が出そうになるのを必死に抑えた。
「私と致しましてはここに居るリサを推薦します。我々の意思を継ぎ、彼女の知性、センス、冷静な判断力は私をも凌駕します」
「能力や素質は十分だろう。問題は支持者・・・ぬしの周辺で働いていた者はリサの素性は知れていようが、民衆と要人どもには顔が効かん」
「そこを是非、貴女様のお力で・・・・・・」
「・・・時間が無さすぎる。フェミス党も自由同盟も、この期を逃すまいと急かしふためくだろうて。フェミス党のパトラ。リベラルのリベルタス。この二人と同等に知名度が必要だ。この二人さえ居なければ、他はリサ同等じゃろうて」
「・・・リベルタス・・・・・・」
レイアとリサは前任の女帝の部屋から退室し、二人ともが神妙な面持ちで歩いていた。
「・・・あの、レイア様。どうして私なんかを?」
「・・・私たち二人ともが助かる道だよ。もうこれが最終手段であり、最善策でもある」
「・・・・・・ああ、なるほどです」
「本当にお前の能力を買っているのもあるさ。だからずっと私の片腕として今まで頼ってきた。私の親族、家系はもう当然、民からの信頼は得られずにダメだろう。そうなったら、リサ、もうお前しか・・・悪いな。勝手に、しかも巻き込んでしまって」
「いいえ、不謹慎ながら、認めて貰えたことに少し嬉しかったのもあります」
「第6の・・・ウェルバーの話を聞くと、こちらも真正面から正々堂々といつまでも正攻法では生きて行けぬとも感じた・・・私はこのままウェルバーと共に裏の世界へと周り、第3の為、主のために動こう。オーヴェルという第6の次の代表候補が居る。彼はウェルバーとは親友、兄弟みたいなものだ。手を組むとしたらオーヴェルだ。もし、ヘクトールという候補が当選したら様子を見ろ。リサ・・・大変だろうが、お前も表舞台で活躍をしていてくれ。その方が”お前が”一番安全だ」
「レイア様とウェルバー様は・・・・・・」
「お前たちが体勢を立て直してくれるまでの踏ん張り時だ。なんとしても生き残るさ・・・森の深淵や第8コロニーに乗り込んででもな」
Exclusion of foreigners
「じゃあさ、この際に第1に行くってのは?」
「・・・んー・・・・・・」
「第2は兄さんが例の”有名人”を殺っちゃたんでしょ?絶対にその報復とかあるじゃん。んで、リサさんとかと話してた時にさ、パメラさんが第2出身者だから第1について聞いていたんだけど、謎が多くてさ。第1の現状を見に行く偵察がてら、運が良ければ隠れていられるかもよ?」
「・・・んー・・・・・・」
「・・・んー・・・・・・」
「・・・俺も、第1第8とは縁が無くてよく分かってはいない。第8は前回フロア抗争以降、閉鎖という鎖国を開始したから尚更だが、俺たち第6からすれば第8から向こう側、1も2も世界の反対側みたいなものだからな。隣である第2ですら詳細が分からないとなると、保守派センター教の熱狂信者しか知り得ないだろう。凡そ、センター教の上層部が各コロニーの中心部に多く住み、SCタワーを守るとういう名目で関所よろく、配給も管理し上層界と各コロニー、フロアとも情報交換をしているから、都合の悪い情報や混乱を招くようなことなんかはわざわざみんなには言っていないんだと思う」
「パメラさん曰く、第1は『廃れている』らしいんだ。廃墟エリアの空き家なんかに隠れて一時的な根城にして、レイアさんを待ちながらまた情報を集めようよ。僕らが安心して暮らせる場所はきっとあるよ!」
「ああ・・・そうだな。一応、二人の意見も聞いてからだな。俺たちも休んで、明日に備えよう」
「ああ。僕が前半見張っておくから、兄さんは先に寝てて。何かあれば直ぐに起こすから」
「分かった。おやすみ」
パメラとセーラが目覚めた翌朝、ウェルバーが採取しておいた朝食とは言えない程度の木の実や自然に実った果実なんかを食べながら、ライトは二人で話し合った結果を提案した。
「・・・私は・・・申し訳ありません、少し反対です」
そう言ったのはパメラだった。続けてパメラはなぜ反対なのかを言い出す。
「あ、本当に少し・・・なので決定事項でしたら従いますしちょっと注意して下さいね、って意味でもあるんですけど・・・みなさん、第8の『噂』は聞いてますか?」
「「???」」
「俺たち第6は完全に反対側だから、センター教の情報しか入ってこないんだ。おおよその、当たり前なことしか知らないと思う」
「そう、ですよね。私たちも第6や第7のウェルバーさんから聞いた話と風俗情報とでは大分、違っていました。きっと同じぐらいの差があると思います。私たち第3の噂も、ろくでも無かった事でしょう」
ライトは関係が無いのに、なんだか照れくさくなっていた。
「噂なんてものは、必ず”尾ひれが付く”ものだ」
「・・・第7でも聞いたように、プローバーの存在なのですが第1でも多発していると、以前から言われています。そして、第2はそんなプローバーの退治、対応を一番として注力しておりまして、その影響で厄介払いも含めて此度の第3コロニーでの表層戦争にあの『好色男爵』を派遣したと思われます。もちろん、その特性を利用しバロンが精力的に行動をするだろうと見越して、ですが」
「・・・なるほど、だからか。”カッコつけ”の第2からの使者があんなクソ野郎だったのに違和感があったが、そういうことだったのか。辻褄が合ったぜ。こっちとしても好都合ではあったが」
「あ、もちろん証拠なんてないですよ・・・私の推測、勘です。ウェルバー様たちからの話から聞きました、そのバロンの参謀がウェルバー様、レイア様の演説で素直に軍を撤退させたのも、どう転んでも第2からすれば好都合だった。裏を牛耳っていたバロンの死、そしてレイア様が男性を認めたという行動を公で行ったこと。第2にとって、力でねじ伏せたとしても必ずその反動が来る。第3も完全に敵に回すとなると挟み撃ち状態となっていた。ならば、と今の状況に賭けたと思います。だって第3の内乱だけで第2の被害が全く無くなる訳ですからね」
「確かに、あの参謀はクソ野郎に付くような目と口調ではなかったな。あいつが第2からの本当の使者、スパイか」
「第1、第7のプローバー・・・第2の過剰な反応・・・恐らく、第2は第3の静圧、及び結託で戦力が欲しかった・・・アマゾニスとしての即戦力だけでなく未来の兵力・・・もっと子供達が必要だった・・・プローバー、彼らはどこからどんな理由があり誕生するのでしょうか?」
「・・・第8・・・共通点としては干渉し合う、あいだにある第8ってことしか無いですね」
ライトが確信を付く。
「・・・まさか、ライト」
「恐らく、皆様が聞いている話、噂と言えば『第8が独立宣言した』ではないですか?」
「・・・ああ」
「第2での第8の噂とは、『鎖国”させられた”』・・・です」
Assassin
レイアは真っ黒な出で立ちとなり夜の闇に溶け込んだ。
第3の兵士、戦士として一番に重要なスキルとしては『暗殺術』である。どうしても男性と真っ向から戦うとなると、腕力、そして体格体重差で圧倒されてしまい頂上決戦では負けてしまう。兵力としても第3は女性のみの部隊では、頭数も男女ともに兵士として抱えれるその他コロニーとでは分母数と、それに比率し秀でた能力の優秀な者の数も変わってくる。どうしても不利な出だしとして、それを補えるスキルが暗殺、隠密、そして奇策奇襲。
その中でもレイアの暗殺術はその右に出る者すら居なかった程。前任の女帝の時に仕え何千という数えきれない要人、候補、反逆者を殺してきた。その恩恵で前任は長く君臨し今でもその権力と顔が維持できていると言っても過言ではない。前任女帝は徹底的な保守派として誰も信用が出来ないでいた。身内ですら信じることができず、ずっと仕えてきたレイアだけが唯一の信頼できる者だった。故にレイアしか後続は許さず、ポッ出だったレイアを強制的に女帝へと任命し裏を支配し続けずっと自らの身すらも守り抜いてきた。
レイアもそのことは分かっていた。
特段、それを邪魔だとも疎ましくも思うことは無く、暗殺者として裏の世界での功績を認められ、表舞台に引っ張り出されたとしても死ぬ気で頑張ってきた。当然、前任の政治力としてのバックアップがあってこその現在であり、お互いが無いモノを補ってこれたことこそが最高のビジネスパートナーでもあった。が、その反面、敵も多くて大変でもあったが。
ただ、今レイアは闇に隠れて思う。自分はこの裏の世界、暗殺者としての自分が好きだと言うことを。
実際に、レイアには表舞台、政治とその長としての自分の素質に疑念を持ち、前任の指示待ちなことに楽しみと幸せを見いだせないでいた。残酷な世界として道端で無暗に惨殺されることも、女として蹂躙されない安心した舞台でいられることは、誰もが羨み目指していたことなので贅沢な想いだというのも分かっている。しかし、定期的な争いの場では常に前戦に趣き、自らを奮い立たせてきたその裏側では暗殺者としての血が顔を出していたことが大きかった。その背中と志に、リサもパメラ達みんながレイアを慕い尊敬の気持ちであることにレイアは気づいてはいない。いや、彼女らのその好意には気づいてはいるが、自らが違う意図、まるで獣のような不純な動悸であることでその後ろめたさがずっと裏切っているのではないか・・・というその自責の重みに耐えられなくなってきたのだった。みなの眼差しがキラキラと輝き、純粋で無垢であればある程、暗殺者としての影を落としていく・・・・・・
レイアの目の前には一人の女性が眠っている。
そこにたどり着くまでに、衛兵や護衛兵を何人か殺してきた。苦痛の声一つ上げさせずに。
目的を目下に見下しながらレイアはまた思う。
《チーターと私は、どう違うのだろうか・・・・・・》
今まで多くのチーターを女帝として排除し、殺してきたからこそ分かる心境であった。チーターどもは意中の人物を付け狙い、尾行し、そして今のレイアのように侵入しては自分の好き放題してから最後には殺す。
《さほど変わらないのではないか・・・・・・》
チーターどもの大半は、最初からそのような行動なのだろうか。そんなことまで考えてしまう。もし、通常の恋愛、結婚のように被害者側が受け入れ、チーターのその思いを受け止めていたとしたら、チーターどもは殺戮までは行わないのではないだろうか・・・と。
《いや、違う。奴らとは意思が違う。奴らはただの快楽を求めて。私は大義の為に!》
グサッ!!
左手で口を押えつつ、喉元にナイフを深々と突き立てる。そして気道と共に頸動脈を切り裂き両手で口を塞ぎ続けた。
ボタッ、ボタボタボタッ・・・・・・
口を押えるので首が少し開き、頸動脈から吹き上げる血が床へと降り注ぐ音が静寂の中を支配する。
目的がピクリとも動かなくなってから、そっと手を離し立ち上がる。
《・・・結果は、何も違わない・・・ただ、私は弔い敬う。そして私に死が訪れたその時、全てを償おう》
レイアは血だらけの寝床と遺体を振り返り、一礼をしてまた闇へと帰っていった。
Loyalty or love?
「・・・・・・パトラ」
「・・・ああ、リサ!もう、久しぶりだね。全然きてくれないんだからぁ」
リサは夜々、パトラの部屋へとやってきた。パトラは直ぐにリサの唇にキスをして顔を見つめる。
「どうしたの?ってか、大変だったよね、リサは大丈夫だった?」
「はい。レイア様が迅速に匿ってくれて、この通り傷一つ無く」
「・・・ふん、レイア様、ねぇ」
パトラは怪訝な顔をして寝床へと踵をかえした。
「あの女も、どうやら無事だったみたいだね」
「パトラ・・・もう、そんな言い方しないで」
「リサはどっちの味方なの?パメラは元気?しっかり”やってる”?」
パトラはリサの胸を弄りながら妹の働きぶりを聞いてきた。
「ああ・・・はい、パメラも元気です、よ」
「あの子は臆病だからねぇ。いつ”寝返る”か分からないから、定期的に自分の使命を忘れないように口酸っぱく言っててよね?」
どんどんとリサの服を脱がしていき、いつのまにか一糸纏わぬ姿へとされていた。リサは恥ずかしくなり局部を隠す。
「ふふふ、相変わらず可愛いわね。でもいつも最後は求めて来る癖に❤」
リサは終始、赤面した状態でパトラに身を任せていく。二人はそのまま久しぶりの再会で会えなかった時間を取り返すかのように、お互いの身体を激しく求め合い空気中の湿度を上げていった。
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